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インドニュース2026.09.24

Flipkartが「BBD」の二つの意味をコルカタのバスに載せた一手

本記事は2026年9月24日時点で確認できたインド現地の公的資料・報道をもとに作成しています。インドは税制・規制の改正が頻繁で、記載内容がその後変更されている場合があります。実際の事業判断にあたっては、所管省庁・現地の専門家など一次情報源で最新の内容をご確認ください。

インドのFlipkartが、年間最大のセールBig Billion Daysの告知をコルカタの路線バスに載せた。キャンペーンフィルムの企画はTalented、制作は制作会社のCalm Kaam。バス車体と乗車券の実装を誰が担ったかは報じられていない。施策名は「Kothaye Jaabe Dada?(どちらまで、兄さん?)」で、BBD Baghを通るバスの車体と、乗車券の2面を使う。BBDという3文字は、この街ではセールの略称ではなく、独立運動で命を落とした3人の名を冠した地名として日常に定着している。インドで販促を組む日本企業にとっては、現地の地名や言葉にどこまで踏み込めるのかを測る材料になる。

「Kothaye Jaabe Dada?」は車体と乗車券の2面を押さえた

MediaBrief(2026年9月22日)とBranding in Asia(同23日)によると、FlipkartはBig Billion Daysの告知を、BBD Baghを終点または経由地とするコルカタの一部路線バスに掲出した。加えて、乗車券にセールのオファーとQRコードを刷り込み、読み取ればそのままセールの売り場へ移れるようにしている。対象については、4媒体が「select buses」、Openが「selected」と記すだけで、台数や路線名、掲出期間、乗車券の発券枚数までは示されていない。

フィルムも1本ある。BBD Bagh路線に長く関わってきたバスの車掌が主役で、彼が街で繰り返してきた「BBD! BBD!」という呼び込みが、そのままセールの告知として響く構成になっている。行き先を呼び込む調子のアナウンスや乗客とのやり取りも素材に使われている。Branding in Asiaは、Flipkartが全国向けに掲げる「Luck Badal Sakta Hai, Yahan Kuch Bhi Ho Sakta Hai(運は変えられる、ここでは何でも起こりうる)」という訴求を、この施策で街頭に持ち込んだと伝えている。

BBD Baghの由来は1930年12月8日にライターズ・ビルディングを襲った3人の名前

BBD Baghは略称で、正式にはBinoy-Badal-Dinesh Bagh。英領期にTank Square、のちにDalhousie Squareと呼ばれた一帯で、独立後に3人の革命家の名へ改められた。Benoy Basu、Badal Gupta、Dinesh Guptaは地下組織ベンガル・ボランティアーズの一員で、1930年12月8日、この広場に面するライターズ・ビルディングに踏み込み、政治犯への過酷な処遇で知られた刑務所総監(Inspector General of Prisons)N.S.サイムソンを射殺した。サイムソンの階級は資料により大佐・中佐の両方の表記があり、肩書きも警察総監とする資料が一部にある。

建物の廊下で警官隊との銃撃戦になり、3人はいずれも逮捕される前に自決を図った。Badal Guptaは青酸カリを飲んでその場で死亡し、Benoy BasuとDinesh Guptaは自らの拳銃で撃った。Benoyは5日後の1930年12月13日に病院で死亡、傷を負って生き延びたDinesh Guptaは死刑を宣告され、1931年7月7日にアリポール刑務所で絞首刑となった。襲われたライターズ・ビルディングは、その後長く西ベンガル州政府の庁舎として使われた建物である。州政府は2013年に改修のためハウラーのナバンナへ移り、庁舎機能を戻す計画が2026年に報じられている。

コルカタの車掌が毎日口にしている「BBD」は、もともとこの3人を指す。Flipkartの施策は、同じ3文字がセールの略称でもあるという一致の上に成り立っている。地名の由来をどう扱うつもりでこの企画を組んだのかについて、FlipkartとTalentedの説明は今回の報道には出ていない。Open(2026年9月23日)は、ブランドが街の言葉を借りるとき街の記憶がどこまで一緒に付いてくるのかという問いを立てる形で、この一致を取り上げている。

全国版はLeo Burnettの著名人CM、コルカタ版はTalentedの車掌フィルム

Big Billion Days 2026に向けてFlipkartが出しているものは、これ1本ではない。全国向けには、Leo Burnett制作の「Luck Badal Sakta Hai, Yahan Kuch Bhi Ho Sakta Hai」があり、クリケットのRohit Sharma、俳優のSreeleela、Aneet Padda、Jackie Shroff、コメディアンのSamay Rainaが出演する。Storyboard18(2026年9月16日)によれば、Flipkartの成長・マーケティング統括バイスプレジデントPratik Shetty氏は、昨年の「Yahan Kuch Bhi Ho Sakta Hai」で描いた予想外の瞬間を一歩進め、その瞬間が実際に運を変えたらどうなるかを探りたかったと述べている。先行アクセスの開始は10月8日で、この著名人起用の設計はFlipkart年間最大セールが著名人を総動員、「運は変えられる」で層別に届けるで扱った。

項目 全国向けキャンペーン コルカタの施策
名称 Luck Badal Sakta Hai, Yahan Kuch Bhi Ho Sakta Hai Kothaye Jaabe Dada?
エージェンシー Leo Burnett フィルムの企画Talented/制作Calm Kaam
出演 Rohit Sharma、Sreeleela、Aneet Padda、Jackie Shroff、Samay Raina BBD Bagh路線のバス車掌
使った面 キャンペーンフィルム バス車体、乗車券、フィルム
報じられた日 2026年9月16日(Storyboard18) 2026年9月22日(MediaBrief)

同じセールに向けた2本で、届く相手の規模と使う面が違う。一方は全国の視聴者に5人の顔を見せ、もう一方はBBD Baghを通るバスに乗った人にしか届かない。乗車券という紙は、その路線に乗って運賃を払った人の手にだけ渡る。全国CMで名前を覚えてもらう仕事と、乗客の手のなかでQRを読ませる仕事を、別の制作チームに振り分けた形だ。

台数も期間も非公表、この施策をどう評価するか

この施策で確かめられるのは、Flipkartとエージェンシーが何を作ったかまでだ。対象のバスは5媒体すべてがselect buses(一部のバス)とだけ記し、路線名・台数・掲出期間・乗車券の発券枚数は公表されていない。9月22日には稼働していたことが報道から分かるが、開始日と終了時期は示されていない。効果指標も同様で、乗車券のQRの読み取り数や、そこから生まれた注文数を報じた媒体はない。フィルムの主役の車掌についても、BBD Bagh路線に長く関わってきた人物という紹介だけで、氏名や実在の乗務員かどうかは出ていない。

地名や現地語を借りる前に、Porterの事例と同じく自社の立場を先に決める

インドで現地の言葉やモチーフを広告に使うとき、先に決めておくべきものがある。物流プラットフォームのPorterは、インドで美徳とされてきた「jugaad(その場しのぎのやりくり)」をあえて敵役に置き、4言語28本のフィルムで地域と業種ごとに困りごとを描き分けた(物流Porterが「jugaad」を敵に回した広告、なぜやりくりを否定したのか)。肯定語を否定に転じるという立場を明確にし、その理由を遅延や破損という事業のリスクに結びつけている。Flipkartが触れたのは、ベンガル語の呼びかけと、独立運動で死んだ3人にちなむ地名の両方だ。Porterが扱った言葉と違い、地名には特定の人物の死が結びついている。同じ3文字を使うなら、由来をどう扱うかについての立場が問われる。

接点の置き方にも引ける線がある。コルカタでは、Tataグループのbigbasketが無人スマート自販機bbinstantを住宅街とオフィスの内部に置き、配達が届かない最後の数十メートルを機械で埋めにいった(bbinstantがコルカタの玄関先に置いた、無人の棚という商機)。Flipkartが使った乗車券も、住民の移動そのものに紙を1枚差し込む形で、生活動線の内側に接点を取っている。日本企業がインドの都市で販促を組むなら、広告枠を買う前に、狙う客が毎日通る動線のどこに自社の紙や画面を置けるかを洗い出しておくと、出せる手の幅が変わる。

まず着手できるのは、使いたい現地語や地名について由来を自分で調べ、社外に説明できる形にしておくことだ。語感だけで採用すると、その土地で長く共有されてきた記憶とぶつかる。ただしOpenは、この駄洒落をもって街が革命家を忘れた証拠とみなすのは早計で、乗客は二つの意味を同時に理解したうえで面白がれるとも書いている。同誌が問題にしているのは是非ではなく比重で、地名の有用な部分だけを取り出したときブランドがどこまで土地との親密さを主張できるのか、という点だ。

参照元

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