インドのEC大手Flipkartのアプリに、縦型のショートドラマ30本が載った。持ち込んだのは小説投稿サイトPratilipiの自社スタジオ、Double Tap Films(以下DTF)。業界メディアMediaNews4Uが2026年9月12日に報じ、Campaign Indiaが9月22日に取り上げた。施策の発表は9月中旬にあたる。
今回はFlipkartが広告枠を売る話ではなく、外部スタジオのドラマを自社アプリに並べる側に回った取引だ。
MediaNews4Uによれば、DTFはFlipkartとコンテンツ提携を結び、縦型マイクロドラマ30タイトルを提供する。当初契約は12か月、対象はインド国内に限られる。両社は期間中に視聴データを見てタイトル数を拡大する非拘束の了解も交わした。増やすと決めたのではなく、増やせる余地を書き込んだ状態だ。インドのEC企業との提携はDTFにとって初になる。
公表されていない部分も多い。ライセンス料か収益分配かという金銭条件、アプリ内での掲載場所、Flipkart側のコメントは、いずれも今回の報道に出ていない。DTF側は30本でFlipkart上最大のマイクロドラマ・カタログになるとしているが、同社の自己申告だ。
狙いとして報道に出ている説明は、DTFのIP・戦略提携担当VP、Sharlton Menezes氏の発言だ。Flipkartは動画アプリを自分から開かない層に物語を届け、自社カタログはFlipkartに購入と購入のあいだに戻る理由を与える、再獲得はECで最も難しい問題のひとつで、最後まで見たくなる物語はその解になる、という趣旨である。同氏は取引の核心を「相手のリーチと自社のエンゲージメントの交換」と表現した。
「再訪の理由としてドラマを置いた」はFlipkart側の説明ではなく、売り込んだ側の言い分だ。引用時は出どころに注意したい。
DTFはPratilipiが2026年4月に立ち上げたスタジオで、開始時点から150本超を10以上のプラットフォームに流していた。親会社Pratilipiは著者200万人、物語2,000万本、月間8億回の閲覧を持つ。
この150本超は2年足らずで作ったもので、新規脚本の発注はゼロだ。すべてPratilipi上で読者の支持を得た原作の映像化である。Menezes氏は、従来の企画開発がリスクの均衡を図るのに対し、データに裏打ちされた手法は規模を保ったまま高い成功率を出せると述べる。第一関門は読者の完読率90%超だ。広告映像は作ってから当たるか試すが、DTFは当たった話を作り直す。30本がまとめて動いたのも、1本ずつ吟味する必要がなかったからだと読める。
| 時期 | 相手先 | 内容 |
|---|---|---|
| 2026年4月 | Amazon Prime Video/MX Player/Hungama OTTほか | 150本超で立ち上げ |
| 2026年5月 | TikTok | 1年・非独占・レベニューシェア。対象は米国・カナダ・ブラジル・日本 |
| 2026年8月下旬 | Mohalla Tech(ShareChat/Moj/QuickTV) | Pratilipiの75本超をマイクロドラマ化する契約 |
| 2026年9月 | Flipkart | 縦型30タイトル、当初12か月・インド国内限定 |
TikTok案件は報道が割れる。9月12日の記事はカタログ150本を4市場へ、9月21日の記事は21本のヒンディー語作品の1年・非独占契約と書く。前提が違うため、対象4市場に日本が含まれる点だけを採る。日本語化の有無は確認できなかった。
市場規模は調査によって幅が大きい。2026年9月24日のECB参照相場(1米ドル=158.85円、1インドルピー=1.6554円)で円換算する。
| 対象 | 原文表記 | 換算 | 出所 |
|---|---|---|---|
| インド 2025年 | 300 million USD | 約477億円 | Lumikai |
| インド 2026年見込み | 1.5 billion USD | 約2,383億円 | Lumikai |
| インド 2025年 | INR 6.5 billion | 65億ルピー(650 crore)=約108億円 | FICCI-EY |
| インド 2028年見込み | INR 23.2 billion | 232億ルピー(2,320 crore)=約384億円 | FICCI-EY |
同じ2025年を、Lumikaiは3億ドル、FICCI-EYは65億ルピーと置く。同日の相場(1米ドル=95.96ルピー)で3億ドルを換算すると約288億ルピー(2,879 crore)で、FICCI-EYの650 croreの4.4倍になる。アプリ課金だけか広告や制作受注まで含めるかで桁が一つ動きうる。定義の確認が先だ。
Deadline/Varietyの集計として引かれる中国の2025年市場は94億ドル(約1兆4,932億円)で、インドの最大推計であるLumikaiの3億ドルと比べても約31倍の開きがある。一方でFICCI-EYによれば、インドは世界のマイクロドラマ・アプリDLの11%を占め、2025年第1四半期は3,500万DL・前期比113%増。人は集まっているが金額になっていない。サブスク利用者の70〜80%はUPIオートペイの継続課金だ。
AppsFlyerのレポート「State of eCommerce for Marketers in India – 2026 Edition」によれば、インドのAndroidショッピングアプリのインストールは過去2年で85%増えた。世界全体の伸びは2%である。ところが2025年第4四半期から2026年第2四半期にかけ、Androidの30日後リテンションが41%落ちた。世界全体は30%減で、インドの下げ幅が大きい。
同じ期間にインドのリマーケティング支出は42%減り、獲得の支出は増え続け、2026年第1四半期には有料インストールが自然流入を量で上回った。AppsFlyerのインド・ANZ担当ゼネラルマネージャー、Sanjay Trisal氏は、インドのインストール数は突出しているが、より大きな機会は獲得済みの顧客の側にあると述べる。
祭事セールで著名人を並べる打ち手(Flipkart年間最大セールが著名人を総動員)は短期の山を作るが、山と山のあいだは空く。その空白をドラマで埋める形だと見れば位置づけが掴める。都市単位でオフラインに出る打ち手(コルカタのバスを使ったBBD)とは時間軸が違う。
分岐は予算の置き場所だ。広告予算から出すと単価はインプレッションやクリックで評価され、視聴が伸びなければ翌月で止まる。DTFとFlipkartの契約が12か月で、増減を視聴データに預けているのは、月次で切る前提になっていないということだ。
もう一つは、自社で作らない選択を先に検討することだ。DTFの強みは制作力ではなく、当たる話をすでに持っていた点にある。日本なら、小説投稿サイトやWebtoonなど完読率のログを持つ事業者が相手になる。制作見積もりを取る前に、既存IPのライセンス料を聞いたほうが早い。
DTFはTikTok、ShareChat/Moj、Flipkartと性格の違う相手に同じカタログを横展開している。TikTokを非独占にした理由をMenezes氏は、単一のプラットフォームが方針を変えても影響が小さいためだと説明する。相手は排他性を買えない代わりに、短期・低リスクで本数を確保できる。日本企業がインドで動画を使うなら、媒体社に枠を買うより、原作元やスタジオに「商材が自然に出てくる話を数本」と持ちかけるほうが現実的になりうる。DTFはShareChat/Mojに初のブランデッド作品『THE MISFITS』を独占提供した実績もある。番組にブランドを入れる手法はインドで広く使われ(JioHotstarのクイズ番組『Play Along』)、縦型ドラマはその小口版にあたる。
提案したい一手は、自社アプリか自社ECの30日後リテンションと、直近4四半期の新規獲得費・既存顧客向け費用の比率を1枚に並べることだ。既存顧客側が薄いと分かれば、Flipkartの30本・12か月に対し、日本の中堅ECなら5〜10本・6か月でも検証できる。指標は再生数ではなく、視聴した会員としない会員の30日後の再訪率の差に置く。