インドのスペシャルティコーヒーチェーン、サードウェーブ・コーヒー(Third Wave Coffee)が2026年9月24日、250号店をウッタル・プラデーシュ州の州都ラクナウ、ハズラトガンジに開いたと発表した。FY27(2026年4月〜2027年3月)までに約320店へ広げる方針も示す。インドのフードサービスを日本から見るとスターバックスの店舗数に目が行くが、どの都市まで下りてきたかを測るならこの会社の出店先リストが使える。
CEOのRajat Luthra氏は250店を「10年の歩みのなかで大きな節目」とし、次の10年では新しい市場・商品・セグメントを開拓しながら、バリスタとフード&ビバレッジの開発、テクノロジーで体験を進化させると述べている。目標はFY27までに約320店で、あわせて商品開発とオペレーション能力への投資を続けるという。なおラクナウを250号店に選んだ理由は、発表文では説明されていない。
発表文は出店先の都市名を並べている。直近に入った市場としてアグラ、コルカタ、ビシャカパトナム、ジャランダルなどを挙げ、当月中にルディアナ、マニパル、コーチへ広げ、今年度中にデヘラードゥーンとアムリトサルを予定する。
日本側が誤読しやすい点を潰しておく。同社自身は「メトロ、Tier1、Tier2の各市場にまたがる展開」と説明しており、直近の参入先にはコルカタのような大都市も入っている。発表文が示す出店方針も「新しい市場に入り、既存市場での存在感を高める」ことで、都市の階層で絞り込む書き方にはなっていない。都市名の並びを見て「Tier2に舵を切った」と要約すると一段ずれる。
2024年5月の業界メディア報道では、ムンバイ・サンタクルズに同市23店目を開いた時点で「100店超」とされていた。創業は2016年、ベンガルールのコラマンガラにロースタリーと1店舗を構えたのが出発点で、創業者はSushant Goel、Anirudh Sharma、Ayush Bathwalの3氏。2024年5月21日から2026年9月24日までは856日、約28.1カ月で、この間に約150店が増えた計算になる。月あたり約5.3店だ。
FY27末を2027年3月31日とすると、250号店の発表日から188日、約6.2カ月しかない。ここで約70店を上積みするなら月約11.3店で、直近2年強の約5.3店からペースはおよそ倍になる。ただしこの2つはどちらも公表値を割った本記事の試算で、同社が月次の出店計画を示しているわけではない。起点の「100店超」は下限の書き方で、実際の増加が150店を下回れば過去のペースは月5.3店より遅くなる。
目を引くのは、スペシャルティコーヒーを手の届くものにするという当初のビジョンが、インド各地の消費者にとって「日常の一部」になった、という整理のしかただ。店舗は仕事・交流・余暇の場と位置づけ、作業しやすい設備と座席を備えるという。
比較対象に、タタ・コンシューマー・プロダクツが2026年7月24日に開示した6月末四半期の実績を置く。タタ・スターバックスはインドで498店で四半期を終え、新店は4店。うち2店はコルカタとニューデリーのReserve店舗だった。売上は前年同期比11%増で、けん引役は既存店売上高の伸びと説明されている。498店のチェーンが四半期に4店、250店のチェーンが半年で約70店を狙う。同じ「インドのカフェ市場」と括っても、両社がやっていることは違う。
Blue Tokai Coffee Roastersは2025年9月19日、GST評議会(第56回会合)で承認された飲食サービス向け税率の見直しを受け、全カフェ・全メニューで値下げすると発表した。当時の店舗数は「180店超」。共同創業者兼CEOのMatt Chitharanjan氏は、税制の簡素化で顧客により多くの価値を還元できると述べた。
| ブランド | 確認できる店舗数 | 時点 |
|---|---|---|
| タタ・スターバックス | 498店 | 2026年6月末 |
| サードウェーブ・コーヒー | 250店 | 2026年9月24日 |
| Blue Tokai | 180店超 | 2025年9月19日 |
3社は時点がそろわず順位づけには使えない。読めるのは、200〜500店の帯に複数のプレイヤーが同時に入ってきたという事実だ。
確認できるのはここまでで、1店あたり売上や投資回収期間といった店舗経済の数字は含まれていない。「ラクナウに出したのだからTier2でも黒字が出る」という推論は現時点で裏づけを欠く。資金面で確認できるのは、2024年5月の報道にある3,500万米ドルのシリーズCをCreaegisと既存投資家WestBridge Capitalが引き受けたという記述だ。
価格の手がかりになるのは袋売りのほうだ。以下は2026年9月25日時点の自社EC上の小売価格で、業務用の卸値でも店頭のドリンク価格でもない。円換算は1ルピー=1.6554円(2026年9月24日付の欧州中央銀行参照レート)による。
| 品目 | 内容量 | 価格(INR) | 円換算 |
|---|---|---|---|
| 焙煎豆・粉(Monsoon Malabar) | 250g | 700ルピー | 約1,159円 |
| 焙煎豆・粉(Vienna Roast) | 250g | 650ルピー | 約1,076円 |
| イージーコーヒーバッグ(10袋) | 計100g | 500ルピー | 約828円 |
イージーコーヒーバッグは1袋あたり50ルピー、約83円になる。なおインドの単位は1 crore=1,000万ルピー。タタ・コンシューマーの同四半期売上5,349 croreは534億9,000万ルピー、約885億円で、croreを「億」と読み替えると10倍ずれる。
店舗数のとり方にも注意がいる。自社ECのカフェ一覧は2026年9月25日時点で「75+ cafes in 7+ cities」と表示し、並ぶ都市は8市、ラクナウもコルカタも載っていない。「75+」は下限の書き方なので発表と矛盾はしないが、最新の数には追随していない。数字は日付の入った発表や報道から拾いたい。
半年で約70店を開けるなら、エスプレッソマシン、グラインダー、製氷機、冷蔵ショーケース、店舗什器、テイクアウト用の包材、シロップやソース、冷凍のベーカリー・デザートがまとめて要る。この規模のチェーンの購買は本部一括になるのが一般的で、250店ともなれば標準仕様が固まってくる。裏を返せば、仕様が固まりきる前の今が、部材や原料を規格の側に入れられる窓になる。
ここで日本側がやりがちなのが、都市名を見て「地方都市向けだから仕様を落とすはずだ」と判断することだ。同一メニューで横展開するチェーンが、都市によって抽出機や什器の仕様を落とすことは考えにくい。落ちるのは席数や面積のほうだ。標準化した店舗を小刻みに増やす構造は、ジャイプル発の格安カフェNBCが9年で45都市に広げた出店術と見比べると輪郭が出る。
同社はカフェの外側で、デザート専門ブランドのThird Rush Dessertsを立ち上げている。展開先はベンガルールとコルカタで、他市場へは段階的に広げる計画だという。冷凍・チルドのデザートや製菓原料を売りたい日本企業なら、250店のカフェ網よりこちらの立ち上がりを追うほうが接点を見つけやすい。
オンライン発のブランドが店舗網に降りる動きはハイデラバード発Neeman’sが3年で500店を掲げた事例に、UP発の小売がより小さい都市へ下りる型はCitykartが200店に到達した展開に出ている。
開業済みの店とこれから開く区画を同じ出張で見れば、標準仕様と立地条件を一度に確認できる。
| 都市 | 州・連邦直轄領 | 発表時点のステータス |
|---|---|---|
| ラクナウ(ハズラトガンジ) | ウッタル・プラデーシュ | 250号店として開業 |
| アグラ/コルカタ/ビシャカパトナム/ジャランダル | UP/西ベンガル/アーンドラ・プラデーシュ/パンジャブ | 直近に入った市場(ほかにもあり) |
| ルディアナ/マニパル/コーチ | パンジャブ/カルナータカ/ケララ | 9月中に出店予定 |
| デヘラードゥーン/アムリトサル | ウッタラーカンド/パンジャブ | 今年度(FY27)内に予定 |
やることを一つに絞るなら、2027年3月末の約320店という期限を営業カレンダーに置き、逆算で本部の購買窓口に当たる。半年で約70店を開ける前提なら什器・機器・資材の発注は年内に動いている可能性が高く、新規サプライヤーの評価に入るならサンプルと価格表の提出が先になる。ラクナウやアグラの既存店で現物を見てから、ベンガルールの本部に当たる順番が現実的だ。