インドの衛生用品メーカーPAN Health(グジャラート州ラージコート)が、ベビー用おむつブランドLittle Angelの販促として、インド各地から10人を超える母親を自社工場に招いた。9月15日付の発表によれば、母親たちは製造ラインと品質管理の工程を歩き、34項目以上の検査を見せられた。広告専門紙Campaign Indiaは9月23日、「ラージコート工場見学で品質を前面に出した」との見出しでこれを取り上げている。同紙の記事本文は会員向けで、公開は見出しと要約までだ。成分も構造も見えにくい商品で、訴求文ではなく工程そのものを素材にした。
キャンペーン名は「Maa Ne Dekha. Tabhi Toh Bharosa Kiya.(母が見た。だから信じた)」。発表文によれば、招かれた母親たちは製造・衛生管理・品質保証・製品テストの各段階を順に見て回り、そこで実施されている34項目以上の品質チェックの説明を受けた。検査の例として名前が挙がっているのは吸収性、柔らかさ、フィット、漏れ、肌に跡が残らないかの5つである。Campaign Indiaの記事要約は「34項目の品質チェック」と丸めており、発表文の「34項目以上」とは表記が少し違う。
発表文が実演の一つとして挙げているのが、ロボットを使った漏れ試験(robotic baby leakage test)だ。吸収・漏れ・肌跡のデモも複数回行われている。母親が手で触れたのはプレミアム帯の「Soft & Pure」パンツで、柔らかい腰回りとカフを謳うNo-Marks Comfort、吸収の速さを謳うMaxAbsorb Tech、薄さを謳うAirSlim Fitの3点を、説明ではなく現物と試験で示した形になる。同社CEO兼MDのChirag Pan氏は発表文で、主張だけで母親の信頼は築けないとして、工程を見て質問してもらう狙いを述べている。
PAN Healthは建材・綿花・太陽光などを手がけるPANグループの衛生用品部門として2017年に立ち上がった。公式サイトのOEMページによれば、ラージコートの工場は30エーカー超(約12.1ヘクタール)の敷地にあり、画像検査システムと研究ラボを備える。ISO 9001:2015、ISO 13485:2016、CEマーキング、WHO GMPの各認証を取得している。製品は自社ブランドとOEMの双方で供給する。
規模については、2026年7月のPrabhat Khabar紙と同年8月のJagran紙が、いずれもPan氏の説明として数字を伝えている。どちらも同社側の説明に基づく記事で、監査済みの決算公表ではない点は割り引いて読みたい。
| 項目 | 原文表記 | 換算・補足 |
|---|---|---|
| 生産能力 | 3.7 अरब 個/年超 | 37億個/年超(अरब=10億) |
| 生産エリア | 7 lakh sq ft 超 | 70万平方フィート=約6.5万平方メートル |
| 敷地 | 30 acres | 約12.1ヘクタール |
| 取扱店 | 6.5 lakh 店超 | 65万店超(1 lakh=10万) |
| 従業員 | 約1,200人・7割超が女性 | Jagran紙の記載 |
| 事業規模 | 5,000 crore ルピー超 | 500億ルピー超=約827億円(1ルピー=1.6554円、2026年9月24日)。Jagran紙が伝えるPan氏の説明 |
| 創業原資 | 5 lakh ルピー | 50万ルピー=約83万円 |
crore は1,000万ルピー、lakh は10万ルピーなので、5,000 crore は 5,000×1,000万=500億ルピーになる。Jagran紙はPan氏が3年以内の新規株式公開を目標に挙げたとも伝えるが、規模はまだ明確ではないとしている。上場が決まった話ではない。なお公式サイトのOEMページは建屋面積を「40万平方フィート超」と記載しており、2026年の報道にある70万平方フィートと数字が異なる。
この企画で目を引くのは、発表文が挙げているのが工場見学そのもので、撮影用のセットにも著名人の起用にも触れていない点だ。同社は今年1月、赤ちゃんを会議室の「代表団」に見立てたテレビCMを打っており、そちらはミニチュアセットを組んだ作り込み型だった。今回は逆に、すでに動いている検査工程をそのまま見せている。新しく用意したのは母親たちの移動と滞在、撮影の段取りで、見せる中身は工場の側にもとからある。
10人超という数字は広告のリーチとしては小さい。それでも成立するのは、見学した母親が自分の言葉で語れる材料を持ち帰るからだろう。発表文も一度きりのブランド体験ではなく製造と品質を継続的に見せていく取り組みとして位置づけている。「何人来たか」ではなく「何項目見せたか」を数字にしたのも同じ狙いで、34項目以上という具体的な数が、検証しにくい柔らかさや安心感の代わりになっている。保証年数を前面に出したエスコート・クボタの8年保証キャンペーンも、数えられる約束を一つ立てる点では同じ発想に立つ。
インドで自社工場を持つ、あるいは委託先の工場を使う日本企業にとって、この手法の障壁は広告費ではなく現場の準備にある。来訪者が歩ける動線、説明できる検査項目の一覧、撮影してよい範囲と不可の範囲、競合に渡したくない工程の切り分け。この4点が決まっていないと、見学は企画倒れになるか、逆に出してはいけないものが写る。PAN Healthの発表文が挙げているのも製造・衛生管理・品質保証・製品テストの各工程で、配合や設備の仕様には触れていない。
34項目以上という出し方が効くのは、読み手がその場で数えられるからだ。「厳格な品質管理」という言い回しには反証も検証もできないが、34項目以上なら多いか少ないかを競合と比べられる。日本企業の現地向け資料は工程の丁寧さを形容詞で書いてしまいがちで、インドの売り場では強度が出にくい。検査回数、保証月数、対応サイズ数のように数えられる単位へ置き換えるだけで訴求は変わる。創業者の社是という抽象的な資産を映像に落としたブリヂストン・インドの30周年フィルムは逆方向の解き方で、どちらを選ぶかは手持ちの資産で決まる。
日本の受託製造業にとっての読みどころは別にある。PAN Healthは自社ブランドと並行してOEM供給を掲げ、認証一覧と対応カテゴリーを公開している。見学に耐える工場は、消費者向けの広告素材であると同時に、ブランド側を口説く材料でもある。ハイデラバード発Neeman’sの出店拡大のように、消費者が実物に触れる場所を増やす投資はインドの各社が進めている。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 企業名 | PAN Healthcare Pvt. Ltd.(PAN Health、PANグループ) |
| 工場所在地 | グジャラート州ラージコート |
| 操業開始 | 2017年 |
| 主要ブランド | Little Angel/everteen/Liberty/NEUD/Nature Sure |
| 取得認証 | ISO 9001:2015、ISO 13485:2016、CEマーキング、WHO GMP、BIS |
| OEM対応品目 | ベビー用パンツ、大人用パンツ、生理用ナプキン、ウェットティッシュ |
| 問い合わせ | 公式サイトOEMページのフォーム(enquiry@littleangel.care) |
| Soft & Pure のサイズ | 新生児0〜5kgからXXL14kg以上まで6区分 |
手元で先に動かすのは一つでいい。自社の現地工場か委託先で、来訪者に説明できる検査項目を書き出して数えることだ。数が出てこないなら、見学を企画する前に検査記録の整理から始まる。数が出るなら、その数字は今日から現地向け資料に載せられる。