2026年9月24日、ホーチミン市で総合金融会社のVietCredit(Công ty Tài chính Tổng hợp Cổ phần Tín Việt)と、家電量販Điện Máy Xanhの投資会社Công ty Cổ phần Đầu tư Điện Máy Xanh(ĐMX)が戦略提携に署名し、国内クレジットカード「TINCard 3 trong 1」を発表した。限度額は最大1億ドン、年会費は無期限で無料、カードの申込から利用までを量販店の会員アプリ「Quà Tặng VIP」の中で完結させる。ベトナムで耐久消費財を売る側・供給する側の日本企業には、支払い手段が1つ増えた話では済まない論点が残る。
発表を自社サイトに載せたVietCreditの告知では、署名式を開いたのはVietCreditとĐMXの2社で、NAPAS(Công ty Cổ phần Thanh toán Quốc gia Việt Nam)は「同行」という位置づけになっている。起点となったThanh Nien紙の記事は3社が署名式と発表を行ったと書いており、主催の書き方に差がある。カードを発行する主体は量販店ではなく、金融会社のVietCredit側だ。ĐMXが担うのは会員アプリという導線と売場であり、NAPASは国内カードの決済スキームを提供する。ĐMXのサービス商材部門ディレクターTrương Hồng Hoàng氏はThanh Nien紙に対し、TINCardが系列の常連客向けの金融手段になることへの期待と、簡便さ・限度額の柔軟さを利点に挙げた。提携先を探す側がこの3者の役割を混ぜて読むと、交渉相手を間違える。
VietCreditの公式告知は、1枚で決済(thanh toán)、分割(trả góp)、現金引き出し(rút tiền mặt)の3機能を持つと明記している。現金引き出しは物理カードを持たずQRCashで行い、支払いはPOS・QR・オンラインに対応する。使える売場として挙げられているのは、Điện Máy Xanh、Thế Giới Di Động、TopZone、An Khang(薬局)、AVAKidsの各系列と、国内クレジットカードの加盟店だ。
VietCreditが示した手順は3つだけだ。Quà Tặng VIPアプリで「Tài chính tiêu dùng」→「Mở thẻ tín dụng」→「VietCredit」を選び、CCCD(国民身分証)をeKYCで認証し、電子書類に署名する。これで1分ほどで使える状態になる、というのが同社の説明であり、審査を通さないという意味ではない。限度額は最大1億ドンという上限値であって、全員に1億ドンが出るとは書かれていない。
分割の「3 KHÔNG」は金利0%・手数料0%・頭金0ドンで、Thanh Nien紙は「商品のプログラムに沿った買い物に適用される」と条件を添えている。つまり売場のすべての買い物が自動的に金利ゼロになるわけではない。0%を誰が負担するのかについては、今回の発表文には分担の記載が見当たらない。対象商品に自社製品を入れるかどうかを取引先と詰めるなら、そこが条件交渉の項目になる。
dienmayxanh.comを2026年9月26日に確認すると、サイト上には「MWG Paylater 限度額6,000万ドンまで」「VPBank MWGクレジットカード 限度額1億ドンまで」の案内が同時に出ている。TINCardの1億ドンは、この売場で先に走っていたカードと同じ上限だ。新しいのは限度額ではなく、量販店の会員アプリ内で完結する点と、国内スキームの金融会社が直接出している点だ。
| 項目 | 原文表記 | 円換算の目安 |
|---|---|---|
| TINCard 3 trong 1 の限度額 | 100,000,000 VND | 約62万円 |
| VPBank MWGカードの限度額 | 100,000,000 VND | 約62万円 |
| MWG Paylaterの限度額 | 60,000,000 VND | 約37万円 |
| キャッシュバックの利用条件 | 500,000 VND | 約3,100円 |
| キャッシュバック額 | 100,000 VND | 約620円 |
換算にはベトコムバンクが2026年9月26日18時30分に公表した送金レート1円=160.34ドンを用いた(同時点の米ドルは1ドル=25,790ドン)。1億ドンは約3,880ドルにあたる。還元額10万ドンは利用条件額50万ドンの20%にあたる(本記事の計算)。
金利0%・頭金0の分割が売場の主要な導線に入ると、買い手が比べるのは本体価格ではなく月々の負担額になる。エアコンや冷蔵庫のような単価の大きい品目では、対象プログラムに入っているかどうかが数量を左右する。日本の製造側・OEM供給側からすると、現地小売の販促枠に自社品番を載せる交渉が、値引き交渉と同じ重みを持ちはじめる。設置を伴う大型商品はEC側でも動いており、Shopeeの9.9セールで設置付きの大型注文が伸びた件と合わせると、大型品の売り方が店頭とECの両側で動いていることが分かる。
NAPASの公式説明では、国内カードはベトナムの銀行と金融会社が発行し、カード番号は中央銀行が割り当てた発行機関コード9704で始まる。VCCS規格に沿い、中央銀行の国内チップカード基準とEMVに準拠する。国際ブランドだけを有効にしている端末では、この9704のクレジットカードを受けられない場合がある。ベトナムで小売・飲食・サービスを運営する日系企業は、アクワイアラとの加盟店契約で国内クレジットカードの取扱いが有効かを確認しておく価値がある。
VietCreditの告知一覧には、TikTok Paylater経由の決済に使うクレジットカードの約款、販売管理サービスSapo上での融資(限度額10億ドンまで)、GFINと組んだGrabドライバー向けの頭金不要の電動バイクローンが並ぶ。ĐMXもその延長線上にある。NAPAS側も2026年7月にTikTok Shopとの決済ソリューション、8月にKiotVietとのVietQR連携を公表しており、加盟店ネットワークを持つ事業者と組む流れが続いている。
同じ「提携」でも到達点は違う。CitiとHDBankのMoUは協力領域が未定のまま署名された段階で、今回のTINCardは商品と条件が公表され申込が始まっている段階だ。国際ブランド側の動きであるサングループとVisaの包括提携と並べると、国内スキームと国際ブランドが別の入口から同じ消費者に届こうとしている構図が見えてくる。現地の決済提携は、署名済みか、商品が出ているか、条件まで公表されているかを分けて記録したい。
VietCreditの告知によると、2026年12月20日までにQuà Tặng VIPアプリでTINCardを新規開設・有効化し、最初の30日間の利用合計が50万ドン以上になると10万ドンが還元される。Thanh Nien紙は、この特典をNAPASがVietCreditと共同でĐMXとThế Giới Di Độngの顧客向けに実施すると書いている。期間は年末商戦と重なる。売場で分割条件がどう提示されるかを確かめるなら12月20日までが窓になる。
今回の形は、与信とライセンスを金融会社が持ち、本人確認の導線と顧客接点を小売側が出す分業だ。ベトナムで会員アプリを運営する日系企業が同じことをするなら、自社で与信を抱えるより、先に加盟店契約とアプリ内導線を整えて提携先を選ぶ順番が現実的だ。まず自社のPOSとオンライン決済で9704のクレジットカードが通るかをアクワイアラに1本問い合わせるところから始めたい。なお公表金利は低くない。VietCreditはデジタルカード「TinCard Loyalty」を月2.9〜4.3%(年35〜52%)、国内クレジットカード「VietCredit」を月1.5〜4.75%(年18〜57%)と公表している。いずれも別商品の表だが、この水準が近いなら0%分割の外側の利用は顧客負担が重く、回収リスクは発行側に残る。
参照した一次情報