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パンドラが1.5億ドルのホーチミン工場を開業、直接材は輸入のまま

2026.10.06

デンマークの宝飾大手パンドラ(Pandora)が2026年10月1日、ホーチミン市のベトナム・シンガポール工業団地III(VSIP III、Bình Cơ坊)で新しい加工拠点を開業した。投資額は1億5,000万ドル、年産能力は最大6,000万点、フル稼働時の雇用は7,000人。1982年にコペンハーゲンで創業し、1989年からタイで生産してきた同社が、初めてタイ以外に拠点を置いた。ところが開業の3日後に出たThe Investorの記事でパンドラ側が示したのは「ベトナム企業が供給しているのは物品・設備・間接サービスで、宝飾生産に使う直接材料は引き続き国際市場から調達している」という中身だった。1億5,000万ドルの外資が来ても、現地企業が入れているのは直接材ではない。日本の部材・副資材メーカーにとっては、この「入れている側」の内訳が商機の地図になる。本文の円換算は1ドル=157.98円、1ドル=25,966ドン(2026年10月6日午前の取得値)で計算した。

1億5,000万ドルで年6,000万点、同社の生産能力が5割増える

パンドラの発表文にある数字は4つだ。投資額1億5,000万ドル(約237億円)、年産最大6,000万点、生産能力の増加幅が約50%、フル稼働時の雇用7,000人。6,000万点が5割分に当たるなら、既存のタイ拠点の生産能力は年1億2,000万点前後と逆算できる。能力の話なので実際の生産量とは別だが、合計で1億8,000万点規模の体制になるという読み方になる。

拠点はLEED Goldを取得し、電力は100%再生可能電力、使用する銀と金は100%リサイクル材だとしている。The Investorの記事では、開業時点の従業員が約700人で、これを7,000人まで増やす計画だと説明されている。10倍の採用を進める段階にあるということで、設備の据付と人の立ち上げが同時に走る時期が数年続く。

「世界最大」という表現については主語を確認しておきたい。パンドラ自身の発表文が「the world’s largest fine jewellery crafting facility」と書いており、第三者機関が業界全体を調べて認定したものではない。一方で「タイ以外では初の生産拠点」は同社の生産体制の事実として確かだ。記事を書く側としては、後者を使うほうが安全である。

所在地は「ホーチミン市」だが、もとはビンズオン省のVSIP III

発表文と各媒体が立地を「ホーチミン市」と書いているのは、2025年の行政区画再編でビンズオン省がホーチミン市に統合されたためだ。VnExpress Internationalが着工時に「southern Binh Duong」と報じていた同じ場所が、いまは「Ho Chi Minh City」と表記される。The Investorはより細かくVSIP III・Bình Cơ坊と書いている。

工業団地の選び方としては素直だ。VSIPはベトナム政府系のBecamex IDCとシンガポールのSembcorpの合弁が開発する団地群で、外資の進出実績と電力・用水のインフラが揃っている。再生可能電力100%を条件にする企業にとって、団地側で電源の手当てがつくかどうかは立地選定の前提になる。デンマーク大使のLina Gandløse Hansen氏が発表文で、ベトナムの熟練労働力と再生可能エネルギーへのアクセスの展望をデンマーク企業の投資理由として挙げたのは、そのままの意味で読める。

項目 内容
開業日 2026年10月1日
立地 VSIP III、Bình Cơ坊、ホーチミン市(旧ビンズオン省)
投資額 1億5,000万ドル(約237億円)
年産能力 最大6,000万点(同社生産能力を約50%押し上げ)
雇用 開業時点約700人 → フル稼働時7,000人
位置づけ タイ以外では初の生産拠点
認証・電力 LEED Gold/再生可能電力100%/銀・金は100%リサイクル材
ベトナム企業の供給範囲 物品・設備・間接サービス(例:工場建設、機械・設備、操業サービス)
直接材の調達 国際市場からの調達を継続
現地化の目標値・時期 非開示

パンドラが挙げた条件は、技術力・品質基準・コンプライアンスの3つ

The Investorの記事でパンドラの担当者が示した線引きは具体的だ。ベトナム企業が供給しているのは物品、設備、間接サービスで、具体例として工場建設、機械・設備、操業サービスが挙がっている。一方、宝飾生産に使う直接材料は国際市場からの調達が続いている。

では何が足りないのか。パンドラが挙げたのは「技術力、品質基準、コンプライアンス能力が同グループの要求を満たすようになれば国内企業と協業する」という3条件だった。価格ではなく、作れるか、品質を揃えられるか、要求に適合していると示せるかという並びになっている。現地化率の目標値も時期も出していない。

3条件のうち、宝飾品の直接材でとくに重いのが3つめだと考えられる。パンドラは銀と金を100%リサイクル材にすると公言している。この条件を満たすには、地金が再生材であることを記録で追える調達先でなければならない。品質が同じでも出所を証明できない素材は使えないということで、宝飾品の直接材はコモディティではなく証明書付きの素材として扱われる。ベトナム企業が機械・設備やサービスから入っているのに直接材に届いていない背景の一つとして考えやすい。ただしパンドラが挙げた3条件のうちどれが実際に効いているか、どの認証をどう運用しているかは発表文の範囲では分からない。あくまで推論として読んでほしい。

同じ論点は電子部品でも起きている。ベトナムの電子サプライヤーがScope3の算定を求められ始めた動きと並べると、現地調達の障壁に「要求を満たしていると示せるか」という項目が加わっていることが分かる。サムスンがバクニンの地場サプライヤー育成をDXに寄せている取り組みも、同じ方向の対処だ。

日本の部材メーカーが狙うべきは、直接材ではなく工程の消耗品

直接材の枠が当面埋まらないなら、日本企業が入る余地はベトナム企業がすでに供給している側、つまり設備と間接材にある。宝飾の量産ラインで消費され続ける品目を工程順に並べると、商談の入口が具体的になる。以下は一般的な貴金属ジュエリーの量産工程からの整理で、パンドラの調達リストではない。

  • 鋳造工程:ロストワックス用のワックス、埋没材、真空・遠心鋳造機、脱蝋炉、ゴム型・金型
  • 研磨・仕上げ工程:研磨材、バレル研磨用メディアとコンパウンド、研磨ブラシ、バフ、集塵・貴金属粉回収装置
  • 表面処理工程:電解・めっき薬液、ロジウムめっき関連、超音波洗浄機と洗浄液、純水装置
  • 石留め・組立工程:精密ピンセット、顕微鏡・拡大装置、レーザー溶接機、ろう材
  • 検査・出荷工程:貴金属分析装置、金属検出・異物検査、個包装材、ジュエリーケース、物流用梱包

この並びのなかで日本メーカーが強い品目は、研磨材・精密工具・めっき薬液・超音波洗浄・貴金属リサイクル設備あたりになる。いずれも単価は直接材より低いが、年6,000万点という量が掛かる。仮に全6,000万点で1点あたり1円ぶんの消耗品が使われるなら、その品目の年間支出は6,000万円になる。この掛け算で規模を当たりにつけてから、自社品目が実際に何点に使われるかを詰めるとよい。

間接材のほうが入りやすいと見る理由は、ベトナム企業がすでに機械・設備と操業サービスで入れているという事実そのものだ。直接材より門が開いている領域から始めるということになる。ただし条件が緩いとは限らない。パンドラは責任ある調達の枠組みでサプライヤーを審査しており、審査では環境や労働のほかに事業倫理や財務面も見られる。化学物質を扱う品目なら、SDSを英語で整え、エネルギー消費量を数字で出せる状態にしておくと、求められた時に止まらずに済む。

7,000人採用と設備据付が同時に走る、いまが照会の時期

従業員約700人から7,000人へ増やす途中の工場は、ラインを増設しながら教育を回している状態にある。ここから先は筆者の実務上の見立てになるが、工程が増え続ける段階は銘柄の切り替えが起きやすく、全ラインが立ち上がって調達先が固定された後より提案が通りやすい。パンドラが調達方針をどの段階で固めるかは公表されていないので、確証のある話ではない。それでも、7,000人体制が完成してから動くより早いほうがよいという判断は立つ。

具体的な動き方としては、VSIP III内のサプライヤー向け説明会や、ホーチミン市・旧ビンズオン省の工業団地で開かれる商談会を入口にするのが現実的だ。矢橋がゲアン省で炭酸カルシウムの現地加工を立ち上げた事例のように、現地に加工・在庫の拠点を置いて納期で勝つという型も、消耗品では成立しうる。日本から空輸する前提の見積りと、現地在庫から出す前提の見積りを両方作って比べるのが実務的だ。

工場建設から素材へ、という順番で現地企業が育つ

宝飾の生産がタイからベトナムに広がることで、周辺産業の需要がベトナム国内に生まれる。現時点で現地企業が入れているのは物品・設備・間接サービスの範囲で、直接材は国際調達。この並びは、要求される証明の重さが軽い順に現地化が進むという見方と整合する。パンドラが「要求を満たすようになれば国内企業と協業する」と述べている以上、順番が進む余地は残っている。

日本企業が取れる道は2本だ。1本は、タイに宝飾向けの納入実績を持っている会社がその顧客のベトナム拠点に横展開する道。同じ会社の別拠点なら、タイ側の担当者から紹介を取るのが近い。もう1本は、ベトナムに宝飾の集積ができた場合に備えて見ておく道。パンドラ以外の宝飾・時計・アクセサリーの生産移管が続けば、1社向けではなく産業として成立する。ただし現時点でその動きを示す発表は見つかっていない。

まとめ

パンドラのホーチミン工場は、1億5,000万ドル・年6,000万点・雇用7,000人という大型案件でありながら、ベトナム企業が入れているのは物品・設備・間接サービスの範囲にとどまり、直接材は国際調達が続く。パンドラが挙げた条件は技術力・品質基準・コンプライアンスの3つで、銀と金を100%リサイクル材にするという方針を踏まえると、素材の出所を示せるかという部分も直接材の壁になっていると考えられる。日本の部材・副資材メーカーが入りやすいのは、現地企業がすでに供給している設備と間接材の側になる。手元でやることは3つ。タイの宝飾工場に納入実績があれば担当者経由でベトナム拠点への紹介を取る。SDSと省エネ性能を英語で出せる資料にまとめる。VSIP III周辺に在庫を置く場合のコストを試算して、納期で勝てるかを数字で確認する。

参照元

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