ヴァディラル・インダストリーズが2026年9月25日、パルレ・プロダクツのビスケットブランド「Hide & Seek」を冠したアイスクリームをインド全国で発売した。作るのも冷やして運ぶのも売るのもヴァディラルで、パルレが出したのは商標だけ。両社は6月にもパルレのキャンディ「Melody」で同じ座組を組んでいる。自社ブランドをインドで動かしたい日本の食品メーカーにとって、3か月半で2件という反復は、工場を建てる以外の入り方が現地で商売として回り始めた手がかりになる。
インディアン・テレビジョンの報道で確認できた内容はこうだ。両社が結んだのは商標ライセンス契約で、ヴァディラルが自社の製造設備、流通網、コールドチェーンを使って商品を作り、パルレはブランドオーナーとして「Hide & Seek」の名前を使わせる。ヴァディラルが製品を買い取って売るのではなく、パルレの側に製造も在庫もない。
商品名は「Vadilal Hide & Seek Ice Cream」。借りたブランド名の前に、自社名が置かれている。味はビスケット版のチョコチップとクッキーの輪郭をそのまま冷菓に移した設計で、形状はタブとコーンの2種。9月25日からヴァディラル直営のパーラー、一般小売店、スーパーマーケット、近代小売(モダントレード)、クイックコマースの各経路に並ぶ。
キャンペーン名は「Jodi Aisi Ki Nazar Na Lage」。jodiは二人組や組み合わせ、nazarは邪視を指し、全体では「妬まれて邪視がつかないようにと願うほどの名コンビ」という意味になる。ヒンディー語圏で身内や恋人を褒めるときに日常的に使う言い回しで、広告は邪眼の絵文字をそのまま記号として使っている。展開はデジタル動画を軸にした全国キャンペーンと報じられた。
読むときに気をつけたいのは、公表されていない項目のほうが多いという点だ。確認できた発表と各媒体の記事に、価格、SKU数、契約期間、ロイヤリティの料率、売上目標への言及は見つけられなかった。規模の話はまだ誰も数字で出していないので、ヴァディラルの次の決算が出るまで成否の判定はできない。
先行事例がある。2026年6月11日付でFoodTechBizが、同時期にAdgullyが、ヴァディラルとパルレによる「Melody」アイスクリームの発売を報じている。Melodyはパルレのキャラメルキャンディで、アイス版はキャラメルとチョコレートの風味を冷菓に移したもの。発表の書き方も今回と同じで、Adgullyは「strategic trademark licensing partnership」、つまり戦略的な商標ライセンス提携と明記している。製造と販売はヴァディラル、まず直営パーラーから始めて小売、近代小売、クイックコマースへ広げるという段取りまで共通していた。
Melodyのときはヴァディラルのヒマンシュ・カンワールCEOとパルレのマヤンク・シャーCMOがコメントを出し、今回はヴァディラルのラヴィ・マクワナCMOとシャーCMOが並んだ。同じ相手、同じ契約の型、同じ発表フォーマットで3か月半のあいだに2件。1件目が実験なら、2件目は運用に入ったと読める。
パルレが別カテゴリに名前を貸した例も残っている。2022年9月、パルレはアパレルブランドのRedwolfと組み、主力ビスケット「Parle-G」のマグ、手帳、トートバッグなどの雑貨シリーズを出した。インドの小売業界誌Indian Retailerはこれを常設の「Brand License」欄で扱っている。菓子から雑貨へ、菓子から冷菓へ。貸す相手の選び方には筋が通っていて、冷菓は工場とコールドチェーンを持つヴァディラル、雑貨はECとデザインを持つRedwolf。パルレが自前で持っていない設備と売り場を持つ相手にだけ名前を出している。
ただし、パルレが「ブランドを貸す」方針を社として掲げたという発表は見つけられなかった。手元にあるのは3件の実施例だけで、方針として整理されているかどうかは確認できていない。長年使ってきたブランド資産を別の器に載せ替える動きそのものは他社にもあり、たとえば栄養飲料コンプランが1975年から使ってきた広告上の「坊や」を現役選手に引き継がせた例は、コンプランが1975年来の「坊や」を15歳の現役打者に渡したで扱っている。
以下は1ルピー=1.6627円(2026年8月の月平均、世界経済のネタ帳)で円換算した。数字はいずれもScreener掲載値を2026年9月28日に確認したもの。
| 項目 | 金額(ルピー) | 円換算 |
|---|---|---|
| ヴァディラル 連結売上 2026年3月期 | 150億3,000万ルピー | 約250億円 |
| ヴァディラル 連結売上 2025年3月期 | 124億ルピー | 約206億円 |
| ヴァディラル 純利益 2026年3月期 | 15億5,000万ルピー | 約26億円 |
| ヴァディラル 時価総額(2026年9月28日時点) | 541億2,000万ルピー | 約900億円 |
| Kwality Wall’s (India) 売上 直近12か月 | 190億9,000万ルピー | 約317億円 |
| Kwality Wall’s (India) 純損益 直近12か月 | ▲33億5,000万ルピー | 約▲56億円 |
| Kwality Wall’s (India) 時価総額(2026年9月28日時点) | 953億9,000万ルピー | 約1,586億円 |
ヴァディラルは1907年にソーダ屋として創業し、ガンディー家の経営でアイスクリームに軸を移した会社だ。アイスの工場はグジャラート州プンドラとウッタルプラデーシュ州バレーリーの2か所、加工食品の工場がグジャラート州ダラムプルにあり、冷凍果実やピューレ、レトルト品を50か国超に輸出している。売上は2025年3月期の124億ルピーから2026年3月期の150億3,000万ルピーへ約21%伸びた。借りたブランドを載せる器として、工場と輸出実務の両方を自社に持っている。
対抗軸も動いた。ヒンドゥスタン・ユニリーバのアイス事業は会社分割でKwality Wall’s (India) Limitedとして切り出され、2026年2月16日に証券取引所に上場した。分離後はユニリーバから切り出された蘭The Magnum Ice Cream Companyが株式の61.90%を握っており、親会社が替わった会社でもある。Kwality Wall’s、Magnum、Cornettoを抱え、Screenerの会社概要では400都市以上、20万を超える販売店、1万5,000台以上のプッシュカートに届くとされている。売上規模はヴァディラルより大きいが、直近12か月は損益がマイナスで、分離に伴う費用が乗る期間にあたる。ここで何が起きているかは単独の決算説明を読まないと分からないので、損益の原因には踏み込まない。
数字として押さえておきたいのは、インドのアイスクリームが「大手日用品会社の一部門」から「単体で採点される上場事業」に変わったという構造の話だ。新しい味の当たり外れが株価に直接返ってくる相手が増えた。市場シェアの数値は民間調査会社の推計ごとに幅があり監査された数字ではないので、ここでは順位の整理にとどめる。最大手はアムル(GCMMF)、次にKwality Wall’s、ヴァディラルは組織小売の上位グループに入る。屋台やクルフィ売りを含む非組織部門が依然として大きいという見立ては各社の推計でおおむね揃っている。
ヴァディラルのラヴィ・マクワナCMOは、Hide & Seekには強い感情的な結びつきと、はっきりした味の輪郭があると述べた。同時に、ノスタルジーと、消費者がすでに慣れている形状を組み合わせたと説明している。既存の食習慣に乗せる話で、新しい体験を作るという言い方はしていない。
パルレのマヤンク・シャーCMOは、Hide & Seekが一口ごとにチョコチップを見つける楽しさの商品だったと振り返り、その体験をビスケットの外へ持ち出しながら中核は変えないと述べた。ブランドの中身を定義し直すのではなく、同じ体験を別の温度帯に移すという整理だ。
Melodyのときのヴァディラルのヒマンシュ・カンワールCEOのコメントも近い。強いブランドとは長く残る感情的な結びつきを作るものだ、という趣旨で、アイス化そのものより、ブランドが持っている記憶の資産価値に軸を置いていた。
報道側の受け止めでも一致点がある。インディアン・テレビジョン、Adgully、FoodTechBizのいずれも、本文で「trademark licensing」という契約の型を明示した。製造委託や合弁ではなく、何を貸したのかが記事の入口に置かれている。インドの小売業界誌が「Brand License」という常設欄を持ち、ブランドの貸し借りを単独のニュースジャンルとして扱っていることも、この種の取引が珍しくない状態を示している。
ここからが日本の食品メーカー・ブランドオーナー向けの整理になる。自社ブランドをインドの棚に載せる方法は大きく3つあり、今回の案件は2番目に当たる。
| 入り方 | 初期投資 | 立ち上がり | ブランド管理 | 主な制約 |
|---|---|---|---|---|
| 自社で製造・販売 | 大きい | 長い | 全部自社で握れる | FSSAIの製造ライセンス、工場、冷菓なら自前のコールドチェーン、撤退が重い |
| 現地メーカーへライセンス | ほぼゼロ | 短い | 契約条項と監査でしか効かない | ロイヤリティの設計、品質管理条項、相手の販売判断に乗る |
| 日本から輸入して販売 | 小さい | 中くらい | 商品そのものは自社品 | 関税+GST、賞味期限の残存ルール、冷凍は物流費 |
3番目の輸入販売は、数字を入れると比較しやすい。ジェトロの輸出ガイド(2024年8月更新)によると、菓子(HS1704系)の基本関税は30%、チューインガムは45%で、GSTが18%。輸入する側にはIEC(輸出入業者コード、申請500ルピー=約830円)とFSSAIの輸入事業者ライセンス(年7,500ルピー=約1万2,500円)が必要になる。さらに、輸入通関の時点で、製造日から賞味期限までの日数のうち60%以上が残っていなければならない。ただしこの30%は一般税率で、同じジェトロのページには、2011年8月発効の日印包括的経済連携協定(CEPA)を使えば菓子の関税は0%になり、その適用には原産地証明が必要だと書かれている。日本から出す場合に効いてくるのは関税そのものより、GST18%と、冷蔵・冷凍なら海上または航空の物流費、そして先に触れた賞味期限の残存ルールになる。なお冷菓は菓子と関税分類が別なので、自社品目のHSコードで税率を引き直す必要がある。手続きも別で、同じジェトロのページには、日本からインド向けにアイスクリームを輸出する場合は2024年9月以降、輸出者側での製造施設登録が必須になったと書かれている。日本政府が出す施設リストに載せてもらう必要があるため、輸出開始の2か月前までに農林水産省へ届け出る段取りになる。
2番目のライセンスは、今回の案件の逆側から見ると設計が読める。ヴァディラルが得たのは、新ブランドを一から立てるために必要な広告費と時間を払わずに、冷凍ケースの中の面積を増やす手段だ。パルレが得たのは、冷凍工場も冷蔵配送も持たないまま冷菓の棚に自社ブランドが出る状態だ。日本のブランドオーナーが同じことをインドでやるなら、相手候補に求めるのは工場そのものより、近代小売の帳合とクイックコマースの取引口座になる。即配の投資競争は各社の課題で、Amazonがインド即配に30億ドルと報道、ダークストア約1,300店で扱ったような動きが、そのまま新規ブランドの露出機会の話につながる。
1番目の自社製造は、インド企業が新カテゴリに自力で出るときの重さを見ると想像がつく。肥料の老舗が飲料に参入した事例は肥料の老舗KICLがココナッツ水で飲料参入、南インド3州からで取り上げたが、既に現地で製造・流通の基盤を持つ会社でも、まず3州に絞って始めている。日本から入る場合はここに規制対応と人の手配が上乗せされる。
日本勢の実例も両方の型で存在する。インド日清(Indo Nissin Foods)は1988年設立で、ベンガルール、ハリヤナ、オディシャに工場を持つ1番目の道。逆に2019年2月、クラフト・ハインツはハインツのトマトケチャップをインド日清に預け、25万店といわれる同社の流通網で売らせる提携を結んだ。ただしこちらは商標を貸して相手に作らせる話ではなく、自社製品の売り場を借りる流通提携である。ブランドを持つ側が現地の販路を持つ側に預けるという点だけが、今回のパルレの立ち位置と重なる。
ライセンスで冷菓に出てくるブランドが増えると、いくつか波及がある。まず棚の争点が変わる。新規参入者が味と価格で認知を取りにいく戦い方から、既に食べられている名前を冷凍ケースに持ち込む戦い方に移る。売り場を持つ側は自社ブランドを育てる投資を抱えずに面積を増やせるので、投資回収の速さで既存メーカーに差がつく。
次に、ブランドを貸す側のリスクが表に出てくる。1つの名前を複数カテゴリに出せば、品質や体験が揃わなかったときの跳ね返りは商標の持ち主に戻る。貸す件数が増えるほど、契約の品質条項と監査の運用が経営課題になる。パルレはビスケット、キャンディ、雑貨、冷菓と面を広げてきたが、どの案件でも製造は相手側にあり、消費者が「おいしくない」と感じたときに名前として残るのはパルレ側だ。
3つめは、上場企業として採点される側の反応だ。Kwality Wall’sが単体で市場に出たことで、新商品の当たり外れと販促費の使い方が四半期ごとに読まれる状態になった。ヴァディラルのように借りたブランドで棚を増やす手が有効だと見なされれば、他の冷菓メーカーも同じ交渉を始める。貸せる名前を持っている菓子・飲料メーカーの側には、ロイヤリティという新しい収益項目が乗る。
日本のブランドオーナーが割って入る余地はここにある。インドの消費者に自社名の認知がない場合、ライセンスの交渉材料は「知られている名前」ではなく、レシピ、製法、原料、パッケージの意匠になる。認知ゼロのまま名前だけ貸そうとしても相手は乗らないので、持ち出すものを先に決める必要がある。
ライセンスでインドに出すと決める前に、実務として片づく順番がある。
1つめは自社商標のインドでの出願・登録状況だ。インドは登録主義と先使用主義を併用しており、ジェトロやINPITの解説では、出願が競合した場合に先に使用を開始した側が優先されると整理されている。日本で有名であっても、インドで押さえていなければ同じ名前を先に使われたときの処理が重くなる。ニース分類では菓子も食用氷菓も第30類に入るため、ビスケットや菓子で取った登録が同じ区分の冷菓に及ぶ余地はあるが、実際の効力は登録原簿の指定商品の書きぶりで決まる。原簿を見ずに「及ぶはず」と進めない。
2つめは使用許諾の形だ。インドの商標法(Trade Marks Act, 1999)では、レジストラに登録使用者として登録する道と、登録せずに書面の同意に基づいて使わせる道の二本立てになっている。法律事務所の実務解説では、ライセンスの登録は義務ではないという整理が一般的で、登録しておくと侵害対応や立証の場面で動きやすいとされる。どちらを取るかは現地の弁護士に当てる前提で読んでほしい。
3つめは品質管理条項だ。商標が出所を示す機能を保つには、貸した側が品質を握り続ける必要がある。監査の頻度、レシピと原料の承認手続き、パッケージの校了権、基準を外れたときの使用停止と是正期間。ここを書き落とすと、相手の品質問題が自社ブランドの毀損として跳ね返る。
4つめはラベル案だ。FSSAIの2020年表示・陳列規則(Labelling and Display Regulations, 2020)の要点を整理したGood Food Institute Indiaの資料によると、包装食品のラベルにはブランドオーナー(マーケター)の名称と完全な住所、製造者、輸入品なら輸入者の情報、そしてFSSAIのロゴとライセンス番号を載せる。ブランドオーナーと製造者が別法人なら、製造者側のライセンス番号も表示対象になる。QRコードやバーコード、GTINを付けていれば一部が免除される扱いもある。ライセンスでインドに出るということは、自社名と自社側の届出情報が現地の棚のパッケージに載るということだ。表示を誤れば、自社の名前で残る。規則の細部は改正が入るので、パッケージ校了の前にFSSAIの最新規則を当たってほしい。
5つめは輸入販売との比較見積もりだ。自社品目のHSコードでの基本関税とGST、冷凍の海上または航空の運賃、そして賞味期限の60%残存ルールから逆算した実質の販売可能期間。この3つを数字にしてからライセンスの条件と並べると、ロイヤリティ率の妥当な範囲が見えてくる。
ヴァディラルとパルレがやったのは、片方の工場と冷蔵配送に、もう片方の名前を載せる作業だった。3か月半で2回、同じ相手と同じ契約の型で発表し、価格も販売目標も出していない。効果の判定はヴァディラルの次の決算を待つことになる。
日本の食品ブランドがインドで同じ型を試すなら、着手の順番は、インドでの商標出願状況の確認、相手候補の洗い出し(工場より売り場と帳合を持っているか)、契約の品質管理条項、ラベル案の4つ。そのうえで輸入販売の見積もりを並べ、関税とGSTと賞味期限残存ルールを数字に落としてから、ロイヤリティ条件を交渉の卓に出す。相手に「知られている名前」を渡せない段階なら、渡せるのはレシピと製法と意匠だという前提で候補企業を選び直すところから始めたい。