ベトナム株式市場が2026年9月21日の寄り付きから、FTSEラッセルの「セカンダリー・エマージング(二次新興国)」に格上げされた。対象は27銘柄。18日にハノイで開かれた財務省主催の会議で、バンガードのアジア太平洋の運用・グローバル株式責任者ダンカン・バーンズ氏が今後1年で25億ドルを投じる見通しを示した(The Investor 9/19)。
ただ、日本企業が読むべきは25億ドルという金額ではない。9月21日に指数へ入ったのは満額の10%だけで、100%に届くのは2027年9月20日だ。しかも27銘柄は金融に偏る。取引先の調達力が変わる時期と、変わらない相手を取り違えると交渉条件を読み違える。
FTSEラッセルが2026年8月に公開した再分類のFAQ(v1.3)は、組み入れを4回に分けると明記している。加わるのは投資可能ウェイトの比率で、累積100%になるのは2027年9月だ。各回のあと指数連動ファンドが追随できるかを評価し、問題なければ次へ進む。3月の中間評価では通達08/2026/TT-BTCと非事前資金拠出の枠組みが評価され、残る作業は二者間のブローカー契約だとされる。
| 回 | 指数見直し | 実施日(寄り付き) | 追加 | 累積 |
|---|---|---|---|---|
| 1回目 | 2026年9月 | 9月21日(月) | 10% | 10% |
| 2回目 | 2027年3月 | 3月22日(月) | 20% | 30% |
| 3回目 | 2027年6月 | 6月21日(月) | 35% | 65% |
| 4回目 | 2027年9月 | 9月20日(月) | 35% | 100% |
FAQの試算(2026年8月21日終値ベース)では、FTSEエマージング指数でのベトナム比率は10%段階で0.0310%、100%段階で0.3089%。約10倍で、初回だけで需給が一巡しない。
出口と入口の速度差も見落としやすい。FTSEフロンティア指数シリーズからの除外は2026年9月の年次見直しで一括実施される。フロンティアを追うマネーは一度に抜け、新興国指数のマネーは初回に1割しか入らない。格上げの見出しと短期の資金の出入りは別物だ。
FAQの銘柄表を業種で分けると偏りが出る。銀行8社と証券7社で15社、27銘柄の約56%が金融だ。素材・産業と食品のメーカーは5社、ITと航空を足して7社にとどまる。
| 分類 | 社数 | 銘柄 |
|---|---|---|
| 銀行 | 8 | ベトコムバンク、BIDV、VPバンク、HDバンク、サコムバンク、SHB、SeAバンク、MSB |
| 証券 | 7 | HCM証券、SSI証券、テクコム証券、ベトキャピタル証券、VIX証券、VNDirect証券、VPS証券 |
| 不動産・商業施設 | 5 | ビングループ、ビンホームズ、ビンコムリテール、ビンパール、ノバランド |
| 消費財・食品 | 3 | マサン・コンシューマー、マサン・グループ、ビナミルク |
| 素材・産業 | 2 | ホアファット、ジェレックス |
| IT | 1 | FPT |
| 航空 | 1 | ベトジェット |
規模区分は大型3(ベトコムバンク、ビングループ、ビンホームズ)、中型3(BIDV、ホアファット、VPバンク)、小型21で合計27。The Investor は中型を6銘柄と書くが、銘柄表のMid表示は3銘柄で、3+6+21では30になり27と合わない。数はFTSEの公表資料で確かめたい。
選定は浮動株比率や流動性、外国人保有枠の基準を満たした結果で、事業の良し悪しではない。入った企業は外国人株主の裾野が広がり開示を厚くする圧力がかかるが、非上場の取引先や地方の加工業者に効果は届かない。
格上げをめぐり金額の違う数字が同時に流れている。バーンズ氏の25億ドルは、ベトナム人アナリストの従来予想(10億〜20億ドル)を上回る。一方でSSI証券のSSIリサーチは、FTSE連動のバンガードのファンドによる27銘柄の買い越しを、初回段階だけで2億4,050万ドルと推計している。
SSIリサーチは市場全体の数字も出している。比率が0.49%で横ばいなら各段階を通じたパッシブ資金は約22億ドル、2027年9月に0.95%まで上がる強気シナリオなら約42億8,000万ドルだ。初回の2億4,050万ドルに、ウェイトが10%から100%へ10倍になる前提を当てはめれば全4回で約24億ドル。ただしこれは本記事の掛け算でSSIの数字ではなく、バンガード1社の額が市場全体・全段階の22億ドルを超えてしまう。25億ドルと2億4,050万ドルは、対象と期間の取り方が違う別々の推計として読むのが安全だ。
円換算は1ドル=158.7円で計算し、ドン表記は原文のまま併記した。ベトナム語表記は tỷ が10億、nghìn tỷ が1兆に当たるので、この2つを取り違えると1,000倍ずれる。
| 原文表記 | 出所と性格 | 円換算 |
|---|---|---|
| $2.5 billion | バンガード幹部の1年の見通し | 約3,968億円 |
| $240.5 million | SSI推計(初回段階・バンガードの連動ファンド) | 約382億円 |
| $2.2 billion | SSI基本シナリオ(市場全体・全段階) | 約3,491億円 |
格上げ前最後の営業日9月18日は売買代金が約26兆ドン(約10億ドル)で前日比44%増、外国人は1兆2,170億ドン(4,677万ドル、約74億円)の買い越しとなり、Xtrackers、VanEck、Fubon がリバランスした。それでもVN指数は引け際に反落し7.11ポイント安の1,815.66で終えた。
同じ週の発表でも確度は違う。再分類と4回の日程は確定だ。一方バセット氏の「FTSEベトナム指数にもとづくデリバティブをオフショア上場する」構想は提案段階で、当局と市場参加者の検討が前提になる。シンガポール取引所にはすでにFTSEベトナム30指数の先物がある。財務省も予定するノンディール・ロードショーで国際債は発行しないと明言し、最後のソブリン国際債は2014年のままだ。
ここが日本企業の本題だ。指数入りした企業の資本コストが下がれば、日本側が持ち込む現金の希少性は相対的に落ちる。相手が国内市場で株式を発行して設備投資を賄えるなら、出資額の多寡より技術・品質管理・販路・ブランドのどれを出せるかが交渉材料になる。
ベトナム企業はすでに国内で大型の調達をこなしている。生保子会社を持つため増資したテクコムバンクの事例や、小売最大級となったディエンマイサインのIPOは、日本側の出資が唯一の資金源ではない証拠だ。9月19日のテクコムバンク・インベストメント・サミット2026で同行CEOのイェンス・ロットナー氏は、年10%前後の成長軌道なら今後5年の資本形成需要は約1兆1,000億ドル(約174兆円)、うちインフラと構造再編に約5,000億ドルと述べた。国家証券委員会によれば2025年の株式・社債での調達は763兆5,000億ドン(293億4,000万ドル、約4兆7,000億円)で、2026年単年の需要1,960億ドル(約31兆円)に遠い。
逆もある。株価と流動性が上がれば株式を買う側のコストは上がる。空港サービス会社の株式27.64%を取得した双日のケースのように支配権を取らない出資でこの1年をまたぐ案件は、算定基準日の置き方で金額が変わる。売り手は高い評価で少数株を手放せるため、経営権の譲渡より部分売却に応じやすくなる。
最初の作業は少ない。ベトナム側の取引先・合弁相手・取引銀行を並べ、上の表の27社と照合する。1社でも当たれば、その相手は2027年9月までに資本コストと開示水準が段階的に変わる。当たらなければ、指数入りを理由にした値上げや出資条件の変更に根拠はない。原典はFTSEの再分類FAQの銘柄表、次は2027年3月22日の見直しだ。