米パシフィコ・エナジー・グループのベトナム法人パシフィコ・エナジー・ベトナム(PEV)は2026年9月23日、ラムドン省沖で計画する最大1,300MWの案件「Nam Trung Bo 3」について、農業環境省から海域調査許可の承認を受けたと発表した。商業運転の見込みは2031〜2035年、現地の調査作業は2027年に入る予定だ。
発電案件として読むと日本企業には遠い。近いのは発電そのものではなく、手前にある海洋調査と港湾の仕事だ。地盤調査、物理探査、風況と気象海象の観測、重量物を扱える岸壁。ただし2027年に動くのは調査の発注で、基礎構造物やタービンの本発注ではない。今回の発表は手続きの進み具合を測る目印だ。
VIRによれば、この許可はPEVが承認海域を評価し、設計前提を固め、その後の投資・許認可に備える技術調査と環境調査を行えるようにするものだ。建設許可でも投資決定でもない。同社はまず机上の予備評価を行い、詳細な調査計画を組んだうえで2027年に現地作業へ入る。
予定される現地プログラムは、地盤調査と物理探査、風況観測、気象・海象調査、環境ベースライン調査だ。この一覧は許可が列挙した作業範囲ではなく、同社が計画する調査の中身として報じられている。創業者でグループ会長のネイト・フランクリン氏は、この承認を「ベトナムにおける当社にとって非常に重要な前進」と述べた。
記事は、今回の承認がホーチミン市沖の500MW案件「Nam Bo PE2.1」に続くもので、2件で1.8GWのパイプラインになるとしている。1,300+500で計算は合うが、2件とも調査段階で着工済みの容量ではない。なおこの500MW案件の許可時期を今回の記事は2026年2月とする一方、VIRは同社が4月14日に同案件の調査許可を公表したと4月16日付で報じていた。発出と公表のずれと読めるが、引用時は両方を見たい。
ラムドン省は高原都市ダラットで知られ、海のない省という印象が残る。2025年6月の国会決議202/2025/QH15による省再編でビントゥアン省とダクノン省がラムドン省に統合され、面積24,233.07平方キロとなった。ムイネーを含む旧ビントゥアン省の海岸線が、いまは同省の海岸線だ。VIRも2026年1月に「ムイネー太陽光発電所(40MW)」と書いた設備を、4月には「ラムドン省の40MW太陽光」と記している。
同社は調査段階の案件とは別に稼働資産を持つ。VIRが4月に挙げたのは、40MWのムイネー太陽光とヴィンロン省の30MW・Sunpro風力の2件だ。Sunproは2026年1月9日に商業運転の開始が発表された。総事業費は1兆6,000億ドン、年間発電量は約89GWh、EVNとの20年のFITに支えられる。ベトインバンクから7,500億ドンのシニアローンを受けた。
ベトナムの金額は桁を落としやすい。tỷ は10億、nghìn tỷ は1兆で、tỷ を「億」と読むと10分の1だ。下表はドン建ての確定値を2026年9月25日のレート(1ドル=25,950.54ドン、1ドル=158.69円)で割り直した。
| 項目 | ドン建て(確定値) | 米ドル換算 | 円換算 |
|---|---|---|---|
| Sunpro風力の総事業費 | 1兆6,000億ドン | 約6,166万ドル | 約97.8億円 |
| ベトインバンクの融資 | 7,500億ドン | 約2,890万ドル | 約45.9億円 |
筆算は1兆6,000億÷25,950.54=約6,165.6万ドル、×158.69円で約97.8億円。7,500億÷25,950.54=約2,890.1万ドルで約45.9億円。VIRは同じ金額を6,090万ドル、2,850万ドルと表記し、逆算すると1ドル=約26,300ドンになる。換算レートは必ず併記したい。
2023年公表の電力開発計画第8次(PDP8)では2030年に約6GWだったが、改定版をベースにした数字は6〜17GWに広がる。政府目標を語るなら、どの版の話かを添えないと前提がずれる。
| 出どころ(報道時点) | 2030年 | 2050年 |
|---|---|---|
| PDP8(2023年公表)/VIR 1月 | 約6GW | 70〜91.5GW |
| 改定版を含む政策/VIR 2025年11月 | 6〜17GW | 113.5〜139GW |
| 政府説明・GWEC会合/VIR 6月 | 6,000〜17,000MW | 総容量の14.7〜16.6% |
地場勢も同じ手続きを進める。農業環境省は2025年11月11日、決定4741/QD-BNNMTでREE(冷機電気工程)に、ヴィンロン省ドンハイ社の7,090ヘクタール超の海域を「Southern OSW Power 3」の調査に使うことを認めた。許可期間は36か月、海域使用料は免除で、調査結果は政令58/2025/ND-CPに沿って提出される。REEは10GWのNam Bo案件を2040年までの3期に分け、総額350〜400億ドル規模で提案している。PEVの許可期間は報じられていないが、地場の前例からすると調査フェーズは年単位で続く。
調査は開発者が自前で全部やるものではなく、ベトナムでは受け皿が先に動く。オランダのFugroは2026年1月14日、ペトロベトナム系のPTSC Geos and Subsea Services(PTSC G&S)とのMoUを2年延長し、地球物理・地盤・気象海象のデータサービス供給を続けると発表した。提携は2011年からで、2027年に日本企業が狙うのは新市場の一番手ではなく、既存の座組みへ食い込む競争になる。
ベトナム側の製造能力も見誤れない。ペトロベトナム系のPTSCは洋上変電所をポーランド向けに建造しており、この点はベトナム製の洋上変電所4基がポーランドへで扱った。鋼構造を日本から運ぶより、設計・検査・施工管理・特殊機材の層で入るほうが現実的だ。南部の大型海洋土木もビングループが海上14km着工で見た通り、地場の施工規模は小さくない。
ベトナム電力庁(EAV)とドイツのGIZが2026年9月8日にハノイで開いたワークショップでは、洋上風力向け港湾の要件として次の試算が出た。
同ワークショップでは産業・港湾クラスターの候補として、石油ガスのインフラと深水港を活かす南部(ブンタウ、ビントゥアン、ニントゥアン)と、鉄鋼・機械産業を土台にする北部(ハイフォン、クアンニン)が挙がった。Nam Trung Bo 3の海域は南部案の想定と重なる。工事用の岸壁とヤードの確保先が、基礎構造物の調達先を左右する。
| 段階 | 確認できている内容 | 時期 |
|---|---|---|
| 海域調査許可の承認 | 農業環境省の承認をPEVが公表 | 2026年9月23日(発表日) |
| 現地調査 | 地盤・物探、風況、気象海象、環境調査等 | 2027年 |
| 商業運転 | 同社の見込み | 2031〜2035年 |
基礎構造物や海洋土木の本発注は、この表のどこにも入っていない。調査の後の投資決定と許認可を通ってからの話で、2027年時点で確定しない。前倒しで社内説明すると期待と実績が合わなくなる。
制度面には追い風がある。国会決議253/2025は洋上風力案件で投資方針と投資家の承認を同時に出せるようにし、準備期間の短縮を狙う。2026年6月9日にGWEC代表団と会ったファム・ザー・トゥク常任副首相は、規制改善と手続き削減を続けると述べた。同じ会合では国際企業側から、透明な法枠組みと国際基準に沿ったPPA、送電網・港湾の増強を求める声が出た。9月のEAV・GIZワークショップでも、機器メーカーが投資判断を下せるよう10〜25年続く案件パイプラインが要るという指摘が並んだ。需要側ではメイコーのフート省5億ドル工場のような大型の製造投資が続く。
次の一手は、2027年の現地調査を見据えて自社の調査船・海洋計測機材・要員のスペックと過去実績をA4一枚にまとめ、PEVとPTSC G&Sの双方に当てておくことだ。開発者へ直接当たる線と、ローカル調査事業者の下に入る線は競合しない。