ベトナムのShopeeが、9月9日に開催した大型セール「9.9 Ngày Siêu Mua Sắm(9.9スーパーショッピングデー)」の結果を公表した。配送まわりの2つの数字が目を引く。1時間以内に届ける速達便「hỏa tốc 1H」の注文が5倍、テレビや洗濯乾燥機を設置サービス付きで買う注文が8倍に伸びたという。ベトナムで家電や住設機器を扱う日本企業には、EC側が「運んで据え付けるところまで」を商品として組み始めた合図になる。ただしこの倍率は、基準を読み違えると社内の計画資料に使えない。
最初に確かめたのは比較の基準だった。起点のVietnamBiz(9月19日配信)は、速達を選んだ利用者数の3倍に so với ngày thường(通常の日と比べて)という但し書きを付け、1時間便の5倍をその直後に続けている。VnExpressとCafeF、配信元のDoanh Nghiệp & Kinh Doanh版も同じ並びだった。前年同日比でも前回セール比でも月平均比でもなく、平常営業日1日分に対する9月9日当日1日分の比率である。
ベトナムのECは毎月「ゾロ目の日」に大型セールを打つ構造で、平常日の需要は後ろ倒しされやすい。抑えた谷を分母にした山の高さが、そのまま倍率になる。
速達は1時間便(1H)と4時間便(4H)の2種類がある。原文はこの2つを合わせた利用者数が通常日の3倍、うち1時間便の注文数が5倍と指標を分けて書いている。見出しの5倍は人数ではなく注文件数で、同じものとして扱うと需要の広がりを過大に見る。
VnExpressは「Shopee thống kê(Shopeeの集計)」、CafeFは「Dữ liệu từ Shopee」と出所をShopeeと明記している。第三者検証や横断集計ではない。バウチャー数や視聴回数のような全体の数字は出ているが、配送・設置まわりの注文件数やGMVは示されておらず、8倍の分母が1日何件かは分からない。
| 指標 | 数値 | 対象期間 | 比較の基準 |
|---|---|---|---|
| 1時間便(1H)の注文数 | 5倍 | 9月9日当日 | 通常日 |
| 速達(1H・4H)を選んだ利用者数 | 3倍 | 9月9日当日 | 通常日 |
| 設置サービス付き大型品の注文 | 8倍 | 9月9日当日 | 通常日 |
| Shopee Live・Video経由の販売個数 | 5倍 | 9月9日当日 | 通常日 |
| Shopee Mallの初回購入者数 | 3倍 | 9月9日当日 | 通常日 |
| Shopee Mall Outletの販売個数 | 41倍 | 9月9日当日 | 通常日 |
| 使われたクーポン・送料優待 | 1億4,500万件超 | イベント全体 | — |
| 消費者の節約額 | 最大14兆ドン | イベント全体 | — |
| Live・Videoの視聴回数 | 22億回超 | キャンペーン全体 | — |
| AIを使ったライブ配信 | 7,000回近く | イベント全体 | — |
節約額の「14 nghìn tỷ đồng」は14兆ドンで、VnExpressは同じ数字を「14.000 tỷ đồng」と書いている(ベトナム語表記ではピリオドが3桁区切り)。ベトコムバンクが2026年9月25日に掲示した電信送金レート(1米ドル=25,790ドン、1円=160.34ドン)で換算すると約5億4,000万米ドル、約873億円。原文は「lên đến(最大で)」と上限を示す語を使っており、確定額ではない。
8倍が出た「hàng cồng kềnh(かさばる商品)」で、原文が挙げた売れ筋上位3グループはテレビ、洗濯乾燥機、エアコンだった。いずれも単価が高く、玄関先に置いて終わりにできない商材である。
Shopeeが強調するのは販売数より、配送と設置を注文の中に統合した点だ。買った人が業者を別途手配する手間が消え、店頭で買う理由が一つ減る。この領域は実店舗の家電量販が押さえてきた。ベトナム最大級の家電チェーンの資金調達を扱ったディエンマイサインの大型IPOと並べると、同じ商材を店とECが別の武器で取りにいく形が見える。
「かさばる商品」から家具を連想しやすいが、報道3本が売れ筋として挙げるのはテレビ、洗濯乾燥機、エアコンの家電3グループだ。出品者側で伸びた業種もデスクトップPC、日用品のギフトセット、フェイスケアだった。大型家具がEC化したとは読めない。
CafeF(9月16日、An ninh tiền tệ配信)は「TMĐTが大型品の最大の障壁を壊し始めた」と位置づけつつ、販売・物流・設置の連結がこれから整うかどうかが条件だと書き、達成済みとしては扱っていない。VnExpress(9月18日)も、ECの物流網に柔軟な対応力が求められるという書き方にとどめている。
倍率だけでは規模がつかめない。同じVietnamBizが9月25日に伝えたMetric.vnの集計では、8月19日から9月18日の1か月にShopeeとTikTok Shopで売れた月餅の売上が約1,600億ドン(約10億円)。内訳はTikTok Shopが1,100億ドンで前年同期比約87%増、Shopeeが480億ドン超で同24%増。季節商材1品目でこの水準という実額を横に置くと、倍率の大きさと市場の厚みが別の話だと分かる。
社内稟議に「ベトナムのECで大型家電が8倍」と書くと、前年比の成長率と誤読されて計画に乗りかねない。使うなら「通常営業日1日に対するセール当日1日の比率、出所はShopee自社集計、絶対数の開示なし」まで併記したい。見るべきは、設置付き配送が使える省・市と、そこに自社製品を据え付けられる人員がいるかどうかになる。
据付を伴う商材でEC比率を上げると、初期不良と据付不良の切り分けが必ず問題になる。誰が付けたのか、据付ミスの費用を誰が持つのか、返品時の引き取り費用はどちら持ちか。ベトナムで家電を伸ばす中国勢を整理したTinecoの浄水器参入でも、販売チャネルより先にアフター体制が効いていた。契約書に落ちないまま販売数だけ伸ばすと、返品率が利益を先に食う。
大型品の受け皿が広がる一方、1梱包あたりのコストは出品者側に寄せられ始めている。CafeFが9月25日に報じたところでは、TikTok Shopが9月21日に物流運用手数料の新設を告知した。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 告知日 | 2026年9月21日 |
| 適用開始 | 2026年10月12日 |
| 対象 | 課金重量が10kgを超える梱包 |
| 金額 | 1梱包3,000ドンから、最大65,000ドン |
| 負担者 | 出品者(注文の精算時に計上) |
| 返金の扱い | 配達成功後の返品・返金では戻らない/配達不成功なら課金なし |
EC運用代行Tuki Agencyでトップを務めるレ・ホア・トゥエン氏は、販売価格50万ドンの家具で試算を示した。原価20万、プラットフォーム・決済10万、アフィリエイト5万、広告5万、クーポン2万、梱包・運用1.5万ドンで税引前利益は6.5万ドン(売上の13%)。2万ドンの物流手数料が乗ると4.5万ドン(同9%)に下がる。手数料は売上の4%でも、利益貢献額では30.8%の目減りになる。TikTok ShopのGMVがShopeeに肉薄する水準まで伸びた段階で、収益化の負担が出品者に回り始めた形だ。
同氏は、増えた手数料と同額の値上げでは埋まらないとも指摘する。売上に連動する変動費が25%を占める場合、2万ドン値上げしても手元に残るのは1.5万ドンで、必要な値上げ幅はおよそ2.67万ドンになる。ただし値上げは転換率を下げるため、全品一律ではなく商品ごとに判断すべきだという内容だった。
| 確認項目 | 聞く内容 |
|---|---|
| 設置の実施主体 | 配送業者か、専門業者か、出品者手配か |
| 設置費の負担 | 商品価格に含むか別建てか、負担分の有無 |
| 対応エリア | 設置付き配送を使える省・市と、対象外地域の扱い |
| 据付不良の窓口 | 一次受付の主体と、再訪問費用の負担先 |
| 課金重量の定義 | 実重量か容積重量か、大きい方を採るか |
| 返品時の物流費 | 配達成功後の返品で手数料が戻るか |
今回の発表は、ベトナムのECが据付までを商品として扱い始めた材料ではある。ただし自社が動けるかは、自社側の据付体制で決まる。まず取れる一手として、現在の代理店・工事協力店が9.9当日のような需要集中日にどれだけ据付枠を出せるか、都市別の1日あたり上限件数を書き出したい。その上限がEC側の受注能力より低ければ、チャネルを増やす前に据付枠の手当てが先になる。