動画アプリ発のECとして急伸してきたTikTok Shopが、ベトナムで首位Shopeeを射程に捉えた。同社はベトナム参入7年で累計約50億ドルを投じ、いまや年間GMV(流通総額)は約100億ドル、4大プラットフォームに占めるシェアは40%を超える。さらに財務省幹部との会合で、4,500万人の買い手に向けた決済サービス「TikTok Payment」の立ち上げと、ホーチミン市国際金融センター(IFC)での現地法人化を表明した。物流の枠を越え、決済・金融へと事業の重心を移す動きである。
市場シェア40%超、Shopeeとの距離を一気に詰める
ベトナムの大手ECプラットフォーム(Shopee、TikTok Shop、Lazada、Tiki)の2025年GMVは約16.4億ドル規模に拡大した。このうちShopeeが56%超、TikTok Shopが40%超を握り、両者で全体の97%を占める。LazadaとTikiの合計は約3%にまで縮小した。TikTok Shopは2023年に24%程度だったシェアを2年で40%台へ押し上げており、参入後発組とは思えない速度でShopeeを追い詰めている。
四半期で見ても勢いは鮮明だ。2025年第1四半期、TikTok Shopの売上は前年同期比113.8%増と倍以上に伸び、Shopeeの29.3%増を大きく上回った。動画とライブ配信を起点に「見て、その場で買う」体験を作り込んだ設計が、若年層を中心に支持を広げている。
累計50億ドル投資、3,000万件/月の注文をさばく基盤
TikTokはベトナム参入から7年で累計約50億ドルを投じてきた。年間で処理する注文は約30億件、発行する電子インボイスは年20〜30億通に上る。広告主は約50万社、TikTok Shop上の事業者も約50万社、コンテンツクリエイターは約600万人を数える。国家予算への納付は4兆VND(約152百万ドル)を超えた。プラットフォームというより、ベトナム経済の取引インフラの一角になりつつある。
「TikTok Payment」――物流から金融へ事業の重心が移る
今回の表明で目を引くのは、決済・金融への初参入である。TikTokは4,500万人の利用者に向けた決済サービス「TikTok Payment」を整備する方針を示した。あわせて越境型から現地法人型への転換を進め、ホーチミン市国際金融センター内に法人を設けるという。物流面では年10〜20億件を処理できる物流サービスのライセンス取得も模索する。財務省のCao Anh Tuan次官は、TikTokについて「コンテンツの接続・創出の場であるだけでなく、事業者の商品販促を支える存在だ」と述べた。
主要指標で見るTikTok Shopベトナム
| 項目 | 数値 | 備考 |
|---|---|---|
| 年間GMV | 約100億ドル(約1兆5,000億円) | 1ドル150円換算 |
| ECシェア(4大PF内) | 40%超 | Shopeeは56%超 |
| 累計投資額 | 約50億ドル(約7,500億円) | 参入7年 |
| 買い手 | 約4,500万人 | 決済サービスの対象 |
| 出店事業者/広告主 | 各約50万社 | — |
| 年間注文数 | 約30億件 | — |
業界・行政の反応
第一に、行政側はTikTokの現地法人化と納税姿勢を前向きに評価している。越境ECに対する税・データ管理の論点が世界的に強まるなか、現地法人としての受け皿づくりは規制当局にとっても扱いやすい。
第二に、競合のShopeeはMetaと組み、Facebook投稿から離脱せずに購入できるアフィリエイト連携を進めるなど、ソーシャル起点の購買でTikTokに対抗している。動画とSNSを舞台にした主導権争いは、出店者の販促手法そのものを変えつつある。
第三に、決済領域では既存のMoMoなど地場フィンテックが先行する。45百万人規模の利用者基盤を持つTikTokの参入は、ウォレット競争の地図を塗り替える可能性がある。
ベトナム進出を検討する日本企業への影響
消費財や食品を扱う日本企業にとって、ベトナムECの販路設計は「ShopeeかTikTokか」ではなく「両方をどう使い分けるか」の段階に入った。検索起点で比較購買が起きやすいShopeeと、動画・ライブで衝動購買を生むTikTok Shopでは、見せ方も価格設計も最適解が異なる。ベトナムEC売上がQ1で47%急増した局面では、特に美容・食品カテゴリでライブコマースの貢献が大きかった。
TikTok Paymentが軌道に乗れば、決済から販促データまでTikTok圏内で完結する「閉じた経済圏」が強まる。手数料やデータの主導権をプラットフォームに握られすぎないよう、自社サイトやLINE等を併走させる設計も検討しておきたい。
業界への波及
TikTokはすでにホーチミン市に1.25億ドルを投じ、物流・決済・ECの3社を国際金融センターに設立する計画を打ち出している。今回の「TikTok Payment」表明は、その布石が金融まで具体化した形だ。地場フィンテックのMoMoがIPO前の資本再編に動くなか、決済を握る者がコマース全体を握る構図が一段と鮮明になる。農村部ではTikTok Shopが3,000の村落でEC化モデルを展開しており、都市の決済と農村の販路を同時に押さえる戦略が見える。
まとめ
TikTok Shopは年間GMV約100億ドル・シェア40%超でShopeeに肉薄し、決済「TikTok Payment」で金融へ初めて踏み込む。物流ライセンスや現地法人化と合わせ、コンテンツ→購買→決済を一気通貫で囲い込む構えだ。ベトナム市場で商品を売る日本企業は、プラットフォーム依存とデータ主導権のバランスを意識した販路設計が問われる局面に入った。
参考
- TikTok eyes expansion into logistics, digital finance in Vietnam(The Investor)
- E-commerce in Q1/2025: TikTok Shop Grows Rapidly(Vietdata)
- Vietnam E-Commerce Sector Outlook(Vietnam Briefing)
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