Sendo Farm撤退で読む、ベトナムECの「2強」時代の歩き方

ベトナムのIT大手FPT傘下が運営してきた生鮮EC「Sendo Farm」が、2026年7月10日でサービスを停止する。運営会社のSen Đỏは「経営資源の最適化と中核事業への集中」を理由に挙げた。かつて多品目ECとしてShopeeやLazadaと競ったSendoは、2025年4月に総合ECから撤退して生鮮特化に活路を求めたが、その最後の砦も畳むことになる。ローカル勢の退場が続き、ベトナムECはShopeeとTikTok Shopの2強へ実質収斂した。進出中・検討中の日本企業にとっては、どのプラットフォームに販路を賭けるかという実務判断が、いよいよ待ったなしになっている。

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7月10日にSendo Farmが停止、多品目ECからの2度目の撤退

Sen Đỏは、生鮮・食品・日用品のオンライン販売プラットフォーム「Sendo Farm」を2026年7月10日をもって停止すると発表した。7月1日から9日までは在庫消化のプロモーションを実施し、その後に事業を終える。利用者保護として、会員パッケージの残存分は返金対象とし、ウォレット残高は7月9日まで利用可能、以降は銀行口座への払い戻しを請求できるとしている。

Sendo Farmが扱ってきたのは「今日買って明日受け取る(nay mua – mai nhận)」という予約型のモデルだ。夜間に総合倉庫で仕分けした商品を、街の雑貨店・薬局・一般家庭など身近な受け取り拠点まで届ける。低コストで生鮮を地域に浸透させる設計で、ハノイとホーチミン市を中心に展開してきた。今回の停止は、Sendoにとって多品目ECからの「2度目の撤退」を意味する。

2012年創業のパイオニアが、2025年に総合ECを畳んだ経緯

Sendoは2012年に立ち上がり、FPTを後ろ盾にベトナムECの草分けとして成長した。2012年から2021年までに累計1,250万人の顧客を抱えた時期もあった。しかし外資のShopee、東南アジア発のLazada、Alibaba系のTiki、そして後発ながら急伸したTikTok Shopとの消耗戦のなかでシェアは1%を割り込み、2025年4月15日に総合マーケットプレイスを閉じた。

その後の再出発が、生鮮EC「Sendo Farm」への特化だった。コロナ禍の2021年末にホーチミン市で最初の倉庫を稼働させた事業を母体に、総合ECで戦えなくなった経営資源を、成長余地の大きい食品・日用品のオンライン購買へ振り向ける狙いだった。だが生鮮の現場でも、店舗網を持つBach Hoa XanhやWinMart、即配のGrabFood・ShopeeFoodなど別軸の強者がひしめき、単独プラットフォームで戦い抜くのは容易ではなかった。今回の停止は、その難しさが表面化した結果と読める。

データで見る「2強」への収斂

ベトナムECの主戦場は、いまや2社にほぼ絞られている。調査会社Metricによれば、Shopeeが約56%で首位、TikTok Shopが約42%で肉薄し、両社の合算はおおむね市場の97%前後を占める。TikTok Shopは2025年上半期にGMVが前年同期比148%と急伸し、首位との差を急速に詰めた。SendoやTikiといったローカル勢は、この2社の外側でニッチな領域に押し出された格好だ。

指標 数値 出所・前提
Shopeeの推定シェア 約56% Metric(ベトナム)
TikTok Shopの推定シェア 約42% Metric、2社合算で約97%
TikTok ShopのGMV伸長 前年同期比+148% 2025年上半期・ベトナム
Sendoの総合EC撤退 2025年4月15日 シェア1%割れが背景
Sendo Farm停止日 2026年7月10日 Sen Đỏ発表

市場そのものは縮んでいない。むしろ4大プラットフォームでの消費は月平均で1億ドル規模の伸びを見せ、2025年通年で大台を更新し続けた。つまり「市場が小さいから撤退が起きた」のではなく、「拡大する市場のなかで、2社への集中がさらに進んだ」という構造変化として捉えるのが正しい。

現地・業界の受け止め

現地のEC関係者の間では、今回の停止を「意外」と受け止める向きと、「時間の問題だった」とみる向きが交錯している。生鮮ECの潜在需要は大きいものの、コールドチェーンとラストマイルへの継続投資が重く、単独プラットフォームでは体力勝負になりやすいという見方だ。

出品者側からは、販路を1社に依存するリスクを再認識する声が上がる。撤退のたびに在庫・与信・顧客データの移管が発生するため、複数チャネルに軸足を分けておくべきという実務論が改めて語られている。一方で消費者からは、身近な受け取り拠点で生鮮を買えるモデルが一つ消えることへの惜しむ声も見られる。全体としては、Sendoの判断を「失敗」ではなく「選択と集中」の一環と受け止めるトーンが目立つ。

進出する日本企業が、いま決めるべきプラットフォーム選定

この局面で日本企業が取るべきアクションは明確だ。ベトナムでオンライン販路を張るなら、ShopeeとTikTok Shopの2枚看板を前提に設計し直すことである。ローカルの第3・第4勢力に販路の主軸を賭ける時代は、いったん終わったとみてよい。

具体的には、まず自社商材の売れ方でチャネルを振り分ける。指名買いされる定番品や比較検討型の商品は、検索とレビューが効くShopeeが向く。動画で価値が伝わる新規ブランドや衝動買い型の商品は、ライブと短尺動画で回るTikTok Shopが強い。ベトナムのEC全体で美容・食品系がライブコマース経由で伸びている流れは、四半期で47%急増したEC市場の実態にも表れており、日本の食品・化粧品ブランドが最初に検証すべき組み合わせは「Shopee=安定販路/TikTok Shop=新規獲得」の二本立てになる。

次に、撤退リスクを織り込んだ在庫・データの持ち方を決める。プラットフォーム閉鎖は、出品者にとって在庫の行き場と顧客リストの断絶を意味する。今回のSendo Farmでも会員残高の返金対応が発生した。自社ブランドで進出するなら、注文・顧客データを自社側にも蓄積し、いつでも別チャネルへ移せる体制を最初から組んでおくことが、次の淘汰への備えになる。

市場構造の波及――手数料と規制コストがのしかかる

2強への集中は、出品コストの上昇という副作用も伴う。TikTok Shopは2026年4月から手数料を段階的に引き上げ、Shopeeも追随した。プラットフォームの寡占が進むほど、こうした条件変更に出品者が抗いにくくなる。手数料引き上げの動きは、進出企業の収益計画に直接効いてくる要素だ。

加えて、2026年に施行が進むベトナムのEC・広告関連の新ルールでは、売り手認証やアルゴリズム開示、KOL/KOCの法的位置づけなど、運営・販促の両面でコンプライアンス負荷が増している。7月施行の新EC法を踏まえると、進出企業はプラットフォーム選定と同時に、認証・表示・インフルエンサー起用の社内ルールを固めておく必要がある。

実務チェックリストと関連情報

  • 販路は「Shopee=定番・比較検討」「TikTok Shop=新規・動画訴求」で役割分担する
  • 注文・顧客データは自社側にも二重で保有し、チャネル移管に即応できる体制を組む
  • 手数料改定・新EC法の要件を織り込んだ収益計画とKOL起用ルールを先に固める
  • 生鮮・食品はコールドチェーンとラストマイルの委託先を、進出前に現地で押さえる

関連する動きとして、TikTok Shopの決済・金融参入も要注視だ。2強がそれぞれ物流・決済まで囲い込む方向に進むなか、日本企業は「どのエコシステムに乗るか」という単位で意思決定を迫られている。

まとめ――次の一手

Sendo Farmの停止は、ベトナムECが淘汰の局面を抜けて2強の寡占へ移行したことを示す節目だ。市場は拡大を続けているからこそ、勝ち残ったプラットフォームの重みが増している。進出・拡大を検討する日本企業がいま動くべきは、(1)ShopeeとTikTok Shopでの試験販売を小ロットで始め、自社商材の相性を数字で確かめる、(2)顧客・注文データを自社側にも蓄積して撤退リスクに備える、(3)手数料と新EC法のコストを織り込んだ損益計画を引き直す――この3点である。プラットフォーム選定を「どれか一つ」ではなく「2強を前提にした役割分担」として設計することが、次の数年のベトナムECを戦う出発点になる。

参照元

この記事を書いた人

大手総合商社にて約8年間、グループ子会社の経営改革や出資先スタートアップとのJV設立を担当。その後インド駐在として、日系大手飲食チェーンのインド展開に従事し、現地に合わせたメニュー開発やマーケティングを推進。

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