ShopeeがInstagramで反撃──日本ブランドの越境ECはどう動くか

ShopeeとMetaが2026年7月1日、Instagram経由のアフィリエイト販売プログラムをベトナムを含む8市場で正式に立ち上げた。クリエイターがリールやフィード投稿にShopeeの商品を紐づけ、視聴者が購入を完了すると手数料が入る仕組みで、投稿から離脱せずに購買まで進めるのが特徴だ。ベトナムのEC市場でShopeeを猛追するTikTok Shopは、売上の大半をアフィリエイト経由で稼いでいる。その勝ちパターンを、Shopeeが世界最大級のSNS基盤を持つMetaと組んで取りに来た格好である。ベトナムに越境出品する日本ブランドにとって、これは「良い商品を並べれば売れる」時代の終わりを意味する。コンテンツと連動した販路設計が、出品初日から必要になる。

目次

起点ニュースの要旨──Instagramに「買える投稿」が来た

今回のプログラムは、クリエイターがShopeeのアフィリエイトアカウントをInstagramのプロアカウントに連携し、Shopeeの商品を選んでリールやフィードにタグ付けする。視聴者がその商品を購入すると、クリエイターに手数料が支払われる。1つの投稿に複数商品を載せられ、ショッピングアイコンと手数料表示が付く。対象はシンガポール・マレーシア・タイ・インドネシア・ベトナム・フィリピン・台湾・ブラジルの8市場で、MetaがInstagramで米国外のアフィリエイト提携を組む初期事例のひとつにあたる。

これは突然の一手ではない。ShopeeとMetaは2025年にFacebookでアフィリエイト提携をすでに始めており、Instagram版はその延長線上にある。Metaの発表によれば、2026年3月時点でFacebookアカウントをShopeeアフィリエイトに連携したクリエイターは世界で500万人を超え、その約半数がアフィリエイトを初めて経験した層だという。裾野が一気に広がったことになる。

背景・全容──なぜShopeeは今SNSに寄せるのか

理由はシンプルで、SNS発の購買でTikTok Shopに攻め込まれているからだ。ベトナムのEC市場は「動画を見て、その場で買う」流れが主役になりつつある。Shopeeは検索・カート型の強い商品基盤を持つ一方、コンテンツから購買へ直結させる導線でTikTok Shopに後れを取ってきた。Facebook、YouTubeに続くInstagram参入は、この欠けたピースを埋める動きである。

もう一つ見逃せないのが、Shopeeとメタが東南アジアの一部市場で試験導入する「アフィリエイト広告」だ。クリエイターの同意を前提に、そのアフィリエイト投稿をMetaの広告ツールで有料出稿できる。うまく当たった投稿を、ブランド側が広告費を乗せてさらに拡散できる設計で、成果報酬型のオーガニック投稿と運用型広告が地続きになる。ブランドにとっては、クリエイターの当たりコンテンツを「見つけて、増幅する」新しい打ち手になる。

データで見る勢力図──Shopee優位、しかしTikTok Shopの伸びが速い

ベトナムのEC市場は主要プラットフォームで年間流通総額(GMV)が拡大を続けている。ECデータ企業Metricの2025年通年データでは、Shopee・Lazada・Tiki・TikTok Shopの4社合計GMVは約429兆7,000億ドン規模。シェアはShopeeが56%超で首位を保つ一方、TikTok Shopは41%超まで伸び、両社で市場の97%前後を占める2強構造になっている。集計期間の取り方によってはShopee約57.5%、TikTok Shop約39.6%とする数字もあり、いずれもShopee優位・TikTok Shop急伸という構図は一致する。

指標 Shopee TikTok Shop
ベトナムEC市場シェア(2025年) 約56〜57.5% 約39.6〜41%
強みの導線 検索・カート型の商品基盤 動画コンテンツからの直接購買
SNS連携の軸 Facebook→Instagramアフィリエイト プラットフォーム内の動画・ライブ

元記事は、TikTok Shopの売上の約6割がアフィリエイト経由(金額規模で約3億ドル)で、フォロワー1,000人という低い参入障壁が販売者の裾野を広げたと指摘している。Shopeeが今回、Metaの巨大なクリエイター基盤に手を伸ばしたのは、この「裾野の広さ」で追いつくためだと読める。ベトナムのInstagram利用者は各種調査で概ね1,100万〜1,250万人(人口比11〜12%程度)とされ、SNS購買の潜在層としては十分な厚みがある。

現地・業界の反応──「投稿が売り場になる」流れは不可逆

ベトナムのマーケティング実務者の間では、今回の提携を「ShopeeがようやくSNSコマースの土俵に上がった」と受け止める声が目立つ。TikTok Shopの動画一本足に対し、Instagramのビジュアル訴求という別のチャネルが開くことで、クリエイター側は投稿先を選べるようになったという指摘がある。

越境で商品を扱う出品者からは、手数料表示付きの「買える投稿」が標準化することで、これまで別々だった認知獲得と販売が一本の投稿に統合される、との見方が出ている。一方で、クリエイターの取り分と広告費が重なると採算管理が複雑になるため、成果報酬率の設計を早めに固めるべきだという慎重な声もある。

ベトナムの規制環境も無視できない。KOL・KOCを「売り手」として法的に位置づける改正広告法や、7月施行のEC法で売り手認証・アルゴリズム開示が求められる流れがあり、アフィリエイト投稿も「広告」として説明責任を負う前提で組む必要がある、との指摘が実務者から上がっている。

日本ブランドへの示唆──「並べて待つ」から「一緒に作る」へ

ここからが本題だ。ベトナムのShopeeに越境出品している、あるいは出品を検討している日本の1社が、今すぐ取るべき具体アクションを1つに絞るなら、現地Instagramクリエイターを起点にしたアフィリエイト導線を、商品ページとは別に設計することである。

従来の越境ECは、商品ページを整え、広告を出し、レビューを積むという「並べて待つ」モデルだった。だが今回の提携で、購買のきっかけがクリエイターの投稿へ移る。日本ブランドが英語・ベトナム語の商品説明を磨くだけでは、そもそも投稿に取り上げられなければ売り場に立てない。まず着手すべきは、自社商品を紹介したくなる素材(使い方の短尺動画、before/after、日本ならではの背景ストーリー)をクリエイターに渡せる形で用意することだ。手数料率と提供素材をセットにして数名のマイクロクリエイターと組み、Instagramアフィリエイトで小さくテストしてから、当たった投稿を「アフィリエイト広告」で増幅する。この二段構えが、Shopee×Metaの新機能をそのまま活かす最短ルートになる。

この動きは、TikTok Shopがすでに整えたアフィリエイト経済圏とも地続きだ。ベトナムでSNS発の購買が主流になる流れは、TikTok ShopとShopeeの2強体制が定着したことでほぼ確定している。日本ブランドは「どちらか」ではなく、両プラットフォームでクリエイター起点の販路を持つ前提で設計したほうが、取りこぼしが少ない。

市場への波及──広告費とクリエイター報酬の再配分が起きる

プラットフォーム側がアフィリエイトを主戦場にすると、ブランドの予算配分が変わる。従来のディスプレイ・検索広告に振り分けていた費用が、クリエイターへの成果報酬とアフィリエイト広告の運用費へシフトしていく。特に、成果報酬型オーガニック投稿と運用型広告が同じ導線でつながることで、「良いコンテンツを見つけて、広告費で伸ばす」という運用が標準化する可能性が高い。

この構造変化は、実店舗・EC双方に効く。ベトナムではEC急成長で一等地の路面店が空室化する動きも出ており、消費の入り口がオンラインのコンテンツへ移っている。SNS発の購買が拡大するほど、実店舗を持たない越境ブランドでも、投稿とアフィリエイトだけで販路を作れる余地が広がる。逆に言えば、コンテンツ設計を外注任せにして手を打たないブランドは、同じ棚に並んでいても選ばれにくくなる。

実用情報・関連リンク

ベトナム市場でアフィリエイト起点の販路を組む際は、①手数料率の設計(クリエイターの取り分と広告費が重ならない水準か)、②提供素材の内製化(短尺動画・使用シーン・ストーリー)、③規制対応(アフィリエイト投稿を「広告」として表示・説明できるか)の3点を最初に固めておきたい。ベトナムのEC・小売の最新動向は、以下の関連記事もあわせて確認しておくと全体像がつかみやすい。

まとめ──今週のうちに「クリエイター用素材」を1本作る

ShopeeのInstagramアフィリエイト参入は、ベトナムのEC競争が「商品を並べる勝負」から「誰にどう紹介してもらうかの勝負」へ移った合図だ。日本ブランドが今週動くなら、大がかりな戦略会議より先に、現地クリエイターがそのまま使える短尺の商品紹介素材を1本作り、マイクロクリエイター数名にアフィリエイトで試してもらうことをおすすめしたい。小さく回して当たりを見つけ、その投稿を広告で増幅する。この一連の型を早く回したブランドから、Shopee×Metaの新導線を自社の販路に変えていける。

参照元

この記事を書いた人

大手総合商社にて約8年間、グループ子会社の経営改革や出資先スタートアップとのJV設立を担当。その後インド駐在として、日系大手飲食チェーンのインド展開に従事し、現地に合わせたメニュー開発やマーケティングを推進。

目次