ハノイ繁華街から店舗が消える――EC急成長で「一等地が空室」の構造転換

ハノイの繁華街から店舗が消えている。Thai Ha通り、Kim Ma通り、Nguyen Thai Hoc通りなど、かつてファッション・飲食店が並んだ一等地に空室が30軒以上出現。家賃を最大37%値下げしても借り手がつかない。EC急成長と大型モールの台頭が、ベトナムの小売不動産を構造的に変えつつある。

目次

ハノイ繁華街で何が起きているのか

空室30軒超、家賃は13〜37%下落

Kim Ma通りとNguyen Thai Hoc通りだけで少なくとも30軒が空室になっている。タウンハウス型店舗の平均募集賃料は、2025年のピークから13〜37%下落した。不動産ポータルBatdongsanのデータでは、ハノイの個人向け住宅への関心も2025年末から22%減少している。

Thai Hoangの事例――月商が家賃を下回った

39歳のThai Hoangは、Thai Ha通りで40平方メートル・間口5メートルのメンズ服店を営んでいた。月額賃料はVND 3,500万(約21万円)。大家は6%の値引きを提示したが、「売上が家賃にも届かない月があった」として退去を選択。在庫はオンライン販売に移行した。

構造転換の3つのドライバー

1. EC市場の急成長

ベトナムのEC市場は年間20%超のペースで拡大を続けている。ShopeeがMetaアフィリエイトを強化するなど、プラットフォーム間の競争も激化。消費者は実店舗で試着してオンラインで買う「ショールーミング」行動を加速させている。

2. 大型統合モールの台頭

CBRE VietnamのMai Voは「消費者の習慣はECと統合型ショッピングモールの台頭で大きく変わった」と指摘する。路面店に求められていた「ブランド体験」機能が、空調完備・駐車場付きのモールに移転している。

3. 規制と物件の老朽化

歩道営業への取り締まり強化に加え、タウンハウス型物件は建物の老朽化が進行。ブランドイメージの維持が難しくなっている。構造的な問題のため、景気回復だけでは空室は埋まらない。

エリア 業態 家賃変動 状況
Thai Ha通り ファッション 13〜37%下落 退去が加速
Kim Ma通り ファッション・飲食 30軒以上空室 借り手不在
Nguyen Thai Hoc通り ファッション・飲食 30軒以上空室 借り手不在
Xuan Thuy – Cau Giay 複合 下落傾向 新規出店減少

データで見る市場の変化

賃料と関心度の推移

指標 数値 通貨換算
Thai Hoangの月額賃料 VND 3,500万 約21万円(1USD≒155円、1USD≒26,300VND)
タウンハウス賃料下落幅 13〜37% 2025年ピーク比
住宅関心度の減少 22%減 2025年末比(Batdongsan)

ベトナムEC市場の成長

ベトナムのEC市場は2025年に約250億ドル規模に達し、東南アジアでインドネシアに次ぐ第2位。GrabがAI活用で事業拡大するなど、テック企業のインフラ投資が実店舗からの消費シフトをさらに加速させている。

現地の反応

不動産専門家の見解

CBRE VietnamのMai Voは、今回の空室増加を「一時的な現象ではなく、市場の構造的な転換」と断言した。路面店の需要回復を待つのではなく、用途転換(コワーキング・倉庫・体験型店舗)を検討すべきとの助言だ。

大家側の対応

一部の大家は6%の値引きを提示しているが、テナントの要求水準に達していない。賃料を30%以上下げても、立地の魅力が物件の物理的条件で相殺されるケースが増えている。

テナント側の転換

Thai Hoangのように、実店舗からオンライン専業に切り替える事業者が続出。固定費の削減と顧客リーチの拡大を同時に実現する判断だ。

日本企業・ベトナム進出組への影響

出店戦略の見直し

ベトナムに実店舗で進出する日本企業は、路面店の出店コスト低下を好機と見る前に、「実店舗で集客できるか」を冷静に検証する必要がある。消費者の購買チャネルはECとモールに移動しており、路面店は「ブランド体験の場」としてのみ機能する方向だ。

EC連携を前提とした店舗設計

Momoの金融事業拡大が示すように、ベトナムの消費者はデジタル決済・ECへの移行が速い。実店舗をショールームとして活用し、購買はECに誘導するオムニチャネル設計が現実的な選択肢だ。

業界への波及

不動産業界の再編

路面店の空室増加は、ベトナム不動産市場の構造変化を示している。タウンハウス型物件のリノベーション需要、コワーキングスペースやダークストア(即配倉庫)への転用が新たな投資機会になる。

物流・倉庫需要の増加

EC拡大に伴い、都市部での小型倉庫・フルフィルメントセンターの需要が急増。空室となった路面店の倉庫転用は、オーナーとEC事業者の双方にとって合理的な解だ。

実用情報

項目 内容
影響エリア Thai Ha / Kim Ma / Nguyen Thai Hoc / Xuan Thuy – Cau Giay
家賃下落幅 2025年ピーク比13〜37%
データソース Batdongsan(不動産ポータル)、CBRE Vietnam
関連トレンド EC急成長、大型モール台頭、Qコマース拡大
日本企業への示唆 路面店出店よりモール内出店+EC連携を優先

まとめ

ハノイ繁華街の空室増加は、ベトナム小売市場がEC中心に再編されている証左だ。家賃下落は一見チャンスだが、消費者の動線そのものが変わっている以上、従来型の路面店出店は慎重に判断すべきだ。日本企業は「実店舗=ブランド体験」「購買=EC」というオムニチャネル前提の出店設計で、ベトナム市場に臨む必要がある。

出典: VnExpress International (2026年4月)

この記事を書いた人

大手総合商社にて約8年間、グループ子会社の経営改革や出資先スタートアップとのJV設立を担当。その後インド駐在として、日系大手飲食チェーンのインド展開に従事し、現地に合わせたメニュー開発やマーケティングを推進。

目次