物流大手の上組が、ベトナムのコールドチェーン(低温物流)に自前投資で本格参入する。同社は現地子会社を増資して冷凍冷蔵倉庫を建設し、あわせて既存の冷凍冷蔵倉庫運営会社にも出資した。ベトナム向けに冷凍・冷蔵の食品や温度管理が必要な医薬品を扱う日本企業にとって、これは「保管・輸送のインフラ側が整い始めた」という具体的なサインだ。倉庫が足りずに現地展開を見送ってきた企業ほど、この動きは自社の計画に直結する。
上組が動かした二つの一手
起点となったのは2026年6月26日の発表だ。上組はベトナム子会社の上組ロジスティクス・ベトナム(KLV)を増資する。増資額は2000億ドン(約12億3000万円)で、増資後の資本金は6500億ドン(約40億円)になる。払い込みは7月を予定する。円換算は1円=約162ドンで計算されており、本稿ではこの前提を用いる。
この資金でホーチミン市タンフオック街区の第3フーミー特別工業団地に倉庫を建てる。内訳は一般倉庫が9538平方メートル、冷凍冷蔵倉庫が4010平方メートル。冷凍冷蔵棟は全館で温度調整ができる構造にする。着工は2027年4月、竣工は2028年9月の予定だ。もともとは一般倉庫だけの計画だったが、現地の需要を検証し直した結果、一部を冷凍冷蔵に振り替えたという経緯がある。ここがこのニュースの肝で、上組は「冷やす箱」に需要があると自ら判断して設計を変えた。
さらに上組は7月2日、既存の冷凍冷蔵倉庫運営会社「CLK COLD STORAGE」の持分50%を取得したと発表した。CLKは2015年設立、資本金1840万ドル(約30億円)で、ホーチミン市のタンドンヒエップB工業団地で日本水準の品質管理を掲げてコールドチェーンを運営してきた会社だ。今回の協業相手はベトナムで30年以上の事業経験を持つ日本ロジテム。上組は自社建設という時間のかかる一手と、既に動いている倉庫を押さえる一手を、ほぼ同時に打ったことになる。
なぜ今、冷凍冷蔵なのか
フーミー3工業団地は複数の日系メーカーが工場建設を決めている集積地で、稼働が進めば原料・製品を保管する倉庫需要が膨らむ。上組が一般倉庫の一部を冷凍冷蔵へ切り替えたのは、この工業団地周辺で常温だけでは取りこぼす荷物があると読んだからだ。工場が増える北部・南部のFDI集積地では、同じ現象が各地で起きている。
背景には、ベトナムのコールドチェーンが慢性的に容量不足という構造がある。主要都市や港湾では冷蔵倉庫の需要が供給を上回り、稼働率が高止まりしている。市場規模は2025年時点で約2億3000万ドルとされ、2026年以降は年率11%台で伸びるとの見通しがある。水産物の輸出額が年90億ドルを超える国でありながら、生鮮・冷凍を安定して保管・輸送できる箱が足りていない。そこへ日系大手が二正面で投資を入れてきた、という構図だ。
二つの投資を並べて読む
| 項目 | 自社建設(KLV) | 出資(CLK COLD STORAGE) |
|---|---|---|
| 発表日 | 2026年6月26日 | 2026年7月2日 |
| 方式 | 子会社増資による新設 | 持分50%取得 |
| 場所 | 第3フーミー特別工業団地 | タンドンヒエップB工業団地 |
| 規模 | 冷凍冷蔵4010㎡+一般9538㎡ | 資本金1840万ドルの既存運営会社 |
| 稼働 | 2028年9月竣工予定 | 既に稼働中 |
| 協業 | 単独 | 日本ロジテムと協業 |
新設倉庫が立ち上がるのは2028年秋で、それまでの空白を既存のCLKで埋める。上組は「すぐ使える冷蔵能力」と「将来の自社拠点」を切り分けて確保した。荷主から見れば、2026年内に預けられる冷蔵スペースと、2028年以降に増える自社倉庫の両方が、同じ物流会社の傘の下で見えている。
現地・業界の受け止め
ある在越の食品商社関係者は、冷蔵倉庫の空きが取れずに新規SKUの投入を遅らせてきたと話す。港近くの冷凍庫はほぼ満床で、繁忙期は予約が数カ月先まで埋まる、というのが現場の実感だという。日系物流が品質管理を前面に出した拠点を増やせば、こうしたボトルネックが緩む可能性がある。
別の物流実務者は、ベトナムの冷蔵倉庫は温度帯の選択肢が乏しく、医薬品や高付加価値食品が求める細かい温度管理に対応できる施設が限られると指摘する。上組が全館温度調整の棟を掲げた点を、その層の荷物を取りに来た動きと見る声がある。日本ロジテムのように現地で30年動いてきた事業者が組んでいる点も、通関や配送の実運用を分かった上での投資だと受け止められている。
もっとも、竣工が2028年秋である以上、目先の逼迫を新設倉庫が解消するわけではない。既存CLKの取扱量にも上限がある。過度な期待は禁物だという冷静な見方も現地にはある。
日本企業が取るべき具体的な一手
この動きが直接効いてくるのは、ベトナムで冷凍・冷蔵の食品や温度管理医薬品を扱う日本企業だ。実務としては次の順で考えたい。
第一に、既に現地で在庫を持ちたい企業は、2028年の新設を待たず、CLK系の稼働中冷蔵倉庫や同種の日系運営拠点に早めに枠を打診しておく。逼迫が続く前提なら、予約は早い者勝ちになる。第二に、フーミー3周辺に工場や販売拠点を検討している企業は、上組の冷凍冷蔵棟が2028年に立ち上がる前提で自社の物流設計を引ける。倉庫が近くにできることは、常温前提だった商品ラインに冷蔵品を足す判断材料になる。
第三に、食品OEMや原料供給の立場なら、ベトナム側の保管インフラが厚くなることは「現地在庫を持てる」「鮮度を保ったまま長く置ける」という提案余地に変わる。冷蔵前提の共同開発や、現地保管を前提にしたロット設計が現実味を帯びる。いずれも、市場全体を俯瞰するより「自社の荷物をどの箱に、いつ入れるか」に落として考えたほうが早い。
市場への波及
日系大手が自社建設と既存出資を同時に打ったことは、他の物流事業者や荷主に温度をあげる。冷蔵倉庫が投資対象として見え始めれば、後追いの供給が増え、数年かけて容量不足が緩む方向に向かう。工業団地に工場を誘致してきたベトナム側にとっても、隣接する冷蔵物流が育つことは、食品・医薬といった温度に敏感な産業を呼び込む材料になる。
関連する動きとして、日系食品・水産の現地加工投資が続いている点も見逃せない。生産と保管が同じ地域で厚みを増せば、輸出向けの一貫した低温物流が組みやすくなる。上組の投資は、その供給網の「保管」部分を補強する位置づけだ。
まとめ──次の一手
上組は「2028年に立ち上がる自社の冷凍冷蔵倉庫」と「今すぐ使える既存倉庫の持分」を同時に押さえ、対越コールドチェーンに二正面で踏み込んだ。ベトナムで冷凍・冷蔵の食品や温度管理医薬を扱う、あるいはこれから扱いたい日本企業がまず取るべきなのは、(1)稼働中の日系冷蔵倉庫に早めに枠を打診する、(2)フーミー3周辺を拠点候補に入れて2028年竣工を前提に物流設計を引く、(3)冷蔵前提の現地在庫・共同開発の提案を組み直す、の三つだ。倉庫が足りないという理由でベトナム展開を止めていた企業ほど、この二つの発表を自社計画の見直しの合図として使いたい。
