ドイツ・ベルリンで9月22日に開幕した鉄道見本市InnoTrans 2026に、ベトナム建設省の代表団が入った。率いたのはブイ・スアン・ズン副大臣。Deutsche BahnやSiemens Mobilityといった大手と席を持ち、その場で口にしたのは、機器や車両を納めるだけの関係は望まない、という一点だった。南北高速鉄道に日本の鉄道勢が関わるなら、この発言は提案書の構成を組み替える材料になる。
断っておくと、商談がまとまった話ではない。Vietnam Investment Review(VIR)が代表団の行動に充てた動詞は「meeting with … to learn about」、各社の経験と技術的な解決策を学ぶための面談だ。契約でも入札でもない。
VIRによれば代表団の参加は9月22日。InnoTrans公式サイトの会期表記は9月22〜25日で、初日にあたる。名前が挙がった相手は、ドイツのDeutsche Bahn、Siemens Mobility、Vossloh、フランスのAlstomとSNCF International、中国のCRRC、チェコのSkoda、そしてVIRが「インフラ・信号・鉄道技術の供給者など」と記したEricssonとPORR。聞き取りの中身は技術選定とシステム構成、コストと工程の管理、安全基準、保守・資産管理モデルだった。
VIRの書き方は「These included …」「such as Ericsson and PORR」で、面談先を全部並べた形ではない。9は記事に社名が出ている数であって、面談企業の総数として確定してはいない。記事が名前を挙げた中に日本企業は入っていない。副大臣の言葉も参加と協力への呼びかけで、各社が応じたとは書かれていない。段階は接触と情報収集だ。
いちばん重いのはここだ。VIRは、国際パートナーとの協力は技術移転・人材育成・国内能力の強化と結びついた長期目標を目指すべきで、機器・車両・サービスの単なる提供に限定されてはならないと副大臣が付け加えた、と書く。企業には、吸収のロードマップに沿った実行可能な技術移転計画の検討、人材育成と知識移転の強化、ベトナム企業のサプライチェーン参加支援を求めたとされる。
これを「技術移転が入札条件として制度化された」と読むと行き過ぎる。動詞は「urged(促した)」で、発注文書の要件ではない。越側の希望であって合意事項でも制度でもない。ただ所管省庁のナンバー2が公開の場で評価軸を言葉にした以上、実質的な採点表として扱いたい。
会期中の署名としてVIRが伝えたのは、この1件だ。代表団はDeutsche Bahnと会い、DBとベトナム・ドイツ大学が鉄道人材の育成・開発について結ぶMoUの署名に立ち会った。当事者は建設省ではなくDBと大学で、MoU自体も拘束力のある契約ではない。副大臣は、資金と技術に並んで技術者・管理者・運営保守要員の早期準備を準備段階から進める必要がある、と述べたとされる。
| Item | Description |
|---|---|
| 区間・延長 | ハノイ・ゴックホイ駅〜ホーチミン市・トゥーティエム駅、1,541km |
| Specification | 最高350km/h、複線・標準軌1,435mm、旅客23駅・貨物5駅 |
| 概算総投資額 | 約1,700兆ドン=約680億ドル(2025年12月26日付VIR)。別の報道では649億ドルとも。確定値ではない |
| 承認・完成目標 | 2024年11月に国会承認、公共投資資金で段階的に実施、2035年完成目標 |
2026年4月22日、ファム・ザー・トゥック副首相が建設省などと開いた会議の報道が現在地を示す。この時点で事前実現可能性調査は完了し、FS向けコンサル契約の仕様書・概算・入札書類が準備済みだった。同じ記事でブイ・スアン・ズン副大臣は、当面の重要任務をFS報告書を作るコンサル会社の選定と技術の供与・移転のパートナーの選定だと述べる。ベルリンでの面談はこの宿題の延長線上にある。同線向けに600件超の技術規定・基準を整備したとも報じられ、基準を固めてから技術と請負を選ぶ順番だ。
技術移転が評価軸に挙がるのは初めてではない。2025年12月17日、VinグループのVinSpeedとSiemens Mobility GmbHが包括的戦略パートナーシップと技術移転の契約に署名したと発表された。対象は車両と信号・通信・電力供給の設計・供給・システム統合、保守での協力、現地化を高める技術移転だ。ただし枠組みの対象はハノイ〜クアンニン線とベンタイン〜カンゾー線で、南北高速鉄道ではない。Vinグループは南北高速鉄道への投資提案を同年12月25日に取り下げている。
韓国勢も似た出方だ。2025年12月4日、THACOとヒュンダイ・ロテムが都市鉄道・高速鉄道向け車両を現地生産する合意に署名した。ロテムが鉄道分野の先端技術をTHACOへ移転し、THACOブランドで車両を造る枠組みで、車両と信号・通信、機電品を束ねたシステムを共同で開発するとされる。
渡す側だけでは進まない。ブンタウで洋上変電所4基を建造しポーランド沖の洋上風力へ送り出した件は、上部構造と支持架台で計約16,000トンを4基同時に仕上げた実績だ。裾野でも、サムスンがバクニン省と進めた育成でベトナム系の1次・2次サプライヤーが25社(2014年)から306社(2023年)へ増えたと報じられている。
順序への指摘もある。事前実現可能性調査をレビューしたArupのTC Chew氏(アジア太平洋マネージングディレクター)はVIRへの寄稿で、この規模の案件は野心だけでは成功せず、資金に現実的で実行に規律が要ると述べる。1人の専門家の見解で政府方針ではないが、副大臣の発言と方向は重なる。
日本側の実務に引き寄せると、要点は3つだ。
日本の鉄道勢が持つ資産は車両や信号の性能だけではない。保守の標準作業、検査周期の組み立て、運転士と保守要員の訓練カリキュラム、故障データの蓄積と改訂の手続き。こうした運用の型は文書に落とせば移転できる。提案の表紙を「何を売るか」から「何年かけて、誰に、どの順番で渡すか」に差し替えられるかが、評価軸との噛み合わせを決める。
建設省の関心領域には、車両基地、予知保全、自動検査・保守、レール継目といった中位の技術が並ぶ。部材・検査装置メーカーや保守受託の事業者には本体の下に入る余地がある。日本精密がベトナム工場を「作る場所」から「開発する場所」へ格上げする例のように、現地で試作と検証を回せる体制があること自体が、移転計画の実現可能性を裏づける。
| Item | What could be confirmed |
|---|---|
| 展示会・会期 | InnoTrans 2026(ベルリン)。公式サイト表記は2026年9月22〜25日、2年に1回 |
| Size | 59か国から3,100社超が出展とVIRは報じる |
| 代表団・所管 | 2026年9月22日参加、建設省ブイ・スアン・ズン副大臣が団長。建設省は2025年に旧運輸省と統合し鉄道を所管 |
| 当面の選定対象 | FSコンサル会社、技術供与・移転のパートナー(2026年4月時点) |
一手を1つだけ挙げる。技術移転の工程表をA4で1枚、日英越の3言語で作っておくことだ。左に自社が渡せる技術項目(設計手法、製造工程、検査基準、保守手順、訓練カリキュラム)、中央に渡す年次、右に受け手側に必要な前提(要員数、設備、資格)を置く。年次と前提まで書いた1枚があれば、建設省でも大学でも事業主体でも同じ紙で話を始められる。次のInnoTransを待つ必要はない。
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