インドのメンズグルーミングD2C、ボンベイ・シェービング・カンパニー(BSC)が2026年9月17日、ジレット(P&G)との広告係争を受けて表現を一部修正しつつ、乗り換え訴求の比較広告『Switch4』を続けると創業者自ら宣言した。デリー高等裁判所で争われるこの一件は、攻めの比較広告がもたらす訴求力と法的リスクの両面を見せる。インドで攻めた広告を打ちたい日本ブランドにとって、比較広告の線引きを考える生々しい実例になる。
BSCの比較キャンペーン『Switch4』は、剃刀替刃の選択肢に関する訴求を軸にしたものだ。デリー高裁でジレットとBSCが争い、当初の広告は裁判所の指示で取り下げられた。BSCは修正版の広告を提出したが、ジレット側の弁護人がその内容に異議を唱えた。裁判はジョティ・シン判事が担当し、BSCには反論書提出のため二週間の猶予が与えられ、次回の審理は2026年10月29日に予定されている。創業者のシャンタヌ・デシュパンデ氏は、選択肢を消費者に広げるのが『Switch4』の狙いだとし、イノベーションと消費者が選ぶ権利を守る立場を崩さないと表明した。
剃刀・替刃のカテゴリは、本体と替刃の規格が囲い込みにつながりやすく、後発が入り込む余地を作るには「他社品からの乗り換え」を正面から訴える必要が出る。BSCはD2C発の後発として、既存の強者に対し選択肢の広さを武器にした。比較広告は伝えたい差を鋭く示せる一方、相手ブランドを名指しする度合いが強いほど、法廷での争いを招きやすい。今回はその典型的な緊張が表面化した形だ。
この一件が示すのは、比較広告の切れ味と、それに伴う訴訟リスクが表裏にあるという事実だ。当初広告は裁判所の指示で撤回され、修正版もなお相手側の異議に直面している。それでも創業者は、選択肢を狭める行為を反市場的・反消費者的だと述べ、乗り換え訴求そのものは続ける姿勢を見せた。表現は法廷のやり取りに合わせて調整しつつ、訴求の芯は動かさない。攻めと守りを同時に走らせるこの構えは、比較広告を実務で扱う際の一つの型を見せている。
ブランド専門メディアのstoryboard18が報じた範囲では、審理でジレット側の弁護人が修正版広告の内容に反論し、BSCには二週間の反論書提出期間が与えられた。デシュパンデ氏は、Switch4とイノベーション、そして消費者の選ぶ権利を支持すると繰り返している。報道は法廷での経過と創業者の発言を中心にまとめており、係争が販売や市場シェアに与えた影響を示す数値は伝えていない。
日本のブランドはインドで、競合を名指しする比較広告に慎重なことが多い。だが後発として選ばれるには、差を明確に示す訴求が効く場面がある。要点は、比較の主張を検証可能な事実に紐づけ、どこまでが安全な線かを事前に法務と詰めておくことだ。攻めの発信でブランドを押し出す動きは、成分表示を武器に多国籍メーカーへ切り込む成分表示で大手に切り込む発信の事例や、メンズD2Cで黒字優先の穴を突く黒字優先で市場の穴を突くメンズD2Cと通じる。買収でD2C連合を取り込むD2C連合を買収で取り込む一手のような守りの一手と並べて、攻守の設計を考えたい。
後発D2Cが強者を名指しで比較する手法は、法的リスクと引き換えに強い差別化を生む。今回のような係争が広く報じられること自体が、比較広告の限界と可能性を業界に示す。攻めの発信で存在感を作るブランドが増えれば、消費者の選択基準も動く。値付けや発信の切れ味でブランドを立てる数字を武器に差別化した値付けの事例の発想とも、同じ土俵で読める。
比較広告は、切れ味と訴訟リスクを同じ天秤に載せる手法だ。インドで攻めた発信を検討する日本ブランドは、名指しの是非を論じる前に、比較の主張を裏づける検証可能な根拠をそろえておきたい。次の一手として、自社が言いたい比較の一文を書き出し、それを支える客観的な証拠と、現地法務が示す安全な言い換えを一つずつ用意することを勧める。