Mercedes-Benzが、2026年9月17日に伝えられた発表で、創業140年を記念するグローバル遠征企画「140 Years. 140 Places.」のインド編を実施した。世界6大陸・140か所をS-Class3台で巡る総走行6万キロメートルの旅の一区間として、インドの各地をブランド体験の舞台に据える。制作はBBDO India。周年のグローバル施策を各国の風土に落とし込むこの手法は、インドで自社ブランドをどう根づかせるかを考える日本企業にとって、体験型マーケティングの設計を測る材料になる。
報道によれば、Mercedes-Benzの「140 Years. 140 Places.」は、6大陸にまたがる140の目的地を巡り、総走行距離は6万キロメートルに及ぶ。旅を担うのはBertha、Carl、Gottliebと名づけられた3台のS-Classだ。3台の名は、自動車の歴史に連なる人物にちなむ。インド編では、Gottliebがニューデリーからアムリトサル、ジャンムー・カシミール、ラダック(Umling Laを含む)、ラクナウ、バラナシ、パトナを経てブータンへ渡り、デリーへ戻る北部縦断の行程をたどる。BerthaとCarlは、ハンピからベンガルール、ゴア、ムンバイへと南部・西部を巡る。周年の物語を、インドの多様な地形と都市を舞台に描く構成になっている。
140年という節目は本来、本国ドイツを中心に語られがちなグローバルな物語だ。それを世界各地の実際の道と風景に落とし込むのが今回の遠征企画の骨格である。インドでは、ヒマラヤの高地ラダックから聖地バラナシ、遺跡の街ハンピ、そして商都ムンバイまで、地形も文化も異なる土地を走ることで、ブランドの歴史を現地の情景と重ねる。ムンバイでは、映画監督のKaran Johar氏と俳優のKiara Advani氏がそれぞれ別のフィルムに参加し、Advani氏はBerthaを「新しい親友」と呼び、旧ボンベイの建築や街並みを巡ったという。土地の物語と人を絡めることで、周年の企画を「よその国の記念行事」から「インドの情景の一部」へ引き寄せている。
今回のインド編の狙いは、制作を担ったBBDO Indiaのコメントに端的に表れている。会長兼CCOのJosy Paul氏は「インドを140年のグローバルな旅の単なる一目的地にはしたくなかった。帰郷のように感じられるものにしたかった」と述べた。Mercedes-Benz IndiaのMD兼CEO、Santosh Iyer氏も「待望の『140 Years. 140 Places.』ワールドツアーがインドへやってくる」と語る。グローバル企画を各国に配るとき、単なるスケジュールの一行として扱えば、その土地の消費者には他人事になる。Mercedesは行程を北部縦断と南部・西部の二系統に分け、高地から聖地、遺跡、商都まで走らせることで、インドを通過点ではなく主役の一つに仕立てた。周年施策を現地の情景と人物で満たす設計が、今回の要になっている。
今回の企画は広告業界メディアafaqsがブランド側の発表として報じたもので、記事の時点では第三者による評価や反響の数値までは示されていない。確度をもって言えるのは、Mercedes-Benz IndiaとBBDO Indiaが語る企画の意図と行程である。両社のコメントからは、グローバルな周年の物語を各国へ配布する際に、その土地固有の地形・文化・人物を織り込んで「自分たちの物語」に見せる発想が読み取れる。高級車ブランドが製品スペックではなく、土地との結びつきや情景でブランドの継続性を語ろうとする姿勢がうかがえる。
Mercedesの遠征は、グローバルなブランド資産を持つ日本企業がインドで体験型施策を組むうえで二つの論点を示す。第一に、本国発の周年やグローバル企画を、現地の地形・文化・人物へ翻訳し「よその記念行事」から「その国の物語」へ引き寄せることだ。第二に、著名人を起用するなら、単なる顔ではなく土地との結びつきを語らせる役として使う設計である。著名人を軸にした施策では、クリケット選手Virat Kohliの記録を値付けに変えたone8の事例が、起用の仕方の工夫として手がかりになる(9,230ランを9,230ルピーに変えたコーリーの値付け術)。現地の情景や文化を訴求へ織り込む点では、マクドナルドのワールドカップ連動が教科書になる(マクドナルド印のW杯連動、現地化マーケティングの教科書)。
インドで存在感を築くには、製品性能だけでなく、その土地に根ざした物語をどう語るかが問われる。日系の自動車では、スズキが牛糞由来のバイオガスという土着資源を燃料に据え、現地に根ざす姿勢を打ち出した事例がある(牛糞がスズキの燃料に。インド進出は土着資源で勝つ)。Mercedesの遠征企画も、走る土地そのものを物語の材料にする点で、この「土着の物語づくり」という論点に連なる。
Mercedesの「140 Years. 140 Places.」インド編は、グローバルな周年施策を現地へどう根づかせるかの一例を示している。世界6大陸・6万キロの旅の一区間として、S-Class3台にインドの高地から聖地、遺跡、商都までを走らせ、著名人と土地の結びつきで物語を満たす。グローバル資産を持つ日本企業がまず取り組めるのは、本国発の企画をそのまま持ち込む前に、インドのどの地形・文化・人物と結びつければ「自分たちの物語」に翻訳できるかを、行程や体験の設計図に落とすことである。物語を土地の情景で満たせるかどうかが、通過点で終わるか主役になるかを分ける。