Amazon Ads が2026年10月上旬、インドの Prime Video で Interactive Video Ads(リモコンで操作できる動画広告)と Pause Ads(視聴者が一時停止したときに出る広告)の提供を始めた。発表の中身をインドの業界メディア medianews4u が10月7日に、Campaign India が10月9日に伝えている。広告枠そのものは新設ではなく、既存の Prime Video の動画広告に「押せる」機能を載せたものだ。リモコンのクリックで Amazon.in のカートに商品が入る、見積もりを依頼する、来店予約を取る、といった動作が広告の中で完結する。
日本企業にとっての論点は、CTV(インターネットにつながったテレビ)の広告がブランド認知の枠から外れて、成果の数字を出せと言われる枠に移り始めたことだ。しかも いまは期間限定で追加費用なしで使える。インド向けのテレビ出稿を検討している会社は、今期の予算の立て方を変えられる。
発表されたのは2つの形式だ。Interactive Video Ads は通常の動画広告の再生中に操作可能な要素を重ね、リモコンのクリックでアクションにつなげる。Pause Ads は同じ機能を、視聴者が自分で一時停止した瞬間に出す。Campaign India の記事は Pause Ads について、インタラクティブな重ね表示がコンテンツを一時停止している間ずっと残ると書いている。15秒や30秒の尺に縛られない接触時間が生まれる、という設計だ。
用意された行動の選択肢は6つある。Amazon.in のカートに入れる「Add to Cart」、情報を見せる「Find out more」「Want more info?」、Amazon.in の外で購買が続く商材に向けた「Get a quote」「Book an appointment」「Sign up today」だ。Amazon Ads India のディレクターを務める Gulshan Verma 氏は発表文で「Streaming has fundamentally changed the way audiences consume entertainment and advertising has evolved with it(ストリーミングは視聴の仕方を根本から変え、広告もそれに合わせて変わってきた)」と述べ、インタラクティブ広告の導入を「turn moments of attention into meaningful action(注意が向いた瞬間を意味のある行動に変える)」ものだと説明している。
広告主が受け取れる数字も変わる。Amazon Ads はリーチやブランドリフトに加えて、オープンクリック数とカート投入率を返すとしている。CTVの評価が視聴完了率やリーチだけで済まなくなる、ということだ。
この発表を単発の広告商品の話として読むと見誤る。インドの Prime Video は2025年から2026年にかけて、広告の在庫として段階的に組み立てられてきた。
| 時期 | 起きたこと | 確認した報道・発表 |
|---|---|---|
| 2025年6月17日 | インドの Prime Video で広告配信を開始。広告を消すには年699ルピー(約1,190円)または月129ルピー(約220円)の追加課金が必要になった | Storyboard18(2025年5月13日)/OTTverse(同5月22日) |
| 2026年5月7日 | 無料の動画サービス Amazon MX Player を Prime Video に統合すると発表。非会員でも広告付きの無料番組を見られる「Free To Me」タブを置き、Androidアプリは「MX Player by Prime Video」に改称。リビングのデバイス・Web・iOS の利用者は順次 Prime Video へ寄せる | Amazon公式(aboutamazon.in、2026年7月16日更新) |
| 2026年10月上旬 | Interactive Video Ads と Pause Ads をインドで提供開始。期間限定で追加費用なし | medianews4u(10月7日)/Campaign India(10月9日) |
無料の視聴層を抱え込み、有料会員と同じ入り口に集約し、そこに購買につながる広告形式を載せる。順番としてはきれいに通っている。Amazon は2025年の広告導入時に「We aim to have meaningfully fewer ads than TV channels and other streaming services(テレビ局や他のストリーミングより明確に広告を少なくすることを目指す)」と表明していた。本数を抑えるなら、1本あたりの単価を上げる必要がある。押せる広告はその答えでもある。
発表文には3つの数字が並んでいる。ここが今回のブリーフで確認を要した箇所だ。Campaign India の原文は、この数字を「In countries where Interactive Ads have already been rolled out(インタラクティブ広告を既に展開した国々で)」と前置きしている。インドでの結果ではない。
| Amazonの公表値 | 原文に書かれた条件 | 社内で使うときの注意 |
|---|---|---|
| 総購入件数が50%超の増加 | インタラクティブ機能を使わないキャンペーンとの比較 | インドの実績ではなく先行展開国の実績 |
| 新規顧客(new-to-brand)の購入が35%超の増加 | 同じ比較 | Amazon自身の集計で、第三者の検証は示されていない |
| 売上金額が40%近い増加 | 同じ比較 | 比較対象となったキャンペーンの業種・予算規模は開示されていない |
この3つを「インドでこうなる」と書き換えて稟議に貼ると、半年後に説明がつかなくなる。使うなら「先行国でAmazonが自己申告した水準」として、インドでは自社で測り直す前提を添えるべきだ。
市場規模の側も見ておきたい。Storyboard18 が2025年12月12日に報じた MiQ の Advanced TV Report India によれば、インドのCTV広告支出は2022年の45億ルピー(450クロー、約74億円)から2024年に150億ルピー(1,500クロー、約246億円)へ伸びた。アクティブ利用者は1億2,920万人、CTV世帯は6,000万〜7,000万とされる。同報道はPwCの予測として2027年に350億ルピー(3,500クロー、約574億円)という数字も挙げている。インドの報道で使われるクロー(crore)は1,000万ルピーなので、1,500クロー=150億ルピーと読み替える(円は1ルピー=1.64円で概算、2026年10月時点の実勢水準)。
ただし同じ記事の見出しにある2029年の予測値は、本文のCTV支出規模と桁が合わない。インドのCTV市場規模は出どころによって数字が大きく動く。何を数えているか(アプリ内の動画在庫だけか、テレビメーカーのホーム画面広告まで含むか)が揃っていないからだ。社内資料に置くなら実測された過去の値だけにしておくほうが安全だ。
視聴者を能動的に巻き込む動きはAmazonの専売ではない。JioHotstar は新しいクイズ番組で視聴者を「Play Along」に参加させる設計を打ち出している(JioHotstar、新クイズ番組で視聴者を『Play Along』に巻き込む)。ただしそこで作られるのは番組への関与で、そのまま決済に落ちるカートはない。Amazon の今回の形式が違うのは、関与の着地点が自社ECのカートだという一点に尽きる。
6つのCTAは横並びに見えて、成立の前提がまったく違う。インド向けに出稿を考えるなら、自社がどの行に乗れるかを先に確定させたほうがいい(情報提供系の2つは条件が同じなので1行にまとめた)。
| CTA | 押した後に起きること | 成立の前提 |
|---|---|---|
| Add to Cart | Amazon.in のカートに商品が入る | Amazon.in への出品・インド国内の在庫・配送と返品の体制 |
| Find out more / Want more info? | 商品やサービスの情報を見せる | インド向けの着地ページ。表示言語の設計を含む |
| Get a quote | 見積もり依頼を受け取る | 現地で見積もりを出して追いかける営業の受け皿 |
| Book an appointment | 来店や訪問の予約を受け取る | 販売店・サービス拠点と、予約枠を回す運用 |
| Sign up today | 申込や会員登録を受け取る | 現地法人名義での受付と個人情報の取り扱い |
ここで分岐がはっきりする。Amazon.in に出品している日本ブランドは、広告と在庫と購買履歴が同じID体系でつながる。家電、美容、文具、食品のように Amazon.in が主戦場になっている商材は、この形式の恩恵が最も大きい。逆に出品していない会社にとって Add to Cart は選べない。自動車、住宅設備、B2Bの産業財、金融・保険のように購買が店舗や商談で終わる商材は、Get a quote と Book an appointment を軸に組むほうが筋が通る。
カートに入った後の着地も見ておく必要がある。Amazon はインドの即配に大規模な投資を進めており、ダークストアの展開も報じられている(Amazonがインド即配に30億ドルと報道、ダークストア約1,300店)。広告を押した瞬間の熱量を、翌日配送で冷ますのか当日で受けるのかは、同じ広告の成果を左右する。出稿の設計をメディア側だけで閉じられないのがこの形式の厄介なところだ。
素材の作り方も変わる。リモコンの操作は指でのタップより粗い。フォーカスを当てて決定ボタンを押す、という2段階の動作が前提になるため、日本のテレビCM素材をそのまま流して末尾2秒にCTAを置く作りでは機能しない。尺の全体で操作可能な状態を保ち、押す対象を1つに絞る。言語も論点だ。Amazon MX Player 由来の無料視聴層は地域言語のコンテンツが中心になるが、CTAの表示言語をどう扱うかは今回の発表文では触れられていない。出稿前に代理店へ確認する項目になる。
影響は広告主の側だけに留まらない。インドのメディアプランニングは、テレビのGRPとデジタルのCPMで組む慣習が強い。そこにオープンクリック数とカート投入率が返ってくると、同じ枠を2つの通貨で評価することになる。評価指標が増えれば、代理店に求める報告の形も、社内の目標設定も書き換えが必要になる。
祭事商戦との重なりも意図的だ。インドの10月から11月は年間最大の買い物期で、Flipkart や Amazon が大規模セールをぶつけ合う(Flipkart年間最大セールが著名人を総動員、「運は変えられる」で層別に届ける)。家族でテレビを囲む時間が増える時期に、押せる広告を無料で配る。発表文が明言しているのは「at no additional cost for limited time(期間限定で追加費用なし)」という条件だけで、いつ終わるのかは書かれていない。
Amazonの側から見れば、無料期間は値付けの根拠を集める期間でもある。先に入った広告主は安く学習できるが、後から入る広告主は他社が作った相場で買うことになる。この読みが当たっているかどうかは、終了条件を代理店に確認すれば早い段階で見当がつく。
インド向けのCTV出稿を今期に動かすなら、確認と決定の順番はおおむね次のようになる。
窓口は Amazon Ads のインド法人か、インドで Amazon DSP を扱う代理店になる。Prime Video の広告自体は2025年6月から動いているので、既にインドで動画出稿をしている会社であれば、同じ担当者に形式の追加を相談できる。
今回の発表で確定している事実は3つだ。インドの Prime Video に押せる動画広告と一時停止広告が載った。CTAは6種類で、Amazon.in のカートに直結するものと外部に出すものがある。そして追加費用なしの期間がある。Amazon が示した50%という数字は先行国の自己申告値で、インドの保証ではない。
日本企業が今期に取れる動きは具体的だ。Amazon.in に出品しているなら、小さな予算でAdd to Cartの1本を回して歩留まりの実測値を手元に作る。出品していないなら、Get a quote か Book an appointment で現地の問い合わせ単価を測る。どちらにしても、無料で測れる期間に自社の数字を持っておけば、有料化後に出すか引くかを他社の相場ではなく自社の実測で決められる。まず社内で決めるべきは予算の額ではなく、何をもって成功と呼ぶかのほうだ。