インドの外用バーム「ザンドゥ・バーム」が、2026年9月1日にコルカタで新キャンペーン「#UndoWithZandu」を発表した。ブランドを持つエマミ(Emami Limited)のリリースが打ち出しているのは新商品ではなくキャンペーンで、「製品の提案内容(product proposition)は変わっていない」と明記がある。リリースが広げたと書いているのは「ピーダ(peeda=痛み・つらさ)」という言葉が指す範囲で、従来の頭痛や体の痛みに加え、スマホ首、ドゥームスクロール(暗い投稿を見続けること)による疲れ、燃え尽き、月曜の憂うつまでを同じ言葉で呼び、16〜28歳に向け直した。
日本の消費財メーカーが見るべきは、この打ち手に要った投資の中身だ。リリースから読み取れる範囲で新しく用意したのは、症状を指す語彙とそれを載せる制作物である。既存商品のまま客層を一段若くしたい会社には、実行可能性の高い型になる。
リリースが説明する舞台は「Peedaland(ピーダランド)」という現実離れした世界だ。現代生活の痛みや苛立ちと格闘する若者のところへ快活な主人公が現れ、「Peeda ko karo Undo with Zandu(ピーダをザンドゥで取り消そう)」と促す。制作はTree CommunicationsとAbbas Mirza氏。リリース掲載のTVCリンクは、公式チャンネル「Zandu Pain Relief」が9月3日に公開したヒンディー語版30秒だった。
展開媒体はテレビ、デジタル、OTT、ソーシャルの4系統。重点市場としてリリースが名前を挙げたのはマハラシュトラなど9つの州・地域だが、原文は「priority markets including」と書いており、この9つで全部だとは明示していない。南インドの4州が入っており、ヒンディー語圏に閉じた企画ではない。全国一律ではなく州単位で優先順位を切っている。
エマミのモハン・ゴエンカ氏(8月の決算リリースでは副会長兼常勤取締役、9月のキャンペーンリリースではDirectorと表記)は、ヒット曲「ムンニ・バドナーム・フイ」への商品名の登場をインド広告の決定的な場面と振り返り、課題は「関連性を守ることではなく、獲得し続けること」だと述べている。インドの広告専門誌キャンペーン・インディアは9月18日付の記事で、見出しと要約が文化起点のマルチプラットフォーム施策と伝えている(本文は会員限定で未読)。公式チャンネルのヒンディー語版TVCは9月25日時点で再生4,685回。自社チャンネルの1本の数字であり、テレビやOTTを含むキャンペーン全体の到達量を示すものではない。
リリースはインドの皮膚刺激型外用鎮痛(rubefacient)カテゴリーを6,000crore(=600億ルピー)超、うちバームが1,500crore(=150億ルピー)超と説明している。どちらも「over」「more than」が付いた下限の数字で、上限は書かれていない。1,500÷6,000=25%のような構成比を出しても実際の比率は確定しないため、本記事では割り算をしない。輪郭の固まった商材で伸ばす道は使用頻度か使用場面で、今回の打ち手は後者を言葉の側から取りにいった形だ。
同社のFY27第1四半期(2026年4〜6月)決算リリースでは、連結売上が15%増の1,039crore(=103.9億ルピー)。カテゴリー別の伸びはヘア&スカルプケアが11%で、ザンドゥ・バームが属するヘルスケアは2%にとどまる。戦略投資先の事業群は同一条件比61%増で、国内事業の約18%を占める。伸びを作っているのが別の事業だという並びは、既存ブランドで客層を広げにいく動きと重なる。
| 項目 | 原文表記 | 換算(1ルピー=1.6554円) |
|---|---|---|
| 外用鎮痛カテゴリー規模 | over Rs 6,000 crore | 600億ルピー超/約993億円超 |
| うちバーム | more than Rs 1,500 crore | 150億ルピー超/約248億円超 |
| エマミ連結売上(FY27 Q1) | Rs 1,039 crore(前年同期比15%増) | 103.9億ルピー/約172億円 |
| 同EBITDA | Rs 226 crore(6%増) | 22.6億ルピー/約37億円 |
| 同税引前利益 | Rs 195 crore(4%増) | 19.5億ルピー/約32億円 |
為替は欧州中央銀行の2026年9月24日レート(1ルピー=1.6554円)。crore=1,000万ルピーで、6,000crore=600億ルピー、1,500crore=150億ルピーになる。
リリースは製品の提案内容が変わっていないと書いたうえで、痛みをめぐる会話のほうが変わったと説明する。増やしたのは、消費者が自分の不調を呼ぶときの言葉だ。ただしリリースはこの企画を、ユーモアと文化的な親しみと「product efficacy(製品の効き目)」を混ぜたものだとも書いており、効き目に触れない企画ではない。日本では線引きがもっと厳しく、医薬品・医薬部外品は効能効果の表示だけでなく広告表現の全体が薬機法と業界の広告基準の対象になる。承認された効能の外側に症状の呼び名を足す言い換えは、そのままでは持ち込めない。製品も起用タレントも変えずに撮り直したG-SHOCKインドの新作フィルムと同じく、変えない部分を先に決めている点は共通する。
ゴエンカ氏が引くヒット曲は、インドでは説明が要らない共有記憶だ。日本企業がインド市場で同じ資産を持つことはまずない。代わりに使えるのは、現地で長く売ってきた商品なら流通に残る評判、新規参入なら用途の言い換えになる。長年の「友情」という既存資産を捨てずに刷新したマクダウェルズ・ソーダの事例と、有名人を使わずに「しんどい日」という状況設定だけで売ったハーシーズ印の新CMを並べると、資産がある側とない側で手が分かれる。
第1四半期リリースでは、組織小売チャネルが同一条件比19%増で国内事業の32%を占め、クイックコマースがEC売上の35%に達している。語彙で若年層に接続し、購入は10分配送の棚で受ける形だ。若年層施策を組むなら、認知の媒体と同時に、その語彙で検索されたときに商品が並ぶ場所も押さえたい。
| 項目 | 内容 | 基準日・取引段階 |
|---|---|---|
| キャンペーン名 | #UndoWithZandu(ブランド:Zandu Balm/企業:Emami Limited) | 2026年9月1日発表(コルカタ) |
| 対象年齢 | 16〜28歳 | 同リリース記載 |
| 重点市場 | マハラシュトラ、アーンドラ・プラデーシュ、テランガナ、カルナタカ、タミル・ナドゥ、デリー首都圏、ウッタル・プラデーシュ、ラジャスタン、西ベンガル | 同リリース記載。原文は「including」付きの例示 |
| 制作 | Tree Communications/Abbas Mirza | 同リリース記載 |
| TVC | ヒンディー語版30秒(公式チャンネル9月3日公開) | 2026年9月25日時点で再生4,685回 |
| ブランド公式ECの表示価格 | Zandu Balm 8ml=43ルピー(約71円)、8ml×4本=149ルピー(約247円) | 2026年9月25日時点。小売店頭価格ではない |
表示価格は一般小売店やクイックコマースの売価とは違う。8ml単品は割引前価格と同額の43ルピー、4本入りは160ルピーからの値引き表示で、確認時点ではどちらも在庫切れ表示だった。
この事例を自社に引き写すなら、最初の作業は調査発注ではない。自社商品が解決する不調や不便を消費者が使う言葉で10個書き出し、商品説明や広告で一度も使っていない言い回しに印を付ける。ザンドゥがやったのは、そのリストをキャンペーンの語彙に昇格させる作業だった。インドで使うなら、現地スタッフに同じリストを母語で書かせ、日本側の訳語と突き合わせる。国内商材なら、表示できる範囲を薬事担当と先に詰めておく。