ムンバイのアルチザンベーカリー「The Bread Bar」が2026年9月、チェンブールの1号店開業から5年を経て、ナビムンバイに2店目を開いた。焼きたてのパンとヴィエノワズリーを軸にした全日型カフェで、創業者は仏・ドゥカス系の製菓学校で学んだシェフ、ラチ・グプタ氏。5年で店舗を1つしか増やさないという出店ペースそのものが、インドの外食で急拡大を競う潮流のなかでは異例で、慎重に定着させてから広げる型を日本の食ブランドが読む材料になる。
Restaurant Indiaの2026年9月15日の報道によると、The Bread Barはナビムンバイに2店目を開業した。1号店をムンバイ東部チェンブールに構えてから約5年ぶりの新店で、店舗数は依然2店にとどまる。新店は曲線を描くコーヒーカウンター、樽型天井の吹き抜け空間、自然素材とオレンジを効かせた内装で、席数や投資額は公表されていない。提供品は焼きたてパン、ヴィエノワズリー、朝食、サンドイッチ、ブランチ、デザート、飲料と、朝から夜までの需要を1店で拾う構成になっている。
創業者のラチ・グプタ氏は、IHMアウランガバードで調理を学んだのち、フランスのドゥカス・エデュケーション傘下の製菓学校でフレンチ・ペストリーを専攻し、パリのピエール・エルメで研修、スペインのミシュラン星付き店アスルメンディでも働いた経歴を持つ。パンと菓子の技術に軸足を置いたブランドで、量産のチェーン化より品質の再現を優先する姿勢が、5年で2店という数字に表れている。同氏は「この5年で、人がThe Bread Barに何を求めて来るのか、そして何がまた来たくさせるのかを学んだ」と語っている。
インドの外食は、単品特化のクッキーやチャイのチェーンが数百店規模へ一気に伸びる一方で、職人型のベーカリーが1店ずつ手堅く根を張る動きも並行している。The Bread Barが選んだのは後者で、5年かけて1号店の顧客像と再来店の理由を掴み、そのうえでナビムンバイという同一経済圏の隣接市場に踏み出した。飛び地の多店化ではなく、既存商圏の理解を土台に近接地へ広げる設計は、原価と品質のブレを抑えたい製造起点のブランドと相性がよい。
Restaurant Indiaは今回の出店を、チェンブール1号店から5年を経た「拡大」として報じている。報道の範囲では、席数・投資額・今後の出店計画といった数値は明かされておらず、ブランド側は内装と体験の作り込みを前面に出している。急速な多店化を掲げるチェーンの発表が続くなかで、5年で2店という控えめな数字をあえて見出しに据えた点に、質を軸にしたブランドの立ち位置が読み取れる。
製パン・製菓のように再現性が価値の中心にあるカテゴリでは、インドでも「まず1店を仕上げてから隣接地へ」という順序が通用する。単品を尖らせて短期で面を取るクッキーチェーンの伸び方(デリーのクッキー戦争、単品特化が示す勝ち筋)と、高級焼き菓子が初出店で立地を絞る入り方(英ベンズクッキーがグルガオン初出店、DSグループが運ぶ高級焼き菓子)は、拡大速度の両極として対照的だ。日本の菓子・パン系ブランドは、どちらの速度で入るかを最初に決めておくと、立地選びと供給体制の設計がぶれない。
コーヒーカウンターを併設し、朝食からデザートまで1店で回す全日型のベーカリーカフェは、インドの都市部で確実に層を厚くしている。地場コーヒーチェーンの拡大(インド地場コーヒー二強が同時拡大)が飲料側から店舗網を伸ばすのに対し、The Bread Barは製造(パン・菓子)を核に同じ全日型の器を作っている。飲料起点と製造起点、どちらから全日型に組み上げるかで、必要な厨房・供給・人員が変わる点は押さえておきたい。
The Bread Barの5年で2店という歩みは、インドの外食が速さ一辺倒ではないことを示している。製パン・製菓のように品質の再現が価値の中心なら、まず1店を「顧客が再来する理由」が言語化できる水準まで作り込み、そのうえで同一経済圏の隣接地へ一歩広げる——この順序が現実的だ。次の一手として、インド進出を検討する食ブランドは、出店計画を店数の目標から始めるのではなく、1号店で検証すべき再来店の理由を先に定義することをおすすめする。