英ベンズクッキーがグルガオン初出店、DSグループが運ぶ高級焼き菓子

英オックスフォード発祥のプレミアム・クッキーブランド「Ben’s Cookies(ベンズクッキー)」が、2026年6月、インド・グルガオン(グルグラム)のアンビエンス・モールに同市初の店舗を開きました。運営を担うのはインドの大手食品コングロマリットDSグループで、10年超の master franchise(マスターフランチャイズ)契約のもと、英国の焼きたてクッキー文化をインドの富裕都市部に持ち込みます。「chips(チップ)ではなくchunks(チャンク)」を掲げる外資デザートブランドが、なぜいまNCR(首都圏)の高級モールを選んだのか。インドへの出店・現地パートナー選定・プレミアム食品の値付けを検討する日本の食品・外食・フランチャイズ関係者にとって、見過ごせない一手です。

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起こったこと:グルガオンのアンビエンス・モールに「街初」の店舗

ベンズクッキーは、店内のオーブンで一日中焼き上げる「bakery-first(ベーカリーファースト)」型の店舗フォーマットで、アンビエンス・モール内にグルガオン1号店を出しました。インドへの上陸自体は同社にとってこれが最初ではなく、すでにニューデリーに初出店を済ませており、今回のグルガオン店は「インド初」ではなく「グルガオンという街にとっての初」という位置づけです。ここを取り違えると、後述する出店戦略の読み筋を誤ります。

運営パートナーのDSグループは、DS Retail Indiaを通じてベンズクッキーの独占フランチャイジーとなり、現年度内に8〜10店舗の展開を目標に掲げています。短期ではデリーとムンバイに6〜7店を6〜7月に集中投入し、中期的にはバンガロール、コルカタ、プネー、チェンナイ、ハイデラバードといった高成長都市へ広げる計画です。

背景:ベンズクッキーとは何者で、なぜグルガオンか

ベンズクッキーは、料理研究家のヘルゲ・ルビンシュタイン氏が手がけ、1984年にオックスフォードのCovered Market(カバードマーケット)に1号店を構えたブランドです。最大の特徴は、刻んだチョコレートチップではなく、ベルギー産チョコレートの「塊(チャンク)」を生地に混ぜ込む製法。フレッシュバターと卵を使い、店頭のオーブンで焼き上げる──この「焼きたて・素材主義」が、量産パッケージ菓子との明確な線引きになっています。

では、なぜグルガオンなのか。グルガオンはデリー近郊に多国籍企業のオフィスが集積する新興ビジネス都市で、アンビエンス・モールはその中でも国際ブランドを集める高級商業施設です。同モールを運営するアンビエンス・グループのアルジュン・ゲロット取締役は、ベンズクッキーの出店を「最良の国際的コンセプトを来館者に届けるという当社の方針に合致する」と説明しています。つまり外資デザートブランドにとって、グルガオンは「富裕層の動線」と「国際ブランドが集う器」が揃った、いわばショーケース立地なのです。

検証できた数字:値付けと市場規模

公開情報で確認できた範囲では、ベンズクッキーのインドでの価格はクッキー1枚あたり約325ルピー(およそ3ドル台半ば)から、ギフトパックは約1,500ルピーからとされています。これは、コーポレートギフトや衝動買い、そして「マスプレミアム(手の届く高級)」層を狙った設定です。

市場の文脈として、インドのクッキー市場は2024年時点で約13億ドル、2033年に約23億ドルへ拡大するとの見通しが各報道で引用されています。販路は実店舗に加え、SwiggyやZomatoといったデリバリー・クイックコマースとの連携を計画しているとされます。なお、出店投資額そのものは公表されておらず、確証のない金額には踏み込みません。

業界の受け止め

ベンズクッキーのインド事業を率いるサンスクリティ・グプタ氏は、今回の参入を「量産された袋菓子と、店頭で焼く高級菓子のあいだにある構造的な空白を埋める」動きだと位置づけています(発言は要旨)。インドでは安価なパッケージ・ビスケットの市場が巨大な一方、その上の「焼きたて高級帯」が手薄だった、という見立てです。

同ブランドの担当者は、店内に実際のオーブンを置く「ベーカリーファースト」の形態と、本物のチョコレートの塊・フレッシュバターを使う点を、他のパッケージ菓子との差として強調しています(要旨)。商品づくりでは、定番のミルクチョコレートチャンクやマカダミア&ホワイトチョコレートに加え、卵不使用(エッグフリー)の品目を用意し、菜食志向の強いインドの食習慣に合わせている点も語られています(要旨)。

モール側の受け止めも好意的で、アンビエンス・グループはベンズクッキーを国際ブランド誘致方針に沿う出店と評価しています。プレミアム・デザート需要の高まりを、商業施設側も来館動機として歓迎している構図です。

日本企業への示唆:外資デザートブランドのインド進出パターンを分解する

ここからが本記事の核心です。ベンズクッキーの一手は、インドに食品ブランドを持ち込みたい日本企業にとって、再現性のある「型」を見せてくれます。

第一に、現地FMCG大手をマスターフランチャイジーに据える型。ベンズクッキーは自前で多店舗網を作るのではなく、DSグループという食品コングロマリットに10年超の独占運営を委ねました。インドは州ごとに商習慣・規制・物流が分断され、外資が単独で立地交渉やコールドチェーン、人材採用を回すのは重い。日本の和菓子・洋菓子・ベーカリーがインドを狙うなら、「自社で店を出す」より先に「誰に運営を任せるか」を設計する発想が、まず学べる点です。

第二に、高級モールを最初のショーケースに使う立地戦略。インド初がニューデリー、続いてグルガオンのアンビエンス・モール──いずれも富裕層の動線が太く、国際ブランドが並ぶ器です。プレミアム帯の食品は「どこで売るか」がブランド認知そのものを規定します。日系ブランドが現地で安売り棚に紛れてしまえば、せっかくの品質や物語が伝わりません。立ち上げ期は店数を追わず、象徴的な数店で「高級である理由」を体感させる順序が効いてきます。

第三に、量産菓子と手づくり高級菓子の「空白」を突く商品設計。ベンズクッキーが狙うのは、巨大な袋菓子市場の上にある手薄な帯です。日本の食品が持つ「焼きたて」「素材」「製法のこだわり」は、まさにこの空白に刺さりうる資産です。ただし、ベンズクッキーがエッグフリー品を即座に揃えたように、ローカライズは不可欠。日系ブランドであれば、ベジタリアン対応、甘さや食感のインド向け調整、ギフト需要(婚礼・祝祭・コーポレートギフト)への最適化を、進出計画の初日から織り込んでおくべきです。

市場への波及

ベンズクッキーの参入は、インドの「焼きたて高級デザート」帯に外資が本腰を入れ始めた兆候の一つと読めます。デリーやムンバイではすでにクッキー・ベーカリー系の競合が増えており、隣接テーマである「デリーのクッキー戦争」とも地続きです。DSグループのような国内大手が外資ブランドの運営を引き受ける動きが続けば、現地の商業施設・デリバリー網・ギフト商流を巻き込んだ、プレミアム焼き菓子のエコシステムが厚みを増していきます。日系食品にとっては、競争が激しくなる前に「現地パートナー」と「象徴立地」を押さえられるかが、参入余地を左右します。

実用情報

店舗:ベンズクッキー グルガオン店(アンビエンス・モール内)。運営はDS Retail India(DSグループ)。商品は定番チョコレートチャンク系に加え、エッグフリー品やギフトパックを展開し、デリバリー(Swiggy/Zomato等)との連携も計画。価格はクッキー1枚約325ルピーから、ギフトパック約1,500ルピーから。今後はデリー・ムンバイを軸に現年度8〜10店、中期でバンガロール・コルカタ・プネー・チェンナイ・ハイデラバードへ拡大予定です。

まとめ

英オックスフォード発のベンズクッキーがグルガオンに街初の店を構えた──この一行の裏には、「現地FMCG大手にマスターフランチャイズで運営を委ねる」「高級モールをショーケースに使う」「量産菓子の上にある手薄な高級帯を、ローカライズしつつ突く」という、外資デザートブランドの再現可能な進出パターンが詰まっています。インドで食品ブランドを伸ばしたい日本企業にとって、まず問うべきは「どの商品を出すか」より「誰と、どこで始めるか」。ベンズクッキーの初手は、その順序を教えてくれます。

よくある質問

ベンズクッキーのグルガオン店は「インド初出店」ですか?

いいえ。インドへの上陸自体はニューデリーが先で、グルガオン店は「グルガオンという街にとっての初店舗」という位置づけです。

誰がインドでの運営を担っているのですか?

インドの食品コングロマリットであるDSグループ(DS Retail India)が、10年超のマスターフランチャイズ契約のもとで運営します。

「chunks not chips」とはどういう意味ですか?

刻んだチョコレートチップではなく、チョコレートの「塊(チャンク)」を生地に混ぜ込むという同ブランドの製法・思想を表すスローガンです。

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この記事を書いた人

大手総合商社にて約8年間、グループ子会社の経営改革や出資先スタートアップとのJV設立を担当。その後インド駐在として、日系大手飲食チェーンのインド展開に従事し、現地に合わせたメニュー開発やマーケティングを推進。

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