ハイデラバードで2012年に生まれたパティスリー兼カフェ「Conçu(コンク)」が、創業14年目の2026年6月、ムンバイ南部コラバの裏路地「Pasta Lane」に初出店した。物件は元印刷所。約2,700平方フィート・50席の空間を、ムンバイの設計事務所Essajees Atelierが昼はカフェ、夜はカクテルバーへと顔を変える一棟業態に仕立てている。地方都市で支持を固めたブランドが、大都市の一等地ではなく「裏路地の古い建物」を選んで攻め込む——この一手は、インド外食市場への進出を検討する日本企業にとって、立地戦略と空間設計の考え方を問い直す材料になる。
ハイデラバード発のブランドが、ムンバイの古印刷所を選んだ
Conçuの創業者は、ともに工学出身の夫妻、Swati Upadhyay氏とシェフのSahil Taneja氏。2012年にハイデラバードで小さなパティスリーとして始め、ベンガルールへも広げてきた。14年目で踏み込んだのが、インド最大の商業都市ムンバイだ。
注目すべきは出店場所の選び方である。新店はコラバの目抜き通りではなく、Pasta Laneと呼ばれる静かな裏路地に立つ。建物はかつての印刷所で、数十年を経た石壁と剥き出しの煉瓦、露出した木の梁を残したトリプルハイト(三層分の天井高)の空間だ。設計を手がけたEssajees AtelierのSarah Sham氏は、新築の箱を建てるのではなく、南ムンバイの古い建築が持つ重みをそのまま店の資産に変えた。約2,700平方フィートの内部は窓際のコーナー席、ソファ席、大きな共用テーブルへと分かれ、デザートとコーヒー抽出を見せる長いアイランドカウンターが中心に据えられている。
なぜ今、地方発ブランドが大都市の「一等地以外」を狙うのか
インドの外食は、ここ数年で「安く満たす」から「時間と体験にお金を払う」方向へ動いている。コーヒー一杯のために専門店へ足を運ぶ層が都市部で厚くなり、Third WaveやBlue Tokaiといった地場スペシャルティ系が店舗網を広げてきた。Conçuの夜カクテルまで含む業態は、この変化を一店舗の中に圧縮したものだ。朝の朝食、昼の仕事場、午後のデザート、夜のバー——一日のなかで客の用途を切り替え、「滞在時間で稼ぐ」設計になっている。
地方都市発のブランドがムンバイへ進出する流れ自体は新しくない。バンガロール発のBoba Bhaiが2年半で100店規模に達した動きにも、地場ブランドが大都市の需要を取りに行く構図が表れている(Boba Bhaiが2年半で100店達成)。Conçuが違うのは、規模拡大の速度ではなく「どこに、どんな箱で出すか」に賭けた点だ。ムンバイの一等地は賃料が高く、フランチャイズ系チェーンが押さえている。地方発の一店舗ブランドが同じ土俵で戦えば家賃に潰される。だからこそ、裏路地の歴史的建築という、賃料より物語で勝負できる場所を選んだと読める。
確認できる事実:規模と業態
複数の媒体で一致している事実を整理する。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 創業 | 2012年・ハイデラバード(14年目) |
| 既存展開 | ハイデラバード、ベンガルール |
| ムンバイ新店 | コラバ Pasta Lane(元印刷所) |
| 規模 | 約2,700平方フィート・50席 |
| 設計 | Essajees Atelier(Sarah Sham氏) |
| 業態 | 昼カフェ/終日メニュー+夜カクテルバー |
| 2人分の目安 | ₹2,500(媒体掲載値) |
2,700平方フィートに50席という密度は、テーブルを詰め込んで回転で稼ぐ設計ではない。一席あたりに余裕を持たせた配置で、長く過ごす客を想定しているとうかがえる。客単価の目安が2人で₹2,500という水準も、回転重視ではなく単価と滞在で積み上げる発想を裏づける。
業界・消費者の受け止め
現地報道の論調は、おおむね三つの方向に整理できる。
- 建築への評価。元印刷所の三層空間と石壁・木梁を残した内装が、量産的なチェーン店との差として繰り返し取り上げられている。
- 業態への注目。終日カフェから夜バーへ移行する一棟完結型が、ムンバイの飲食市場で目新しい組み立てとして語られている。
- ブランド移植への関心。ハイデラバードで14年かけて作った支持を、味だけでなく空間ごとムンバイに持ち込めるかという視点だ。
創業者が掲げる「人が居続けたくなる場所をつくる」という言葉も各媒体で引かれ、商品より体験を軸にブランドを語る姿勢が共有されている。
日本企業への示唆:立地は「一等地」ではなく「物語の宿る箱」で考える
インドの外食・カフェ市場に出ようとする日本企業がConçuから学べる核心は、立地と空間を切り離して考えないことだ。日本企業の海外出店は、目抜き通りや大型モールの好区画を押さえる発想に傾きやすい。だがムンバイのような都市では、一等地の賃料は単独ブランドの体力を削り、周囲のグローバルチェーンとの同質化も避けにくい。Conçuは逆を行き、賃料の安い裏路地の歴史的建築を選び、その古さ自体を内装の主役に変えた。家賃で負ける戦いを、物語で勝てる戦いに置き換えたわけだ。
もう一つの学びは、業態の「時間設計」である。Conçuは朝・昼・午後・夜で客の用途を切り替え、一つの箱から複数の収益機会を引き出している。インドの都市部は、専門店でコーヒーや一皿に支払う層と、夜に外で飲む層が同じエリアに重なる。日本の飲食ブランドが進出する際、昼のカフェ営業だけ、あるいは夜の業態だけで設計すると、高い賃料に対して稼働の谷が大きくなる。滞在時間と用途の幅で単価を積む発想は、内装計画の段階から織り込んでおく必要がある。
立地を物語で語る手法は、外食に限らない。米Tory Burchがニューデリーに体験型カフェ「The Romy Café」を出した動きも、ブランドの世界観を空間で伝える同じ系譜にある(Tory Burch「The Romy Café」がニューデリーに)。商品を売る前に、まず居場所を売る——インド都市部の高単価層に届くには、この順序が効いてくる。
市場への波及
Conçuの一手は、ハイデラバードやベンガルールで支持を固めた地方発ブランドにとって、ムンバイ進出の現実的な型を一つ示した。一等地の賃料に挑むのではなく、歴史的建築や個性ある物件を選び、設計力で差をつける。この型が機能すれば、後続の地方発ブランドが同じ路線で大都市へ向かう流れが強まる可能性がある。スペシャルティコーヒーの拡大を牽引してきたThird WaveやBlue Tokaiのような店舗網型とは別に、「数は絞り、一店ごとの密度で勝つ」ブランドの居場所が広がるということだ(インド地場コーヒー二強 Third Wave/Blue Tokaiの拡大)。日本企業がインドの飲食・食関連で組む相手を探すなら、店舗数の規模だけでなく、こうした空間と体験で支持を作るタイプのブランドも候補に入れておく価値がある。
実用情報:インド外食へのアプローチ視点
インドの都市型外食に関心を持つ日本企業が、Conçuの事例を自社の検討に落とすときの観点を挙げる。
- 物件は「賃料の安さ×物語性」で評価する。新築の好区画より、改装で個性を出せる既存建築のほうが、単独ブランドの差別化につながりやすい。
- 業態は一日の時間帯ごとに収益源を設計する。昼カフェ・午後デザート・夜バーのように、同じ空間で用途を切り替える前提で内装と人員を組む。
- 進出パートナーは規模ではなく、空間づくりと顧客の滞在体験を作れる力で選ぶ。原料供給やOEMで組む場合も、相手のブランド設計力が自社商品の見え方を左右する。
大都市の小売・体験型出店の動きとしては、Nespressoがムンバイで初のパビリオン型店舗を構えた事例も参考になる(Nespresso ムンバイ初パビリオンがJio World Driveに)。空間そのものを広告にする発想は、グローバルブランドと地方発ブランドの双方で共通している。
まとめ
Conçuのムンバイ進出は、地方都市で14年かけて育てたブランドが、大都市の一等地ではなく裏路地の古印刷所を選び、その古さを資産に変えた事例だ。約2,700平方フィート・50席を昼カフェから夜バーへ転換する設計には、賃料で負けず滞在時間で稼ぐという、一店舗ブランドの生き残り方が凝縮されている。インドの外食・食関連へ進出を考える日本企業にとって、立地を物語で語り、業態を時間で設計するこの考え方は、出店計画の初期段階で持っておきたい視点になる。
参照元:
Cosmopolitan India「Conçu lands in Mumbai with pastries, coffee and plenty of charm」
Curly Tales「After Winning Hearts In Hyderabad, Conçu Debuts In Mumbai With A Stunning Colaba Café」
indianretailer.com(FranchiseTv)「Conçu Expands to Mumbai with First Colaba Outlet」
