製造大国から「ブランド」へ、ラボダイヤMayavéの野心を日本はどう読むか

インドの宝飾業界で、これまで「作る側」に徹してきた企業が「売る側」へ回り始めた。年商15億ドル規模のダイヤ研磨大手Hare Krishna Group(Hari Krishna Exports)が、ラボグロウンダイヤモンド(合成ダイヤ)の消費者向けブランド「Mayavé(マヤベ)」を立ち上げ、首都圏(NCR)を皮切りに全国で約100店を計画していると業界メディアが伝えた。CEOには創業家のDravya Dholakia氏が就く。掲げるのは「インド発の初めてのグローバル宝飾ブランド」という野心だ。素材や部材でグローバルに存在感を持ちながら、自社ブランドで消費者に届く形をなかなか作れずにいる日本の製造業にとって、この転身は他人事ではない。

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研磨の巨人が、なぜ自ら店を持つのか

Mayavéを立ち上げたHare Krishna Groupは、母体のHari Krishna Exportsが1992年にSavji Dholakia氏ら兄弟によって設立された、インドを代表するダイヤ企業だ。月間45,000カラット超を研磨し、81カ国へ輸出する。長らくその強みは「BtoBの製造・輸出」にあった。今回のMayavéは、その巨人が初めて本格的に体験型の消費者小売へ踏み出す試みにあたる。

コレクションは、20年以上の経験を持つミラノ拠点のクリエイティブディレクターの監修のもとで、カットやカラー、セッティングに独自性を持たせるという。ブライダル一辺倒だったインドのダイヤ市場に対し、Mayavéは「日常で身につける現代的なラグジュアリー」という切り口を据える。ここが従来のインド宝飾ブランドとの明確な差別化点になる。

NCR起点・直営先行という店舗設計

出店はまずNCR(デリー首都圏)で始め、その後インド全土へ広げる。目標は今後2年半〜3年で100店超。初期は直営(COCO)中心で立ち上げ、その後にフランチャイズ型へ広げる二段構えだ。素材メーカーが小売へ転じる際、まず直営で顧客体験と価格設定を自社で握り、型が固まってから加盟店で面を広げる——この順番は日本企業がインドで直営・FCを設計する際の実務モデルとして参考になる。

1店舗の広さは2,200〜2,500平方フィート(約200〜230平米)を想定する。同社によれば、この面積で従来型宝飾店のほぼ倍の余裕を持たせ、通路を広く取り、接客の個室性とストーリーテリングに空間を割くという。「狭い店に商品を詰め込む」のではなく「体験に床面積を使う」という発想は、体験消費に賭けるインド小売の潮流と一致する。

価格帯で読む狙い(為替前提つき)

報じられた価格レンジは、下記の通り。日本円換算は1ルピー≒1.8円を目安に併記する(為替は変動するため参考値)。

ゾーン 価格(ルピー) 円換算の目安
入門 約3万〜3.5万ルピー 約5.4万〜6.3万円
中核(品揃えの大半) 8万〜10万ルピー(1ラーク) 約14万〜18万円
限定・上位 20ラーク(200万ルピー)超 約360万円超

注意したいのは単位換算だ。1ラーク(lakh)=10万、1クロール(crore)=1,000万を取り違えると桁が一つずれる。ここでの中核帯「8万〜1ラーク」は8万〜10万ルピー、すなわち約14万〜18万円のゾーンを指す。入門帯を5万円台に置き、大衆に手の届く価格から入れる設計は、天然ダイヤより40〜60%安いとされるラボダイヤの価格優位を、そのままブランド戦略に落とし込んだものだ。

市場と競合の反応

Mayavéが動くインドのラボダイヤ市場は、いま参入ラッシュのただ中にある。市場調査各社の推計では、インドのラボダイヤ市場は2030〜31年にかけて4.5億ドル規模から12億ドル規模へ拡大するとされ、年20%超の成長も見込まれる。関係者の受け止めを整理すると、次の3点に集約される。

  • 大手の本気度: 2025年12月、宝飾最大手Titanがラボダイヤ専業ブランド「beYon」をムンバイで立ち上げ、専業ブランドでの参入という号砲を鳴らした。
  • 資金の流入: 同じくDholakia家系のDholakia Lab Grown Diamond(DLGD)は2026年4月に800クロール超(=80億ルピー超、約144億円)の資金調達を発表し、成長段階の投資が集まっている。
  • ルールの明確化: 2026年1月、BIS(インド規格局)が「diamond」の単独表記は天然石に限り、合成石は「laboratory-grown diamond」等と明示するよう義務づけた。表示の透明化はブランド勝負の土俵を整える。

製造力を持つ企業がこぞって川下(小売ブランド)へ降りてきている、というのが現地業界の共通認識だ。Mayavéはその流れの中で、あえて「グローバルブランド」を最初から掲げる点で野心が際立つ。

日本の素材・部材メーカーへの示唆

この事例が日本企業に突きつけるのは、「作れること」と「ブランドで売れること」は別の筋肉だ、という現実だ。Mayavéの動きから、インドでB2Cブランドを立てる際の実務ポイントを1社1アクションで抽出すると次のようになる。

  • 製造の裏付けを「価格の透明性」に変換する。研磨から一貫生産する強みは、中間マージンを抜いた入門価格として消費者に見せてこそ武器になる。素材メーカーが自社ブランドを立てるなら、まず「原価に近い納得価格」という一点を店頭で言語化することから始めたい。
  • デザインの権限を外部の一流に委ねる。Mayavéはミラノのクリエイティブディレクターを据えた。技術は自前でも、意匠と世界観は現地・海外の専門家に任せる割り切りが、ブランド大国への近道になる。
  • 直営先行で体験を握る。加盟店を急がず、まず直営数店で接客・内装・価格の「型」を固める。この順番を守るだけで、面展開のときの再現性が段違いになる。

宝飾を越えて波及する構図

「製造大国からブランド大国へ」という転換は、宝飾に限った話ではない。化粧品、アパレル、食品、電子部品——インドでは製造の裾野を持つ企業が、自社ブランドで消費者接点まで取りにいく動きが同時多発している。日本の素材メーカーがインド市場を「部材の供給先」としてだけ見ていると、いつの間にか現地の垂直統合ブランドに川下を押さえられる。逆に、現地パートナーと組んで川下のブランドづくりに関与できれば、単なる供給者を超えた利益率の高い立ち位置を取れる。宝飾の給油所化ならぬ「素材企業のブランド化」は、インド進出の次のフロンティアだ。

実用情報・関連リンク

ラボダイヤや宝飾に限らず、インドで「作る側」から「売る側」へ回る事例は増えている。関連する動きとして、投資家マネーが集まるラボダイヤD2C「Keemti」の事例(印「Keemti」に投資家マネー集結、日本の宝飾はどう読むか)や、2年で10店を広げたラボダイヤD2C「Lukson」のバンドラ進出(ラボダイヤD2C「Lukson」が2年で10店、バンドラ進出の意味)が参考になる。宝飾企業が製造の強みをどう海外店舗に翻訳するかは、米国初店を出したPMJの事例(宝飾PMJが米国初店をフリスコに出した理由は「インド」ではなかった)も併せて読むと立体的に見えてくる。

まとめ:次の一手

Mayavéは、製造力という「持っているもの」を、ブランドという「持っていなかったもの」へ変換しようとする試みだ。日本の素材・部材メーカーがインドで同じ道を歩むなら、次の3手を順に打ちたい。①インド現地の直営1〜2店で価格と接客の型を実証する。②意匠・世界観づくりは現地または海外の専門家に委ねる。③型が固まってからフランチャイズや卸で面を広げる。まずは自社の強みが「原価の透明性」なのか「品質の裏付け」なのかを一言で言い切れるか、社内で確かめるところから始めるのが現実的だ。

参照元

この記事を書いた人

大手総合商社にて約8年間、グループ子会社の経営改革や出資先スタートアップとのJV設立を担当。その後インド駐在として、日系大手飲食チェーンのインド展開に従事し、現地に合わせたメニュー開発やマーケティングを推進。

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