インドールの本格ノンアル6種、内陸都市こそ「飲まない層」に開く商機

インド中部マディヤ・プラデーシュ州の内陸都市インドールで、2024年開業のカジュアルファインダイニング「Atelier V」が、アルコール度数0%を売りにする本格ノンアルカクテル6種を新たに投入した。自家製のトニックやフルーツフォーム、香りづけの「エア」まで使い込み、酒を抜いても妥協しないと打ち出した点が現地メディアで注目されている。ここで読み解きたいのは、飲酒への心理的・文化的ハードルが大都市より高い内陸Tier2都市でこそ、「飲まない選択」を前向きな体験として設計する余地が大きいという構図だ。インド向けにノンアル飲料や食品を検討する日本企業にとって、どの都市で、どんな見せ方で棚に載せるかを考える手がかりになる。

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Atelier Vが仕掛けた「0%ABV」6種の中身

新メニューは6品で、いずれも遊び心のある英語名がつく。「The One That Wanted Mezcal」「What the F* is a Virgin Colada?」「This Would’ve Been Bourbon’s Finest Hour」「The PG-13 Paloma」「Lowkey Needs Tequila」「Be a Darling, Order the Gin」といった具合で、本来なら酒が主役の定番カクテルを、あえて酒なしで再現しにいく姿勢を名前自体が語っている。

技術面では、自家製のサッカラム(果実酢シロップ)、トニック、ソーダ、ブライン、チンキ、フルーツフォーム、香りをまとわせたエアを組み合わせる。たとえば「The One That Wanted Mezcal」はグァバとセロリのトニックにチリコリアンダーソルトを合わせ、スパイスの効いたグァバタルトを添える。「What the F* is a Virgin Colada?」はココナッツ・パイナップル・サフランを使い、トレスレチェスケーキと一緒に出す。各ドリンクにフードを一皿ペアリングする設計で、単なる「甘い飲み物」から一歩踏み込み、味・技術・食感で満足させにいっている。

創業者でシェフのVedant Newatia氏は、上質なカクテルを支えるのはアルコールではなくバランス・技術・テクスチャーだとし、ゼロプルーフにも同じ手間をかけると強調する。Atelier Vはもともと101種のクラシックカクテルや「Around the World in 12 Cocktails」といった酒メニューを揃える店で、その延長線上に酒なしの選択肢を対等に並べた点が今回の要旨だ。

なぜインドールなのか──内陸Tier2都市という舞台

インドールはマディヤ・プラデーシュ州最大の商都で、大都市(Tier1)ほど酒文化が前面に出ていないTier2都市に位置づけられる。同州では2025年1月、ウッジャインやオームカレシュワル、マヘシュワルなど17の宗教都市で酒類販売を禁じる措置が取られた。インドール自体が禁酒都市というわけではないが、州全体として飲酒に慎重な空気があり、宗教・家族・職場のつながりの中で「人前で飲む」ことへの抵抗が大都市より残りやすい土地柄だ。

この環境は、ノンアルにとって不利ではなく、むしろ追い風になりうる。酒を飲まない・飲めない・飲みたくない人が、味気ないソフトドリンクではなく「大人が頼めるちゃんとした一杯」を求めたとき、選択肢が薄いのが実情だからだ。Atelier Vはそこに、酒メニューと同じ器・同じ手間・同じ価格帯感で並ぶ0%ABVを差し込んだ。飲む人と飲まない人が同じテーブルで、引け目なく同じ体験を共有できる設計になっている。

数字で見るインドのノンアル市場

市場全体でも追い風は確認できる。複数の業界調査によれば、インドのモクテル・プレミアムミキサー・ゼロプルーフ領域は年率20%超のペースで拡大し、2027年までにおよそ1,850億ルピー規模に達すると見込まれている。1ルピー≈1.8円で換算すると、ざっと3,000億円台の市場という規模感だ(為替は変動するため目安)。

牽引役は、飲酒そのものよりも「体験」を重視するミレニアル世代とZ世代とされる。SNS映えするビジュアル、ウェルネス志向、そして「シラフのまま夜を楽しむ」という価値観が、Tier1とTier2で同時並行的に広がっている点が特徴だ。プレミアム業態の一部では、ゼロプルーフカクテルが飲料売上の1〜2割程度を占めるまで伸びたという報告もあり、コロナ前は5%未満だった水準から明確に厚みを増している(調査主体・対象店により幅があるため、あくまで傾向値として扱いたい)。

現地・業界の受け止め

現地メディアは、Atelier Vのゼロプルーフを「甘いだけの飲み物」から切り離し、酒メニューと対等に扱った点を評価している。ある飲食関係者は、インドのプレミアム外食では酒を出さない・出しにくい立地でも客単価を上げたいニーズが強く、手の込んだノンアルはその答えになりうる、という趣旨を語る。

別の見方として、Tier2都市の消費者は「都会と同じ体験」を強く求める傾向があり、大都市の話題メニューを地元で味わえること自体に価値が生まれる、との指摘もある。一方で、家庭内消費に近い甘い飲料と、外食で頼む「大人の一杯」は別物として売り分ける必要があるという慎重論もあり、見せ方とネーミングで期待値を管理する重要性がうかがえる。Atelier Vが定番カクテル名をひねった英語で提示しているのは、この期待値設計そのものだと読める。

日本の食品・飲料企業への示唆

ここから日本企業が持ち帰れる示唆は、市場を俯瞰する話ではなく、具体的な一手に落とし込める。ひとつは、ノンアル製品をインドに持ち込む際、酒文化が薄い内陸Tier2都市を「弱い市場」ではなく「ノンアルが主役になれる市場」として先に狙う発想だ。大都市のバー棚で酒と競うより、飲酒ハードルの高い都市で「ちゃんとした一杯」の空白を埋めるほうが、差別化と定着の両面で入りやすい。

もうひとつは、味そのものより「体験の設計」で勝負する点だ。Atelier Vがフードペアリングと遊び心のあるネーミングで単価と満足度を上げているように、日本のノンアルビールや無糖・機能性ドリンク、あるいは甘酒・和素材ベースのモクテル原料を持ち込むなら、外食チェーンやホテルと組み、「頼んで満たされる一杯」としてメニューに組み込む座組みが有効だ。ボトルを卸すだけでなく、現地の店が誇りを持って出せるレシピとストーリーまでセットで提案できるかが分かれ目になる。同じくノンアルを商機と読んだアーメダバードの中東料理店サフテインの動きや、酒メニューをそのまま輸入するのではなく現地の飲み方に寄せたハイボールで飲み会文化を取り込む事例と重ねて読むと、インドの飲料商機が「アルコールの有無」ではなく「体験の質」で動いていることが見えてくる。

市場・業態への波及

Atelier Vのような単店の動きは、外食業態全体の棚づくりにも波及しうる。ゼロプルーフが「メニューの隅の甘い飲み物」から「単価を稼げる主力商品」へ格上げされれば、原料を供給する側にも、ペアリング前提のプレミアム素材や、店で仕上げやすい半製品への需要が生まれる。飲料メーカーにとっては完成品のRTD(そのまま飲める製品)で勝負する道と、外食向けに素材・シロップ・フォーム材を卸す道の二本立てが現実味を帯びる。

また、コーヒー一強に見えたインドの外食ドリンクで、茶やスパイス、果実を軸にしたインドの茶を売り込むEncalmの試みのように、「酒以外の主役」を探す動きは各地で並行している。ノンアルの本格化は、この「脱・単調なソフトドリンク」の潮流と地続きだ。

実用情報・関連リンク

インド向けにノンアル飲料や食品原料の展開を検討する企業は、まず提携先候補として、Tier2都市で意欲的なメニュー設計をする独立系ファインダイニングやホテルのF&B部門を洗い出すのが実務的だ。Atelier Vはインドール・AB Road沿いのScheme 54に立地する独立系で、こうした「地元で話題をつくれる店」は、少量から現地レシピを共同開発するパートナーになりやすい。市場調査だけでなく、1店ずつ「どの一杯に自社素材を差し込めるか」を提案する営業設計が、インドのノンアル市場では効いてくる。

まとめ

Atelier Vの0%ABV6種は、飲酒ハードルの高い内陸Tier2都市でこそノンアルが主役になれることを、単店の実例で示した。日本の食品・飲料企業への次アクションは明快だ。第一に、大都市より先に酒文化の薄いTier2都市でノンアルの空白を狙うこと。第二に、ボトルを卸すのではなく、外食・ホテルと組んでフードペアリング込みの「頼まれる一杯」としてメニューに組み込む提案を用意すること。第三に、実在する意欲的な独立系店を1軒ずつ当たり、少量から現地レシピを共同開発すること。市場全体を語る前に、どの店のどの一杯に自社の素材を差し込むか──その1社1メニューの具体から始めるのが、インドのノンアル商機への最短ルートになる。

参照元

この記事を書いた人

大手総合商社にて約8年間、グループ子会社の経営改革や出資先スタートアップとのJV設立を担当。その後インド駐在として、日系大手飲食チェーンのインド展開に従事し、現地に合わせたメニュー開発やマーケティングを推進。

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