デリー近郊の人気店が「Nomikai」を看板に掲げた
インドのパンアジア外食ブランド、マモゴト(Mamagoto)が2026年6月23日、デリー近郊グルガオンのDLF Cyber Hubで「Mamagoto Nomikai」を始動させた。注目すべきは業態名そのものだ。日本語の「飲み会(Nomikai)」をコンセプト名に据え、ハイボールを軸にした飲食一体型の場を打ち出した。インドの大手外食企業が、日本の居酒屋・飲み会という飲食文化を翻訳して自社の新業態に取り込んだ事例であり、日本の食品・飲料・外食ブランドにとって進出余地を読み解く材料になる。
運営はアジア料理を15年以上手がけるAzure Hospitality。マモゴトはデリー、グルガオン、ムンバイ、ベンガルールなど主要都市で展開してきた看板ブランドで、その旗艦的立地で「飲み会」を前面に出した点に意味がある。
何が新しいのか
新店は単なるメニュー刷新ではない。レストランとバーの境界を溶かし、昼の軽い食事から夜の集まりまでを一つの場で完結させる設計だ。COOのVineet Kochar氏は、消費者はもはやレストランかバーかを選んでいるのではなく、両方をなめらかに併せ持つ場所を求めている、という趣旨の発言をしている。これは日本の居酒屋が長年担ってきた「食べながら飲み、長居する」機能であり、それを「Nomikai」という語で輸入した格好だ。
飲み物の主役はジャパニーズ・ハイボール。そこにアジアの飲酒文化から着想したカクテルを組み合わせる。料理は同店向けに新規開発した35品以上で、韓国風のロール・オン・ア・スティック、天ぷら海苔タコス、ガパオ・スライダー、スリランカ着想の皿などが並ぶ。料理ヘッドのJayanti Duggal氏は、屋台、街角のバー、深夜の食堂、家庭の台所から着想したと説明する。内装は1970年代の香港の麻雀荘を思わせるレトロな造りで、グループでの長居を前提にした空気をつくっている。
なぜ「ハイボール」だったのか
ハイボールはウイスキーを炭酸で割った低めのアルコール飲料で、食事に合わせやすく一杯目から最後まで通せる。日本では食中酒として定着し、外食チェーンの回転と客単価を底上げしてきた。インドの都市部は若年層の外食頻度が高く、強い蒸留酒のショットやビールが中心だった飲酒シーンに、食事と並走する軽い一杯という選択肢が入り込む余地がある。マモゴトがこの飲料を業態の軸に選んだのは、料理の幅広さと相性がよく、グループでだらだら飲み食いする「飲み会」型の滞在を成立させやすいからだ。
確認できた事実と、確認できなかった数値
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店舗 | Mamagoto Nomikai(DLF Cyber Hub、グルガオン) |
| 始動 | 2026年6月23日 |
| 新規開発メニュー | 35品以上(料理・ドリンク) |
| 主力ドリンク | ジャパニーズ・ハイボール、アジア着想カクテル |
| 内装テーマ | 1970年代香港の麻雀荘 |
| 運営 | Azure Hospitality(アジア料理15年以上) |
価格や客単価、マモゴトの現在の総店舗数は今回の発表では公表されていない。過去に報じられた「主要8都市拠点」という数字は古い時期のもので現状を表さないため、本記事では確定値として扱わない。為替換算が必要な金額の開示もないため、円換算は行っていない。
業界とSNSの受け止め
外食メディアは今回の動きを、マモゴトが新世代の消費者向けに体験を作り直す「ブランド変革」の一歩として報じている。現地の飲食関係者の間では、レストランとバーを分けて運営してきた従来型より、一席で食事も酒も完結する業態のほうがCyber Hubのようなオフィス集積地の夜間需要を取り込みやすい、という見方が出ている。SNS上では「Nomikai」という名前自体への反応が目立ち、日本語そのままの命名が珍しさと話題性を生んでいる。一方で、ハイボールという飲料がインドの大衆に浸透するかは未知数だ、という慎重な声もある。
日本の食・飲料・外食ブランドへの示唆
ここが本題だ。今回の事例で重要なのは、インドの有力外食企業が自らの判断で日本の飲食文化を「使える商品」として取り込んだ、という事実である。日本側が現地に売り込んだのではなく、現地が日本の様式を欲しがった。これは進出の順番を変える。
第一に、飲料メーカーの余地が広がる。ハイボールを軸にした業態が増えれば、ウイスキー、炭酸水、レモン系の割材、さらには日本酒や梅酒といった食中酒の供給機会が生まれる。完成品の輸出だけでなく、現地外食向けの業務用原料・割材としての提案が現実味を帯びる。日本の清涼飲料がインド市場に正面から入り始めた流れは、カルピスのインド投入に関する最近の動きでも確認でき、酒類に限らず「日本の飲み方ごと持ち込む」という売り方が通用しつつある。
第二に、外食ブランドにとっては「日本式そのもの」より「日本式を翻訳した業態」が現地で機能するという学びがある。マモゴトはハイボールと飲み会の概念だけを抜き出し、料理はパンアジアで構成した。純度の高い和食店を一足飛びに展開するより、現地の食習慣に日本の要素を差し込む方が立ち上がりが速い可能性がある。タイ料理を現地都市で再構成したハイデラバードのパッタイ専門店の展開と並べて見ると、アジア各国の食文化を都市型の体験に落とし込む手法が共通している。
第三に、立地と客層の読みだ。今回の舞台はオフィス街のCyber Hub。仕事帰りの「飲み会」需要を狙う発想は、デリーの高級コーヒー業態のプレミアム路線の動きと同じく、都市の可処分所得層が体験に金を払い始めている兆候と重なる。日本ブランドが狙うべきは、この層と立地である。
市場への波及
マモゴトのような全国展開ブランドが「飲食一体型・飲み会型」の業態を成功させれば、競合も追随しやすい。インドの都市型外食は、強い酒のバーと食事中心のレストランに二分されてきたが、その中間に日本型の滞在モデルが定着すれば、求められる飲料・食材・什器の構成が変わる。日本のメーカーにとっては、最終消費者向けのブランディングと並行して、外食チェーンへのB2B供給という二正面で攻める価値が出てくる。
実用情報
Mamagoto NomikaiはグルガオンのDLF Cyber Hub内にある。Cyber Hubはデリー首都圏でも有数の飲食集積地で、オフィス勤務者と週末の家族・グループ客の両方を抱える立地だ。日本企業が現地の外食トレンドを観察するなら、まずこの種の都市型フードハブで「日本の要素がどう翻訳されて売られているか」を実地で確かめるのが手早い。商談前の市場感覚づくりとして、看板の命名、メニューでの日本語の使われ方、ドリンクの価格帯を現地で見ておくと判断材料になる。
次の一手
日本の飲料・酒類メーカーは、完成品輸出に加えて、ハイボール業態向けの割材・原液・業務用ウイスキーの提案を準備する価値がある。外食ブランドは、純粋な和食より「日本の飲食様式を翻訳した業態」を現地パートナーと組んで試す道がある。いずれもオフィス集積地の体験消費層を起点に、小さく試して反応を見るのが現実的な進め方だ。今回のマモゴトの動きは、その入口がすでに現地側から開かれていることを示している。
