ベトナム南部カントー市のタンフータイン工業団地で、2026年9月20日にビールとノンアルコール飲料の新工場が着工した。敷地10.7ヘクタール、総投資2兆7,800億ドン。フェーズ1に1兆8,000億ドン超を投じ、年1億5,000万リットルの能力を立ち上げ、商業生産は2027年。充填機や缶・段ボールを扱う日本企業には、商談時期が読める案件だ。
着工を伝えたのはThe Investor(9月22日付)で、投資主体をCamel Beer Co., Ltdと記す。同社の国内商業担当ゼネラルディレクター、グエン・タイン・ロン氏は「南部の主要生産拠点の一つになる」と述べた。全面稼働時はビールとノンアル飲料が各年2億リットル、計4億リットルだ。
確定しているのはドン建ての数字で、ドルは換算にすぎない。The Investorのドル値は逆算すると1ドル=約26,015ドン換算。ここでは2026年9月24〜25日のレート(1ドル=25,950ドン、1ドル=158.7円、1万ドン=約61.2円)で割り直す。2兆7,800億ドン÷25,950=約1億713万ドル、2兆7,800億×0.0061156=約170億円だ。
| 項目 | ドン(確定値) | ドル換算 | 円換算 |
|---|---|---|---|
| 総投資額 | 2兆7,800億 | 約1億713万 | 約170.0億円 |
| フェーズ1 | 1兆8,000億超 | 約6,936万 | 約110.1億円 |
| 想定年間売上(平均) | 5兆7,000億 | 約2億1,965万 | 約348.6億円 |
| 想定年間の国家予算納付額 | 1兆5,000億 | 約5,780万 | 約91.7億円 |
下2行は「同社の財務計画による」見込み値で、実績ではない。1兆5,000億÷5兆7,000億=26.3%(本記事の試算)で、売上の四分の一以上を国家予算への納付に充てる前提の計画だ。
The Investorは案件名を「Camel Hau Giang工場」としながら所在地をカントー市と書く。矛盾ではない。2025年6月の決議202/2025/QH15でハウザン省とソクチャン省がカントー市に統合され、タンフータイン工業団地は現在カントー市の一部にあたる。旧省名は案件名に残っただけで、旧ハウザン省で登録した取引先や配送先は省名で引くと当たらない。
Camelはベトナムのビール・飲料ブランドで、公式サイトにCamel、Cheetah、Saola、Steenなどが並ぶ。ブランド側の連絡先メールドメインはA&Bベトナム(A&B VIETNAM INVESTMENT., JSC)のもので、A&Bのブランド一覧にもCamelが載る。A&Bは飲料の製造・輸出企業を名乗り、OEM・ODM・プライベートブランドの受託を掲げる。
公式サイトが示す既存拠点は北部バクニンの清涼飲料工場と中部クアンチのビール工場。カントーは南部に自前のラインを置く形で、メコンデルタとホーチミン市への配送距離が縮む。
The Investorが投資主体に挙げるのはCamel Beer Co., Ltd。一方、ブランド公式サイトが運営会社として記すのはCamel Vietnam Trading JSC(CÔNG TY CỔ PHẦN THƯƠNG MẠI CAMEL VIỆT NAM)で、法人格も名称も異なる。プロジェクト会社を別に立てる例は珍しくないが、2社の資本関係を示す公開資料は確認範囲で見当たらなかった。契約の相手方を社名で固定するのは当事者を確かめてからでいい。
最大手サベコ(ホーチミン証取:SAB)の2025年通期は純売上25兆8,880億ドン(約1,583億円)。前年の31兆8,720億ドンから18.8%減で、報道は「10年超ぶりの低水準」と扱った。同じ数字を載せた同社の2025年次報告書は、続けて「サイゴン・ビンタイ(Sabibeco)の連結影響を除けば、基礎的な売上の減少は約4%にとどまる」と書く。サベコは2025年1月にSabibeco株の保有を21.80%から65.00%へ引き上げ、子会社化している。税引後利益は4兆5,730億ドンで前年比1.7%増と、売上ほど落ちていない。見出しの19%だけを拾うと、本業の縮み方を四倍以上に見誤る。
The Investorが2026年3月に伝えたInsight Asiaのレポートは、年間生産が2023年の46億リットルから2026年は41.5億リットルへ落ちると見る。ビールの特別消費税が65%から80%へ上がれば小売価格は18〜22%上昇すると試算し、飲酒運転の取り締まり強化で飲食店内の消費が55%減、家飲みがテト数量の67%を占めるまで伸びたと報告する。
一方、着工記事はExpert Market Researchの予測も併記し、ベトナムのビール市場が2026〜2035年に年率約6.6%で伸びて2035年に192億7,000万ドル規模に届くとする。数量と金額で予測の向きが逆になる以上、年4億リットルを市場の伸びだけで説明するのは無理がある。南部の配送距離を詰め、家庭内チャネルの棚を取りにいく投資と読むほうが筋が通る。稼働時のビール2億リットルは、同レポートが2026年の国内生産と見込む41.5億リットルの4.8%(能力と生産量の比較・本記事の試算)にあたる。
着工が2026年9月、商業生産が2027年。躯体工事と並行して主要設備の発注が進み、試運転と衛生バリデーションに数か月を見て逆算する。
| 時期 | 現場で動くこと | 日本側が当てられる商材 |
|---|---|---|
| 2026年内 | 造成・基礎・ユーティリティ設計 | ボイラー、冷凍機、排水処理、計装 |
| 2027年前半 | 充填・殺菌ラインの据付と試運転 | 充填機、殺菌機、CIP、検査装置 |
| 2027年の稼働後 | 量産立ち上げと銘柄追加 | 缶・王冠・ラベル・段ボール、保守部品 |
据付本体を狙うなら2026年内に引き合いを取り、資材・消耗品は2027年の立ち上がりに合わせる。設備の供給元は報道に記載がない。
フェーズ1は1兆8,000億ドン÷1億5,000万リットル=12,000ドン(約73円)/年間能力1リットル。総投資2兆7,800億ドン÷4億リットルなら6,950ドン(約43円)まで下がる(本記事の試算)。フェーズ1にユーティリティ、排水処理、倉庫が集中し、後続は増設分の機械が中心。大口の一括商談はフェーズ1に寄る。
全面稼働時の半分はノンアル飲料で、ビール用とは別に無菌充填や果汁・茶系の処理が要る。前掲レポートはノンアルビールの浸透率を4.2%程度とし、この2億リットルがノンアルビールを指すとは限らない。A&Bの商品分類には果汁、エナジードリンク、麦芽飲料が並ぶ。提案先はビール側と分ける。
飲料工場の資材費は缶と段ボールの比重が大きく、輸送距離がそのまま原価に乗る。南部に年4億リットル級の需要家が一軒増える意味は、包材と副資材の側で大きい。
ペプシコが計4億ドルでロンアン省に飲料、ハナム省に食品の2工場を建てる計画(ペプシコの2工場建設)は外資が南北に生産を置く型、ゴールデンゲートがフート省で2か所目の食品工場を稼働させた例(ゴールデンゲートの食品工場)は自社チャネル向けの内製型。Camelはどちらとも違い、既存ブランドの配送距離を詰める地域拠点だ。ウィンコマースが4か月で348店を純増させ86%が農村型だった動き(農村型WinMart+の拡大)と重ねると、南部工場は家飲みの棚へ最短で届く。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在地 | カントー市 タンフータイン工業団地 |
| 着工日 | 2026年9月20日 |
| 敷地面積 | 10.7ヘクタール |
| 商業生産 | 2027年(予定) |
| 投資主体 | Camel Beer Co., Ltd(報道表記) |
| ブランド運営会社 | Camel Vietnam Trading JSC(公式サイト表記) |
着工から商業生産までの窓は実質1年余りしかない。最初の一手は、Camelブランドの問い合わせ窓口とA&BベトナムのOEM窓口の双方へ、自社の対応能力を1枚にまとめて当てることだ。設備なら能力レンジと納期、包材なら南部の供給体制、原料なら規格書の有無を先に出す。ブランド公式サイトのニュース欄に着工の告知は見つけられず、一次確認は窓口への照会になる。図面が固まる2026年内に動けるかで入り口が変わる。
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