サムスン電機(Samsung Electro-Mechanics、KRX: 009150)が2026年9月28日の取締役会で、FCBGAと呼ばれる半導体パッケージ基板の生産能力増強に総額6兆7,800億ウォンを投じることを決めた。このうちベトナム法人向けが約2兆5,100億ウォン(約18.5億ドル、約2,950億円)で、場所はタイグエン省イェンビン工業団地にある既存工場で、ここは2024年からFCBGAを生産している拠点だ。今回は新設ではなく増設にあたる。建設完了と稼働開始は2030年6月を目標としている。残る4兆2,700億ウォンは韓国・世宗(セジョン)事業場に入り、こちらは2028年9月の量産開始予定だ。ベトナム分の2兆5,100億ウォンは、韓国での公示によればサムスン電機ベトナムの総資産の103.4%に相当する。既存拠点の資産規模とほぼ同額を、もう一度積むことになる。AIサーバー向け基板の増産先としてベトナムに積み増すという決定で、この基板の材料と工程装置には日本メーカーが多く関わっている。本文の円換算は1ドル=157.98円、1ドル=1,342.77ウォン、1ドル=25,966ドン(2026年10月6日時点)で計算した。
金額の分かれ方はこうだ。総額6兆7,800億ウォンの内訳は、世宗事業場が4兆2,700億ウォン、ベトナム法人が約2兆5,100億ウォン。4.27と2.51を足すと6.78になり、総額と一致する。円に直すと総額が約8,000億円、ベトナム分が約2,950億円。The Investorはベトナム分を18.5億ドルと書いており、1ドル=157.98円で換算すると約2,923億円。ウォン建てとドル建てで1%ほど差が出るのは、各社が換算した時点のレートが違うからで、桁は合っている。
役割分担も明示されている。世宗が量産基地、ベトナムが「グローバル顧客の需要に対応する戦略的な海外生産拠点」という位置づけだ。
時期の読み方には幅がある。韓国の公示に載っているベトナム分の取得予定日は2028年4月30日で、金額は2兆5,100億ウォン、内容は「パッケージ基板工場の増設」。一方The Investorは完工・稼働を2030年6月と報じている。前者は設備投資の取得時点、後者は拠点の稼働時点を指すと読むのが自然だ。世宗の量産開始が2028年9月なので、先に韓国で立ち上げて後からベトナムで量を積む順番になる。
CEOの張徳鉉(Chang Duck-hyun)氏のコメントは「AIと高性能コンピューティングの急速な発展が、チップ性能とサプライチェーンの安定性に対して高付加価値半導体基板の重要度を高めている」というもの。需要側の事情を述べたもので、韓国とベトナムに同時に投じた理由そのものは説明されていない。
FCBGAはflip-chip ball grid arrayの略だ。従来のパッケージは、チップの電極と基板をワイヤで細い金線でつないでいた。FCBGAはチップを裏返し(flip chip)、チップ表面に並べたはんだバンプで基板に直接接続する。基板の裏側にはボール状の端子が格子状(ball grid array)に並び、そのままマザーボードに実装される。
この方式が選ばれるのは、配線が短くなるからだ。ワイヤを回り込ませる必要がないので信号の遅延と損失が減り、端子を面で配置できるので本数を稼げる。CPU、GPU、AIアクセラレータのように端子数が多く、大電流を流し、高速で信号をやり取りするチップでは、FCBGAが主流の実装方式になっている。
難しさは層数と平坦度にある。高性能チップ向けのFCBGAは配線層を多層に積み上げ、層と層をつなぐ微細な穴(ビア)を多数開ける。層を増やし面積を広げるほど反り(warpage)が出やすくなり、反るとチップ側のはんだバンプが基板に当たらない。大面積・多層・低反りを同時に成立させる工程歩留まりが、この製品の難しさだ。サムスン電機の発表も大型化・高多層化への対応を挙げている。
| Item | ベトナム(タイグエン省) | 韓国(世宗事業場) |
|---|---|---|
| Investment amount | 約2兆5,100億ウォン(約18.5億ドル/約2,950億円) | 4兆2,700億ウォン(約32億ドル/約5,020億円) |
| 対象製品 | FCBGAパッケージ基板 | FCBGAパッケージ基板 |
| 稼働・量産開始 | 完工・稼働の目標は2030年6月(報道) | 2028年9月に稼働・量産開始 |
| 設備の取得予定日 | 2028年4月30日(韓国での公示) | 設備投資は2028年5月まで |
| Positioning | グローバル顧客向けの海外生産拠点 | 量産基地 |
| 決議日 | 2026年9月28日(取締役会)/総額6兆7,800億ウォン | |
今回の決定はゼロからの立地選定ではない。サムスン電機ベトナムは2013年に投資証明書を受け、2015年2月に操業を始めた。登録資本は2020年5月時点で約13.5億ドル、2022年2月にタイグエン省が9.2億ドルの追加を承認して22.7億ドルまで積み上がった。The Investorによれば2025年の同社売上は21.9億ドルで、サムスン電機の連結売上の26.3%を占める。
FCBGAについても前史がある。同社は2021年12月にベトナム工場へのFCBGA生産ライン・インフラ投資として8.5億ドル規模の計画を公表し、2024年にベトナムでFCBGAの生産を始めた。つまりタイグエンは、FCBGAを作ったことのない土地ではない。すでに動いているラインの横に、もう一段積むという話だ。
売上の4分の1を稼ぎ、同じ製品の量産実績もある拠点に積み増す形になる。工程と人が回っている場所への増設なので、立ち上げのリスクは新設より小さい。
同じイェンビン工業団地では、サムスン電子が別案件を進めている。ソウル経済日報(Seoul Economic Daily)によれば、DRAMとNANDフラッシュの出荷前最終検査を担うファブを2段階で建設し、総額は105兆7,944億ドン(約5兆4,800億ウォン)。第1工場の1階ラインが2027年第4四半期、2階ラインが2028年第1四半期、第2工場の着工が2028年という日程だ。105兆7,944億ドンを円に直すと約6,440億円、5兆4,800億ウォンも約6,450億円で、同じ記事に載るドン建てとウォン建てが揃う。ベトナム語の原文で金額を拾うときは tỷ(10億)と nghìn tỷ(1兆)を取り違えやすいので、円やウォンに直して桁を合わせてから書くのが安全だ。
基板と最終検査の両方が同じ団地に揃うので、タイグエンには組み立て・検査・基板が並ぶことになる。サムスンがバクニンで地場サプライヤーの管理をデジタル化している取り組みと並べると、北部の集積がどの順番で厚くなってきたかが分かる。
FCBGAの材料構成を見ると、日本メーカーの位置が分かる。層間の絶縁層には味の素ファインテクノのビルドアップフィルム(ABF)が広く使われており、この材料が足りないかどうかがFCBGAの供給能力を左右する時期があった。ほかに日本勢が強い品目として、キャリア付きの極薄銅箔、低熱膨張のガラスクロス、ドライフィルムレジスト、ビア加工用の炭酸ガスレーザー穴あけ機、めっき薬液、基板検査装置がある。
6兆7,800億ウォンには建屋や用役の工事も含まれるので、全額が材料と装置に向かうわけではない。各品目をどの国のどのメーカーから買うかも公表されていない。それでも生産能力を増やすのだから、絶縁材・銅箔・薬液といった消耗性の材料は使用量が増える。そこに自社品目が乗るかどうかが論点になる。
では、どこに当たればよいのか。サムスン電機は調達の窓口も方針も公表していないので、確かなことは言えない。ただ押さえておきたいのは、ベトナム工場が2024年からFCBGAを量産しているという点だ。使う材料の銘柄はすでに決まって動いている。増設分がまったく新しい材料構成になるとは考えにくい。
ということは、「韓国で採用を取ってからベトナムへ」という一方通行の図式では読めない。すでにベトナムのラインに入っている材料があり、その供給量を増やす話が先に来る可能性がある。一方で世宗の新ラインは2028年9月稼働なので、新規採用の機会はそちらで先に立つ。どちらが自社に当てはまるかは、現在ベトナム工場に納入があるかどうかで分かれる。
整理するとこうなる。すでにベトナム工場へ納入がある会社は、増設分の数量見通しを現地の購買に確認し、2030年までの供給能力を自社側で確保できるかを先に詰める。まだ納入がない会社は、2028年9月稼働の世宗ラインの評価に間に合わせる段取りを優先し、そこで採用を取ってからベトナムへ広げる。どちらにしても韓国本社とベトナム法人の両方に当たるのが確実だ。
一方で、ベトナム側に物理的な拠点が必要になる品目もある。消耗品、治具、梱包材、再生・洗浄サービス、現地での技術サポートは、韓国から運ぶとコストと納期が合わない。日本精密がベトナムを生産地から開発拠点へ引き上げた判断のように、技術者を現地に置くかどうかが分かれ目になる。
拠点を置く場所の話をしておく。北部にはサムスン関連の半導体後工程・基板・組立がタイグエン、バクニン、ハノイ周辺に集まっている。南部では米コヒレントがドンナイで工場を3万㎡追加したように、光部品・通信部材の案件が出ている。産業全体が南北で分業していると言える段階ではないので、業種で決めるのではなく、自社の取引先リストの所在地を数えて判断するのが確実だ。
サムスン電機ベトナムが主要顧客になるならハノイ・ハイフォン圏に営業と技術サポートを置くほうが近い。顧客が南部に多いならホーチミン・ドンナイ圏になる。両方を1拠点でカバーすると南北1,700kmの移動が常時発生するので、拠点を1つに絞るなら売上の大きい側に寄せることになる。
もう一つ、電力と用水の話がある。FCBGAの工程はめっきとレーザー加工を多用し、電力と純水を大量に使う。同じ団地にサムスン電子のメモリ検査ファブも入るので、2027年から2030年にかけて団地全体の需要が積み上がる。許認可やインフラ契約の内容は公表されていないため、新規に進出を検討する会社は、省の電力・用水計画に自社の需要を載せられるかを早めに団地側へ確認しておきたい。
| Description | 状態 |
|---|---|
| サムスン電機の取締役会決議(総額6兆7,800億ウォン) | 2026年9月28日に決議済み |
| 世宗事業場の4兆2,700億ウォン投資 | 決議済み・2028年9月量産開始予定 |
| ベトナム法人の約2兆5,100億ウォン投資 | 決議・公示済み。設備取得予定日2028年4月30日、稼働目標2030年6月(増設分は未着工) |
| ベトナム工場のFCBGA生産 | 2024年に生産開始済み(今回は増設) |
| ベトナム側の投資登録変更・許認可 | 本稿執筆時点で内容の公表を確認できていない |
| サムスン電子のメモリ検査ファブ(同一団地) | 第1工場1階ラインが2027年Q4予定 |
サムスン電機のFCBGA投資は、総額6兆7,800億ウォンのうち約2兆5,100億ウォンがタイグエン省に入る。設備の取得予定日は2028年4月30日、拠点の稼働目標は2030年6月とされる。製品はチップを裏返してバンプ接続するパッケージ基板で、多層化と反りの制御が難しく、AIサーバー向けの需要がこの増設を押している。ベトナム工場は2024年からFCBGAを量産している既存拠点なので、今回は新設ではなく増設だ。日本の材料・装置メーカーがやることは3つ。すでにベトナム工場へ納入があるなら、増設分の数量見通しを現地の購買に確認し、2030年までの供給能力を自社で確保できるか先に詰める。納入がないなら、2028年9月稼働の世宗ラインの評価に間に合う時期から逆算して評価サンプルの提出計画を引く。拠点を置くなら、基板・パッケージ材料は北部、光部品・車載は南部という分かれ方を前提に、営業と技術のどちらをどこに置くかを決める。
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