インドの食用油大手BL Agroが、子会社リーズ・ジェネティクス(Leads Genetics)を通じて乳牛の育種に1,500クロー(150億ルピー、2026年9月時点の₹1≈¥1.66換算で約249億円)を投じると2026年9月18日に公表した。拠点はウッタルプラデシュ州バレーリー。体外受精と全ゲノム選抜を組み合わせ、1日40〜60リットルを搾れる乳牛を自前で作り出し、酪農の川上を丸ごと握る計画である。インドの乳製品を原料に使う日本企業や、現地で乳加工のOEMを検討する食品メーカーにとって、原料の質と量がどこで決まるのかを映す動きになる。
BL Agro会長のガンシャム・カンデルワル氏によれば、リーズ・ジェネティクスはバレーリーに自社育種農場、IVF-ET(体外受精・胚移植)ラボ、MOET(過剰排卵・胚移植)設備、病理ラボ、ゲノム研究所を一体で整備する。導入したばかりのゼブー牛(コブ牛)に最適化した牛用SNPチップと、イルミナのNovaSeq Xによる次世代シーケンサーで個体の遺伝形質を読み取り、優良な種畜を選び抜く。雌牛を狙って産ませる性選別精液も併用する。胚の生産は2027年末までに月1万5,000個を目標に据える。
インドは世界屈指の生乳生産国でありながら、1頭あたりの搾乳量は先進的な酪農国に見劣りする水準にとどまってきた。カンデルワル氏はこの1頭あたり生産性を引き上げる手段として遺伝の改良を選んだ。飼料や頭数をただ増やすのではなく、少ない頭数で多くの乳を出す牛群へ置き換える発想である。原料乳の質と量を種畜の段階から握れば、加工へ回す生乳の安定にもつながる。
選抜の要は、ゼブー牛向けSNPチップで多数の個体を安価に遺伝子型判定し、NovaSeq Xの全ゲノム解読で泌乳・繁殖に効く遺伝形質を突き止める工程にある。見込みの高い個体からIVF-ETとMOETで胚を大量に取り、性選別精液で雌の産子率を高める。この掛け合わせで、1日40〜60リットルを搾れる高泌乳牛を短い世代で増やす。血統任せの繁殖では何世代もかかる改良を、実験室の工程へ置き換えて速める設計である。
種畜から生乳、加工までを1社の管に通す垂直統合は、原料の量とばらつきを自社で制御できる利点を生む。カンデルワル氏は循環型の事業モデルとして、糞尿のバイオガス利用まで含めた「360度」の設計を掲げる。乳原料の質が種畜の段階から管理される体制は、乳固形分や脂肪率といった加工歩留まりに直結する指標の安定につながる。
FnB Newsが報じた範囲では、カンデルワル氏は「優れた遺伝形質は泌乳量・繁殖成績・牛の長期的な価値を高める」と述べている。同社はウッタルプラデシュに加え、マハラシュトラ、ビハール、マディヤプラデシュへの展開も協議中とされる。リーズ・ジェネティクスの共同創業者アシシュ・ドゥベイ氏、オペレーション担当のS.K.アガルワル氏、IVF-MOETを率いるサルヴァナン・ドゥライラジ氏らが技術陣を構成する。
インドで乳原料を調達する、あるいは乳加工品のOEMを組む場合、供給元が種畜から生乳までを管理しているかどうかが品質の読みやすさを左右する。産地直送のD2C乳業では、Desi Farmsが売上を8倍に伸ばした事例のように、調達網を自社で束ねるブランドが台頭している。原料構成を切り替える動きとしては、Kwality Wall’s(クオリティ・ウォールズ)がパーム油を全廃して乳製品へ寄せた転換も、乳固形分の調達計画を考える材料になる。日本式の調理済み食品を現地で作るなら、iD Fresh Foodへの巨額投資が映す調理済み食品の動きと合わせ、乳原料の確保先を早めに固めておきたい。
種畜の量産が進めば、増える生乳を受け止める加工設備や、高たんぱく乳製品のラインへの需要が続く。伝統食を軸に原料を組み替えるD2Cでは、Anveshanの調達戦略のように素材の出所を訴求する売り方が広がっており、乳由来の機能性素材やギー、発酵乳の受託加工に日本の技術が入り込む余地がある。搾乳・冷蔵・充填の各工程へ機材を売り込む窓口も、育種農場の稼働時期に合わせて動く価値がある。
インドで乳原料を扱うなら、まず取引先候補に対して、生乳が種畜のどの管理体制から来ているかを一次資料で確認したい。リーズ・ジェネティクスのように育種から握る供給元が増えるほど、原料のトレーサビリティは交渉の入口になる。バレーリーの施設稼働と、他州への展開協議の進み具合を追いながら、調達先リストを更新する一歩から始めたい。