インドのアイスクリーム大手Kwality Wall’s(クオリティ・ウォールズ)が、全製品からパーム油(植物性油脂)を排除し、乳製品ベースへ全面切り替えする方針を発表した。親会社Magnum Ice Cream Company(旧ユニリーバ・アイスクリーム部門)のグローバルCEO、Peter ter Kulve氏が2026年5月末に明らかにした。2026年内にポートフォリオの約50%を乳製品ベースに移行し、2027年中に100%完了を目指す。
Kwality Wall’s、パーム油から乳製品へ——全面切り替えの詳細
Kwality Wall’sはこれまで、植物性油脂(主にパーム油)を使用した「フローズンデザート」を主力商品として販売してきた。インドの食品安全基準局(FSSAI)の規定では、乳脂肪を一定割合以上含む製品のみが「アイスクリーム」と表示でき、植物性油脂を使用した製品は「フローズンデザート」に分類される。
Peter ter Kulve CEOは「我々は世界のどの市場でもフローズンデザート企業ではなく、アイスクリーム企業だ」と発言。インドを「デマージャー(事業分離)後の最重要戦略市場」と位置付け、乳製品への全面移行を決断した背景を説明した。
切り替えは段階的に進行する。2026年中に既存ポートフォリオの約50%を乳製品ベースに改配合し、残る50%は2027年中に完了させる計画だ。同時に、クルフィやケサルボーグなどインド固有フレーバーの開発も進める。
背景——ユニリーバのアイスクリーム事業分離と「本物のアイスクリーム」回帰
この動きの起点は、2025年12月1日に完了したユニリーバのグローバルアイスクリーム事業の分離だ。オランダ・アムステルダムに本社を置くMagnum Ice Cream Companyとして独立し、Kwality Wall’s、Magnum、Cornettoなどのブランドを傘下に収めた。
独立前のKwality Wall’sは、コスト優位性を追求するあまりパーム油主体の「フローズンデザート」に傾斜し、乳製品ベースのAmul(アムル)や地場メーカーにシェアを奪われてきた。Amulはインドのアイスクリーム組織化市場で推定40%のシェアを握り、Kwality Wall’s(HUL時代)は約9.8%にとどまっていた。
事業分離を機に、Kwality Wall’sは「量から質」への転換を図る。一部カテゴリーでは最大30%の価格引き下げも実施し、消費者のすそ野を広げる戦略だ。
インドのアイスクリーム市場——主要プレーヤーとシェア
| 企業名 | ブランド | 推定市場シェア | 製品区分 |
|---|---|---|---|
| Amul(GCMMF) | Amul Ice Cream | 約40%(組織化市場) | 乳製品ベース(アイスクリーム) |
| Magnum Ice Cream Company | Kwality Wall’s / Magnum / Cornetto | 約9.8% | フローズンデザート → 乳製品ベースへ移行中 |
| Vadilal Industries | Vadilal | 約6.2% | 乳製品ベース |
| Mother Dairy | Mother Dairy Ice Cream | 約5% | 乳製品ベース |
| Hatsun Agro / Havmor / Creambell | Arun / Havmor / Creambell | 合計約7-8% | 乳製品ベース |
インドのアイスクリーム市場は2026年時点で約30.7億ドル(約4,600億円)規模。2034年までにCAGR16%で1兆1,924億ルピー(約2.1兆円)に成長する見通しだ。一人あたり消費量は先進国の数分の一にとどまり、拡大余地は大きい。
業界・消費者の反応——「遅すぎた決断」の声も
今回の発表に対し、業界関係者やSNS上で多くの反応が出ている。
消費者団体の評価:インドの消費者権利団体は「パーム油使用のフローズンデザートがアイスクリームと混同されてきた問題に、メーカー自身がようやく向き合った」とコメント。ただし「何年も消費者に植物性油脂製品を販売してきた責任は残る」との指摘もある。
酪農業界の期待:インド最大の酪農協同組合であるAmulの関係者は、大手の乳製品回帰を「業界全体の品質底上げにつながる」と評価。乳製品需要の拡大は、インドの約8,000万戸の酪農家にとって追い風となる。
流通・小売の見方:コールドチェーン事業者からは「100万台のコールドキャビネット配備計画は、インドのコールドチェーン・インフラ全体の底上げになる」との期待が寄せられている。現在、同社はトルコで35万台のコールドキャビネットを展開しており、インドではその約3倍の規模を目指す。
日本企業への影響——インド乳製品市場参入の好機
Kwality Wall’sの乳製品シフトは、日本企業のインド進出にとって複数の示唆を含む。
乳製品原料の需要急増:インド国内の乳製品需要が拡大すれば、乳製品加工技術や品質管理ノウハウを持つ日本企業の技術供与・JV機会が生まれる。とくに北海道や九州の乳業メーカーにとって、インドの乳製品サプライチェーン高度化は参入ポイントになり得る。
コールドチェーン投資の拡大:100万台規模のコールドキャビネット配備は、冷蔵・冷凍設備メーカーにとって大きな市場だ。日本のダイキンやパナソニックなど、インドで冷蔵・空調事業を展開する企業には直接的なビジネス機会となる。
食品安全・品質管理:FSSAIの規制強化に伴い、食品安全コンサルティングや品質検査機器の需要も高まる。日本の食品衛生技術は国際的に高い評価を受けており、インド食品業界の品質底上げフェーズで貢献できる領域は広い。
業界への波及——「フローズンデザート」カテゴリの終焉か
Kwality Wall’sの決定は、インドのアイスクリーム業界全体に構造変化をもたらす可能性がある。
これまでフローズンデザートは、パーム油の低コストを活かした価格競争力で市場の一角を占めてきた。しかし最大手がカテゴリを離脱することで、中小メーカーも乳製品ベースへの移行圧力を受ける。FSSAIが今後「アイスクリーム」と「フローズンデザート」の表示規制をさらに厳格化する可能性も指摘されている。
パーム油需要の減少は、インドの食用油輸入構造にも影響を与える。インドは世界最大のパーム油輸入国であり、アイスクリーム業界の方向転換は食用油市場全体の需給バランスに波紋を広げる。
一方、乳製品ベースへの移行はコスト上昇を伴う。原材料費の増加分をどこまで価格に転嫁するか、あるいはスケールメリットで吸収するかが、各社の競争力を左右する分水嶺となる。
実用情報——Kwality Wall’s乳製品移行の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発表時期 | 2026年5月末 |
| 発表者 | Peter ter Kulve(Magnum Ice Cream Company グローバルCEO) |
| 移行スケジュール | 2026年内に50%、2027年中に100%完了 |
| 対象ブランド | Kwality Wall’s、Magnum、Cornetto |
| 変更内容 | パーム油(植物性油脂)→ 乳製品ベースへ全面切替 |
| 投資規模 | 数百クロール(数百億円規模) |
| コールドチェーン目標 | インド全土に100万台のコールドキャビネット配備 |
| 価格戦略 | 一部カテゴリで最大30%値下げ |
| 親会社 | Magnum Ice Cream Company(旧ユニリーバ・アイスクリーム部門、2025年12月分離) |
| インド市場規模 | 約30.7億ドル(約4,600億円、2026年推定) |
まとめ
Kwality Wall’sのパーム油全面排除は、インドのアイスクリーム業界における「フローズンデザートからアイスクリームへ」の構造転換を加速させる。ユニリーバからの事業分離を機に、コスト優先から品質優先へと舵を切った同社の動きは、Amulをはじめとする乳製品ベースの競合勢と同じ土俵で戦う覚悟の表れだ。
日本企業にとっては、乳製品サプライチェーン、コールドチェーン設備、食品安全コンサルティングの各領域で、インド市場との接点が広がるきっかけとなる。約30億ドル規模の市場が乳製品シフトで再編される過程を、日本の食品・設備メーカーは注視すべきだ。
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出典:
Business Standard – Palm oil to milk: What Kwality Wall’s move means for the ice cream market
Sunday Guardian Live – Why Kwality Wall’s Wants to Replace Palm Oil With Dairy
