インドの農薬大手PI Industriesが2026年9月、新しい殺虫剤「CARVINT」を発売した。有効成分はFlometoquin(フロメトキン)10% SCで、唐辛子とアブラナ科作物(キャベツ・カリフラワー)のアザミウマとコナガ(DBM)を狙う。発売地はアーンドラ・プラデーシュ、テランガナ、タミルナードゥ、マハラシュトラ、グジャラート、マディヤ・プラデーシュ、カルナタカの7州。ここで日本企業が見落とせないのは、この有効成分フロメトキンが日本発の化合物だという点だ。高付加価値作物の防除という具体の現場で、日本の技術がインド大手の製品として畑に届いている。
農業専門メディアagrospectrumの報道によれば、CARVINTはFlometoquin 10% SCを有効成分とし、IRAC作用機構分類のグループ34に属する、インドでは新しいクラスの殺虫剤だ。唐辛子・キャベツ・カリフラワーを対象に、唐辛子で慢性的な問題となるアザミウマと、キャベツで大きな制約となるコナガを防除する。CEOのSaket Bhatnagar氏は「CARVINTは独自の作用機構により、効果的で持続可能な害虫管理の新しい選択肢を提供する」と述べた。
唐辛子はインドの主要な換金作物で、アザミウマの食害とウイルス媒介が収量と品質を大きく左右する。キャベツ・カリフラワーではコナガが薬剤抵抗性を獲得しやすく、既存剤が効きにくくなる悩みが続いてきた。PIが新しい作用機構(IRACグループ34)の剤を投入するのは、抵抗性がついた害虫に別系統の武器を渡し、輪番防除の選択肢を増やすためだ。汎用の広域殺虫剤ではなく、高単価な特用作物の困りごとに絞った製品設計になっている。
CARVINTの核であるフロメトキンは、2004年に日本化薬と明治製菓(現・三井化学クロップ&ライフソリューション)の共同研究で見いだされた新規キノリン系殺虫剤だ。学術報告によれば、アザミウマ類の幼虫・成虫に接触・食害の両面で速効的に効き、ミトコンドリアの電子伝達系(複合体III)を阻害する独自の作用機構を持つ。非標的の節足動物に影響が出にくく、IPM(総合的病害虫管理)に組み込みやすい点も特徴とされる。この日本生まれの成分が、インド大手PIの製剤CARVINTとして現地の唐辛子畑に届いている。
agrospectrumは、CARVINTをPIが特用作物向け防除ポートフォリオを厚くする具体的な製品投入として報じた。報道の範囲では、PIは新しい作用機構の剤を主要な唐辛子・アブラナ科産地に絞って投入し、抵抗性管理の選択肢を農家に増やす狙いを示している。既存剤が効きにくくなった害虫への「別系統の一手」という位置づけが読み取れる。
フロメトキンの経路は、日本で見いだした有効成分を、登録・製剤・販売網を持つインド大手が現地製品に仕立てるという分業の実例だ。自社で対印の登録と流通をゼロから組むより、成分・技術をライセンスや供給の形で現地パートナーに託す方が、規制の壁と販路の壁を同時に越えやすい。日本の化学メーカーは中国からインドへ投資と調達をシフトしており(三井化学・住友化学の脱中国とインド拠点化)、その流れは加工・素材の各分野で続いている(日本の化学メーカーの対印投資シフト)。現地生産で価格競争に応える動きは塗料などでも進んでおり(日本ペイントのインド工場倍増)、成分・技術を現地の製品に載せる設計は農業資材にも通じる。
唐辛子やアブラナ科のような高付加価値作物の防除が整うほど、その産地の原料は輸出や加工向けに扱いやすくなる。インドでは農家と直接つながる産直D2Cも育っており(KisaanSayの産地直送D2Cと5万農家連携)、栽培から流通までの各工程に日本の技術が入る余地が広がっている。
CARVINTは、日本発の成分がインド大手の製品として畑に届いた具体例だ。有効成分や製造技術を持つ日本の化学・農業資材メーカーがまず取れる一手は、対印の直接進出を急ぐ前に、現地で登録・製剤・販売網を持つパートナーへの供給やライセンスという入口を確かめることだ。技術は自社、現地化はパートナーという役割分担なら、規制と販路の壁を同時に越えやすい。