東京都国立市に本社を置く株式会社さえきセルバホールディングスが、ベトナムで100店の店舗網を築く計画を進めている。ベトナム通信社(VNA)系のVietnamPlusが9月23日、Inside Retail Asiaが9月21日に報じた。もっとも、この計画で先に動いたのは店舗ではない。同社は2026年5月25日にベトナムの現地法人を設立し、6月1日に自社サイトでその事実を公表していた。報道が伝えた「3年以内に1号店」より先に、法人の登記は済んでいる。
さえきセルバホールディングスが6月1日付で公表したニュースリリースによると、設立した現地法人の名称は「SAEKI VIETNAM COMPANY LIMITED」。設立年月日は2026年5月25日、同社の出資比率は100%で、代表取締役には山本憲史氏が就いている。山本氏はホールディングス本体の専務取締役でもある。
資本金は20億8,000万ドンと80,000米ドルが併記されている。ベトナム語のtỷは10億を指すので、20億8,000万ドンは2.08 tỷにあたる。ドン建てとドル建ての比率から逆算すると1ドル=26,000ドンで換算されている計算だ。円換算はリリースに記載がないため、ここでは原文どおり2通貨の表記にとどめる。
リリースは設立の目的をこう記している。「当社は、今後の事業展開を見据え、成長が期待されるベトナム市場において事業基盤の構築を進めるとともに、現地における優秀な人材の確保・育成を図るため、現地法人を設立いたしました」。法人概要の「事業の目的」欄はベトナムにおける事業推進と人材確保の一文で、店舗運営については書かれていない。
VietnamPlusによると、佐伯行彦社長は今回の進出を東南アジア展開の第1段階と位置づけ、日本のスーパーが持つ衛生管理のノウハウを現地の食文化や生活様式と組み合わせる考えを示している。同社がオンレコで語っている狙いはこの一点で、100店という数字や投資の規模については説明していない。
VietnamPlusとInside Retail Asiaは、1号店の開業時期と場所を「3年以内にホーチミン市」で一致させている。Inside Retail Asiaはこれを同社にとって初の海外店舗(first overseas store)と書き添えた。業態は中間層に向けた小型スーパーで、こちらも両紙の記述は食い違っていない。
一方で、100店という数字に期限をつけた報道は見当たらない。VietnamPlusは「an eventual goal」(いずれ達成する目標)と書き、日本経済新聞は9月15日の記事で、100店規模の展開を視野に入れていると伝えている。3年という期間が掛かっているのは1号店であって、100店ではない。進出先や取引先としてこの計画を見る側がこの2つを混同すると、想定するスケジュールが大きくずれる。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 日本国内の店舗数 | グループ合計56店舗(東京・神奈川・埼玉・山梨・静岡・島根・鳥取・茨城・千葉の9都県) |
| 現地法人 | SAEKI VIETNAM COMPANY LIMITED(2026年5月25日設立/出資比率100%) |
| 現地法人の資本金 | 20億8,000万ドン/80,000米ドル |
| 現地法人の代表者 | 代表取締役 山本憲史(本体の専務取締役) |
| 1号店の時期と場所 | 3年以内にホーチミン市 |
| 目標店舗数 | 100店(達成時期の明示なし) |
| 業態 | 中間層に向けた小型スーパー |
| 人材育成 | 日本国内の店舗で最低3年、帰国後に店舗管理・商品開発などの研修 |
| 公表されていない事項 | 出店計画の総投資額/現地の提携先・合弁相手/1号店の具体的な立地/100店の達成時期 |
人材育成の中身について、両紙の書き方は揃っている。ベトナム人従業員は日本国内の店舗で小売の基本業務を最低3年間学び、帰国後に店舗管理や商品開発といった上級スキルの研修を受ける。
日本経済新聞はこれをより長い枠組みで説明しており、同社が技能実習生に着目していること、育成の範囲が食料品製造から店舗管理まで及ぶこと、期間が日本とベトナムの両国で10年単位になることを伝えている。英語報道が書いた3年は、この長い育成計画のうち日本国内で過ごす部分にあたる。
ここで日本側の制度が切り替わる点は押さえておきたい。技能実習制度は発展的に解消され、2027年4月1日から育成就労制度が施行される。国際人材協力機構(JITCO)の説明では、新制度には技能実習制度になかった就労開始時の日本語能力要件が設けられる。1号店が3年以内なら開業は遅くとも2029年ごろとなり、育成計画の大半は新制度のもとで進む。日本での研修を前提にベトナム人材を採用する企業は、要件が変わる時期を自社の計画表に重ねておきたい。
英語報道は同社を「56 stores in Japan, mainly in and around Tokyo」と紹介し、日本経済新聞は「東京西部地盤の食品スーパー」と書いた。ただし同社の会社概要を見ると、グループ合計56店舗の展開エリアは東京都・神奈川県・埼玉県・山梨県・静岡県・島根県・鳥取県・茨城県・千葉県の9都県に及ぶ。
グループは持株会社の下に株式会社東京さえき(東京都国立市)、株式会社フーズマーケットホック(島根県安来市)、株式会社山梨さえき(山梨県富士吉田市)、株式会社京浜さえき(神奈川県川崎市)の4社を置く。首都圏と山陰という離れた商圏を並行して回してきた会社で、東京近郊だけの会社ではない。持株会社の設立は2011年3月、資本金は4億1,464万7,900円で、会社概要には「めざすは、グループ売上1,000億円」と掲げられている。
100店という数字を既存の日系小売と並べたくなるが、そのままでは比較が成り立たない。イオンのベトナム増資を扱った記事でまとめたとおり、イオン・ベトナムの自社流通網は総合スーパー15店、中小型スーパー45店、コンビニ182店、専門店29店という構成だ。ただしこれは現在の実店舗数であり、さえきセルバの100店は達成時期が示されていない。同じ時点に置いて大小を論じることはできない。同記事にあるとおりイオンは2030年までに店舗と売上を現在の3倍にする目標を公言しており、その前提に立てば並べる相手の数字も動く。加えて、イオンの「中小型スーパー」とさえきセルバの「中間層に向けた小型スーパー」が同じ業態だと書いた出典は、今回確認した範囲では見当たらない。
取引や協業を検討する側にとって実務上効くのは、まだ決まっていない部分だ。確認できた範囲で、出店計画の総投資額、ベトナム側の提携先や合弁相手、1号店のホーチミン市内での具体的な立地、100店を達成する時期は、どの報道にも社告にも出ていない。現地法人の80,000米ドルは設立時の資本金であって、店舗網をつくるための投資枠ではない。出資比率が100%と明記されている事実は、少なくとも設立の段階でベトナム側の資本パートナーが入っていないことを示す。同じく日本の小売がベトナムに出た例では、高島屋のハノイ出店計画が百貨店部分だけで約20億円という投資額を公表していた。金額が出ている案件なら規模から逆算して提案を組み立てられるが、さえきセルバの場合は現地法人の資本金以外に手掛かりがない。当面は、日本国内の店舗に入るベトナム人従業員の採用と研修が、この計画の進み具合をいちばん早く映す指標になる。