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「半導体の優遇税制を評価」マーベル越社長がダナン2号パークに入居

2026.11.06

米マーベル・テクノロジーのベトナム法人が11月5日、ダナン市ハイチャウ区のソフトウェアパーク2号・ICT1棟6階に拡張オフィスを開いた。式典に立った同社のレ・クアン・ダム社長が評価したのは、市の投資誘致策、なかでも半導体産業向けの優遇税制だった。

半導体の設計や検査をベトナムに置く日本企業にとって、この一件の意味は立地の数にある。ハノイとホーチミンの2択で考える段階は終わった。

マーベル越社長はICT1棟6階の式典で半導体の優遇税制を評価した

式典の中身は拠点の規模より立地の理由に寄った。ダム社長は市の誘致策と支援を評価したうえで半導体産業向けの優遇税制に触れ、大学との連携方針も示した。

市が約束したのは建物、マーベルが約束したのは人

ホー・キー・ミン常任副主席は、この日の開業を誘致とインフラ整備を何年も積み上げた結果だと位置づけた。市は公共投資の仕組みと公有資産の管理に関する障害を中央省庁と詰め、ようやくIT企業に区画を貸せる状態にした。マーベルは最初に区画を得た一社にあたる。

  • 市の側 ― 人員増に合わせて施設面を支援すると表明
  • 市の側 ― 同じ2号パーク内で半導体の検査ラボ「VSAP Lab」を稼働させる段階に入ったと説明
  • マーベルの側 ― 人材育成の継続、大学との教育・専門研究の連携、設計技術者の育成
  • 床面積と人員 ― 市・同社とも非公表

3年を使ったのはマーベルの判断ではなく市側の準備だった

ダナン市がマーベルに接触したのは、2023年10月に代表団が米シリコンバレーへ赴いた出張だった。今回の拡張までを並べると、動きが止まっていたのは企業の意思決定ではなく行政側の準備だった。

2013年にホーチミンで技術者5人、2025年には越国内で500人超

進出自体は2023年より10年早い。2025年9月30日に3オフィスを同時に開いた時点で、ベトナムは米国とインドに次ぐ同社3番目の規模のR&D拠点とされた。

時期動き
2013年ホーチミン市タントゥアン輸出加工区で技術者5人で設立
2023年10月ダナン市代表団がシリコンバレーを訪問
2025年1月2号パーク開業。ICT1棟は8階建て、総床面積3万9,000平方メートル超
2025年9月30日ホーチミン2か所とダナン1か所に新オフィス。越国内の技術者500人超
2026年11月5日ICT1棟6階に拡張オフィス
ICT1棟の規模は2025年1月の開業時に市側が示した数字。賃貸可能面積は2万1,000平方メートル。

引き合いは早い段階で供給を上回った。2025年1月時点でICT1棟には30社超が入居希望を登録し、登録面積の合計は貸せる面積を上回っている。契約済みの社数は非公表だ。

法人税5年免除はグローバルミニマム課税の対象企業には効かない

ダム社長が挙げた優遇税制の根拠は、2024年6月26日に国会が可決した決議136号にある。2025年1月1日施行、試行期間5年と条文に書かれた恒久でない制度だ。中身を見ると、日本企業が期待しやすい部分と実際に効く部分がずれている。

決議136号の4本柱を効く相手で並べ直す

制度条文上の内容注意点
法人税の免除半導体・AI・創業企業の所得を5年免除。起算は納税義務が生じた時点グローバルミニマム課税の対象企業は通常課税と条文が明記
個人所得税の免除設計・製造・パッケージング・検査やAIの従事者と専門家の給与を5年免除対象は給与と賃金のみ。勤務先が市内の対象法人であること
持分譲渡益の免除未公開の半導体・AI企業への株式・出資持分・出資権の譲渡益5年の起算は出資時点。譲渡時点ではない
設備費などの補助設備購入費・生産ライン移設費・新規案件費の合計の5%以内戦略投資家と戦略パートナーに限る裁量措置

「戦略パートナー」の入口は直近1年のグローバル売上25兆ドン超

5%の補助を受けられる戦略パートナーには明確な線がある。この水準に届かない企業は、補助を前提に投資計画を組めない。

  • 対象業種で事業していること
  • 市人民委員会と半導体・AI協力の覚書を結んでいること
  • 直近1年のグローバル売上が25兆ドン超(1円=170ドン換算で約1,470億円超)
  • 市内で最低5年の事業コミットメント

執行の記録もある。2026年2月、市人民評議会は情報インフラ資産の初期設置費としてFPTに6億5,000万ドン超(約380万円)の優遇を決議した。2026年5月29日の市決議21号には、戦略パートナー企業が高度人材を雇う費用の30%を5年補助する枠(1社あたり年10億ドン、1人あたり年2億ドンが上限)も入った。

設計人材は2024年8月に約550人、VKUの半導体設計1期生は2028年

立地を決める側が見るべきは優遇の条件より人材の供給元だ。ダナンの数字には規模の小ささと伸びの速さが同時に出る。

2030年に5,000人の内訳は設計2,000人と検査・パッケージング3,000人

市が2025年1月21日の決定257号で承認した計画は、2030年までに半導体の高度人材を最低5,000人集めるとする。内訳は設計2,000人、検査・パッケージング3,000人。AI人材3,000人は別建てで合算しない。

指標数字時点
設計技術者約550人(全国の約1割)2024年8月、市情報通信局長の説明
設計企業13社2024年末
半導体関連企業25社2025年8月
高度人材の目標最低5,000人2030年まで

供給側は市の半導体・AI推進組織DSACを窓口に5大学の連合で動く。ダナン大学の工科大学・ベトナム韓国情報通信技術大学(VKU)・技術教育大学、ズイタン大学、FPT大学ダナン校だ。VKUの半導体設計専攻は初年度40人で始まったが、最初の卒業生は2028年の見込みだ。

同じ2週間にバクニンでは試運転、カインホアでは投資許可が出た

検査・パッケージング3,000人という目標は、国内に後工程の層ができつつあることと対応する。直近2週間の2件が広がり方を示す。

  • FPTは11月3日、バクニン省イエンフォンII-C工業団地のテスト・パッケージング工場で第1期の試運転を開始。敷地1,600平方メートル、6ライン、最大能力は年3億個。パッケージング工程は未稼働で投資額は非開示
  • カインホア省は10月下旬、米ヘメミクス系の合弁にグラフェン・バイオチップ工場の投資登録証明書を交付。スオイザウ村の工業集積地で敷地1万4,400平方メートル超、稼働は2027年第2四半期の予定で着工前

ダナン側の検査設備も立ち上げ途中だ。ICT1棟に入るVSAP Labは総投資1兆8,000億ドン(約106億円)、設計能力は年1,000万個とされる。常任副主席は稼働が近いと述べたが、11月5日時点では動いていない。

優遇の対象者と最低賃金の地域区分から第3の立地を見比べる

ハノイとホーチミンに加えてダナンを比べるなら、見る順番は決まる。優遇の適用対象、人材の供給元、既存テナント、人件費の地域差だ。

人件費の差は法定最低賃金では10.9%、IT給与では縮んでいる

最も硬い数字は法定最低賃金の地域区分だ。2026年1月1日施行の政令293号で、ダナンの旧市域は第2地域、ハノイとホーチミンの中心部は第1地域に入る。ダナンに第1地域の区画はない。

区分月額最低賃金該当地域の例
第1地域531万ドン(約3万1,200円)ハノイ中心部、ホーチミン中心部
第2地域473万ドン(約2万7,800円)ダナン旧市域(ハイチャウなど)
第3地域414万ドン(約2万4,400円)ディエンバンなど
第4地域370万ドン(約2万1,800円)上記以外
1円=170ドン換算、2026年11月時点。第2地域は第1地域より10.9%低い。

技術者の給与そのものは差が縮んでいる。都市別の内訳を公開している2023〜24年度のIT給与調査(有効回答2,207件)では、月額平均がホーチミン3,570万ドン、ハノイ3,240万ドン、ダナン2,940万ドンで、ダナンは全国平均を14.5%下回った。同調査の時点では、ダナン回答者のシニア層比率が3割台から5割超に上がったと調査元が注記しており、安く雇える幅は2022年より狭い。

  • 人材の供給元 ― 2028年まで中途採用はホーチミンとハノイからの移動に頼る
  • 既に入っている外資 ― 2号パークで確認できるのはマーベルとFPTで、VSAP Labは稼働前

材料もそろった。北部の後工程・基板ではタイグエン省でFCBGA基板を増強したサムスン電機が投資を積み増し、南部の光部品ではドンナイ省で工場を3万平方メートル追加した米コヒレントが面積を広げた。日本側の先例ではベトナムを開発拠点に格上げした日本精密が製造の場から開発の場へ切り替えている。ダナンはどれとも違い、設計と検査に寄った人の拠点として積み上がる。

2023年10月の出張から3年でダナン市が用意できたのは、ICT1棟の区画と5年期限の税制、2028年に最初の卒業生が出る大学の列だった。マーベルが6階に入ったのは、その3つがそろった順番の結果である。

参照元

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