ベトナムの物流大手ITLグループ傘下のSOTRANS Logisticsが、ドンナイ省ホーナイ(Hố Nai)で建設してきた化学品専用倉庫の稼働が近づいている。着工は2025年10月、総面積26,400㎡、うち保管スペース16,200㎡、収容能力は最大19,500パレット。報道が挙げる需要分野は農業、製造、医薬、化粧品、再生可能エネルギーで、どれが実際の受入品目かは明記されていない。消火は5〜10ミクロンの微細水滴を60〜80barで噴射する高圧ウォーターミスト、保管は化学的な相性に基づくゾーニング、床にはトレンチと受けタンク、温度・湿度・ガス漏れをIoTセンサーで監視する。この仕様の意味を理解しておくと、化学・塗料・接着剤・コーティング材を扱う日本企業がベトナムで何に詰まるのかが分かる。ベトナムでは2026年に化学品の法令が切り替わり、一定区分の化学品については保管サービスが許可事業になった。該当する品目を扱う会社は、預け先の許可の有無から確認する必要がある。
この案件の数字で最初に目を引くのは、総面積と保管スペースの差だ。26,400㎡のうち保管に充てられるのは16,200㎡で、全体の61%。残りは10,200㎡ある。26,400㎡は敷地・施設全体、16,200㎡は倉庫床面積として報じられており、差分の内訳は書かれていない。荷捌き場、通路、受け設備、消火用の貯水、事務スペースなどが考えられるが、地下の設備もありうるので内訳は推測にとどまる。
一般に化学品倉庫は、相性の悪い化学品を離して置く必要から床面の使い方が窮屈になる。酸とアルカリ、酸化性物質と可燃物のあいだに緩衝帯と隔壁が入り、漏洩を受けるトレンチと貯留タンクも面積を取る。この倉庫も「化学的相性に基づくゾーニング」と「トレンチと貯留タンク」を備えていると報じられているので、保管に使える面積が全体の61%にとどまること自体は想定の範囲に収まる。
パレット数の密度も計算しておく。19,500パレットを保管スペース16,200㎡で割ると1㎡あたり約1.2パレット。欧州規格のパレット1枚の投影面積は約0.96㎡なので、通路とゾーニングを取ったうえでこの密度を出すには多段ラックが前提になる。平置きでは成立しない数字で、ラック式の化学品倉庫というのがこの施設の性格だ。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 事業者 | SOTRANS Logistics(SOTRANSグループ/ITL Corporationのメンバー) |
| 所在 | ドンナイ省ホーナイ(Hố Nai) |
| 着工 | 2025年10月 |
| 稼働 | 2026年10月時点で稼働直前と報道(稼働開始日は未公表) |
| 総面積 | 26,400㎡ |
| 保管スペース | 16,200㎡(総面積の61%。残り10,200㎡の用途は非公表) |
| 収容能力 | 最大19,500パレット(保管面積1㎡あたり約1.2パレット) |
| 報道が挙げる需要分野 | 農業、製造、医薬、化粧品、再生可能エネルギー(同倉庫の受入品目として明記されたものではない) |
| 消火設備 | 高圧ウォーターミスト(5〜10ミクロン/60〜80bar) |
| 区画・漏洩対策 | 化学的相性に基づくゾーニング、トレンチと貯留タンク |
| 監視 | 温度・湿度・ガス漏れのIoTセンサー、AI支援の危険検知、WMS |
| 投資額・取扱危険物の分類 | いずれも公表内容を確認できていない |
消火方式を微細水滴にしている点は、化学品倉庫の設計として理解しやすい。通常のスプリンクラーは大量の水を落とす。化学品倉庫でこれをやると、火は消えても水に溶けた化学品が床から流れ出し、二次被害が消火より大きくなることがある。
5〜10ミクロンという液滴は霧に近い粒径で、60〜80barで噴射すると表面積が大きいぶん気化しやすく、気化熱で周囲の熱を奪う。水の総量が少ないので、流出する汚染水も抑えられる。消火に使う水の量を減らすことが、化学品倉庫では被害の抑制につながるという関係だ。ただしウォーターミストも水系の消火設備である。水と反応する物質を扱う区画では、これとは別にガス系や乾燥粉末の設備が必要になる。この施設がそうした区画を持つかどうかは報道されていない。
IoTセンサーによる温度・湿度・ガス漏れの監視も、同じ方向の対策になる。化学品の事故は発火より先に、漏れ、揮発、反応熱の蓄積として現れることが多い。燃え始めてから消すより、温度の上がり方とガス濃度の変化を拾って人を入れないほうが被害が小さい。倉庫プロジェクトマネージャーのTrương Hoàng Sơn氏は「安全・効率・持続可能性の原則に基づいて設計・運営した」と述べ、ゼネラルディレクターのNguyễn Thành Nam氏は安全システムへの投資が同社の最大の強みになると説明している。
この倉庫の仕様を読むうえで、ベトナムの制度が2026年に大きく動いたことを押さえておきたい。会社側が着工の理由として説明しているのは市場需要への対応であり、法改正に合わせたという説明は出ていない。ただ、求められる設備の中身には制度が関わってくる。
まず化学品法(Luật Hóa chất、No.69/2025/QH15)が2026年1月1日に施行された。これに紐づく政令が3本出ており、24/2026/ND-CPが管理対象化学品のリストと規制範囲、25/2026/ND-CPが化学産業の育成と安全要件、26/2026/ND-CPが化学品に関する活動、製品中の有害化学品、新規化学品の届出を定めている。
実務に効くのは3本目だ。26/2026/ND-CPの第19条は、保管サービスの適格証明書(Giấy chứng nhận đủ điều kiện hoạt động dịch vụ tồn trữ hóa chất)が必要になる対象を「hóa chất có điều kiện, hóa chất cần kiểm soát đặc biệt」、すなわち条件付き化学品と特別管理を要する化学品と定めている。この規定は2026年7月1日からの適用とされている。
ここは誤解しやすいところだ。すべての化学品の保管に許可が要るわけではない。しかも官報に載った条文には免除の規定が置かれている。条件付き化学品・特別管理化学品であっても、混合物中の濃度が質量比0.1%未満であれば保管サービスの証明書は免除される(「có nồng độ dưới 0,1% (<0,1%) khối lượng của hỗn hợp chất」)。化学品の保管設備を含まない土地の賃貸だけを行う事業者も免除対象だ。自社の品目が許可の対象になるかは、区分と濃度の両方を条文に当てて確かめることになる。
手順としては2段だ。まず政令24/2026/ND-CPが定める管理対象化学品のリストで、自社品目が条件付き化学品・特別管理化学品に載るかを見る。次に政令26/2026/ND-CPの免除規定に当たらないか、混合物中の濃度で確認する。リストに名前があるだけで「許可が必要」と決めつけると不要な要件を自社に課すことになり、濃度が低いからと流すと混合物の分類を誤る。製品ごとにSDSの組成欄を突き合わせて判断するのが確実だ。
もう一つ、同じ政令に押さえておきたい規定がある。条件付き化学品を取引する事業者の要件として、自社で基準を満たす倉庫を持つか、保管サービスの適格証明書を持つ事業者から倉庫を借りるかのいずれかが求められている。特別管理化学品の取引でも同じ構えだ。
しかも省の人民委員会は、事業者に営業の適格証明書を出す際にその保管サービス利用契約を審査し、保管する化学品の規模・種類・保管場所の適合性を評価する。本社と倉庫が別の省にある場合は、省をまたいで書類の写しを回し、受け入れ側の省が9営業日以内に意見を返す手続きになっている。
つまり、許可を持つ倉庫との契約書は単なる物流の手配ではなく、自社がベトナムで化学品を売るための許可書類の一部になる。倉庫探しを物流部門だけに任せていると、許認可のスケジュールに間に合わないことがある。倉庫契約と営業許可の申請は、同じ線表に並べて管理したい。
もう一つ、技術規則の側も改正されている。危険化学品の生産・取引・使用・保管・輸送の安全に関する国家技術規則QCVN 05A:2020/BCTが、2024年10月10日付の通達19/2024/TT-BCTで改正された。改正は2025年4月15日に発効し、すでに操業している工場・倉庫には1年の移行期間が与えられて、2026年4月15日までの適合が求められた。
改正で追加された要件は具体的だ。液体の危険・腐食性・毒性化学品には環境への流出を防ぐ収集システム、液体および気体の毒性化学品には漏洩・流出の警報装置、固体の毒物には監視カメラの設置。火災・爆発時の個人用保護具の仕様も加わった。輸送関連は危険物運送の政令34/2024/ND-CPに合わせ、標識の様式が国際的な取り決めに沿う形に更新された。
SOTRANSの倉庫が備えている設備は、この改正内容と項目として対応している。トレンチと貯留タンクが収集システム、ガス漏れのIoTセンサーが警報装置にあたる。2025年10月の着工、2026年4月の適合期限、2026年7月の許可適用という時期は重なっているが、会社側がそれを着工理由として説明しているわけではない。
日本の化学・塗料・接着剤・コーティング材メーカーがベトナムに出るとき、工場より先に保管で詰まることがある。危険物に分類される品目は、消防の区画や漏洩の受けが取れていない一般の物流倉庫では受け入れてもらえない。該当区分であれば保管サービス側の許可も要る。逆に危険性の低い品目なら一般倉庫で済む場合もあるので、品目の分類を先に確定させるのが順番になる。
危険物に当たる品目をベトナムで扱う場合、取り得る形はおおむね次の3つになる。
どれを選ぶかは、取扱量と品目の危険性で決まる。少量多品種で危険性が中程度なら専用倉庫の委託が現実的だ。大量単品で生産に直結するなら自社敷地内のほうが総コストが下がる。上組が冷凍冷蔵倉庫を自前で建てた判断と同じ論点で、委託先の能力が自社の要件に届かない場合は自前で持つという選択肢も出てくる。
頭に入れておきたいのは、2026年7月からの許可適用で委託先の選択肢が絞られる可能性だ。適格証明書を取れない事業者が対象区分の受け入れをやめた場合、預け先は許可を取った事業者に寄る。許可事業者の数や稼働率は公表されていないので、実際に枠が足りなくなるかは分からない。ドンナイ省は南部の製造業の集積地で、コヒレントが工場を3万㎡追加したように外資の工場が増えている。工場が増えれば化学品の保管需要も増えるので、早めに預け先を押さえておく価値はある。
報道が需要分野として医薬と化粧品を挙げている点は、日本企業にとって手がかりになる。この2分野は原料の品質管理が厳しく、温度管理、ロットの追跡、汚染防止が求められる。この倉庫はWMSを導入していると報じられており、確認できるのは在庫・保管位置・移動の追跡までだ。ロット単位の管理や温度帯の指定にどこまで応じられるかは書かれていないので、自社の品目要件を並べて問い合わせることになる。
ベトナムではライオンがフンイエン省に錠剤工場を建てるなど、日系の医薬・日用品の現地生産が動いている。現地生産が増えれば、原料と添加剤を国内に在庫する必要が出てくる。原料に危険物や管理対象の化学品が含まれる場合、預け先の確保が立ち上げの工程に乗ってくる。
再生可能エネルギー向けを挙げている点も目を引く。蓄電池の電解液のように、危険物として輸送と保管に制限がかかる材料がこの分野には含まれる。ベトナムの再エネ案件に部材を納める計画があるなら、自社品目の分類と預け先の受け入れ可否を、見積りを出す段階で確認しておくと手戻りが減る。
ベトナムで化学品倉庫を探すときに確認したい項目を並べる。
| 確認項目 | 見るポイント |
|---|---|
| 保管サービスの適格証明書 | 自社品目が条件付き化学品・特別管理化学品で濃度0.1%以上なら、政令26/2026/ND-CPの保管サービス適格証明書を取得済みか。契約書は自社の営業許可申請にも使う |
| QCVN 05A改正への適合 | 通達19/2024/TT-BCTの要件(漏洩収集、漏洩警報、監視カメラ、保護具)を満たしているか。既存施設の期限は2026年4月15日 |
| 受け入れ可能な品目 | 自社品目のSDSを事前に提示し、区画と相性の観点で受け入れ可否の回答を取る |
| 消火方式 | 水をかけられない品目がある場合、ウォーターミストやガス系の設備があるか |
| 区画の空き | 相性ごとのゾーンで必要な区画に空きがあるか。倉庫全体の空きとは別物 |
とくに最後の項目は見落としやすい。化学品倉庫は区画単位で埋まるので、建物全体に余裕があっても、自社品目を置ける区画が満床なら預けられない。見積り段階で「どのゾーンに何パレット空いているか」を聞いておくと、後の手戻りが減る。
SOTRANSのドンナイ倉庫は、総面積26,400㎡のうち保管に使えるのが16,200㎡、収容19,500パレット。保管以外に4割を使い、消火をウォーターミストにし、IoTで温度とガスを監視する仕様は、2026年に切り替わったベトナムの化学品法令が求める要件と共通する設備を備えている。適合認定を取ったかどうかは公表されていない。化学品法No.69/2025/QH15が2026年1月1日施行、政令26/2026/ND-CPで条件付き化学品・特別管理化学品の保管サービスに適格証明書が要るようになり2026年7月1日から適用(混合物中の濃度0.1%未満は免除)、技術規則QCVN 05Aの改正適合期限が2026年4月15日。この3つが預け先選びの前提になる。手元でやることは3つ。ベトナムに化学品を持ち込む予定がある会社は、自社品目のSDSをベトナム語・英語で用意し、保管可否の照会を倉庫側に先に投げる。既存の委託先がある会社は、自社品目が許可対象区分に当たるかを政令24/2026/ND-CPのリストと0.1%の濃度基準で確認し、該当するなら委託先の適格証明書を書面で見せてもらう。契約書は自社の営業許可申請にも必要になる。自社敷地内に保管棟を建てる案と専用倉庫への委託案を、区画単位の空き状況を聞いたうえで費用比較する。