ポーランド沖のバルト海で建設が進む洋上風力発電所「Baltica 2」向けに、ベトナムで建造された洋上変電所4基が現地を離れた。PTSC Mechanical & Construction(PTSC M&C、ベトナム石油ガス技術サービス総公社PTSCの傘下)が9月12日にロードアウト完了とセイルアウェイの式典を開き、4基のうち2基はすでに欧州への航海に入り、残る2基はバージに積み終えて出港を待つ状態にある。変電所とモジュール支持架台を合わせた総重量は約16,000トンで、変電所は1基375MW。4基そろって1,500MW級の発電所の集電と送電を受け持つ。PetroTimesは冒頭で、ベトナムで製造した洋上風力構造物が欧州に届いた初の節目だと書いている。
式典は9月12日の午後、ホーチミン市のPTSCエネルギー産業・技術ロジスティクスセンターで開かれた。PetroTimesの記事によれば、Ørsted、Semco Maritime、PTSC、PTSC M&Cの各代表と、下請け・供給業者、プロジェクトチームが参加している。
進水させたのは変電所の上部構造4基とモジュール支持架台4基の計8体で、ロードアウトは43日間連続の作業だった。PTSC M&C社長(Giám đốc)のトー・ゴック・トゥー氏は、ブンタウでBaltica 2の洋上変電所4基の上部構造を完成させたことは重要な節目であり、PGE、Ørsted、Semco Maritime、PTSC M&Cの連携が機能した結果だと述べている。ØrstedのBaltica 2プロジェクトディレクター、ウルリク・ランゲ氏は、4基の変電所は案件の中でも複雑度の高い構成要素で、風車から電力を受け取って陸へ送るウィンドファームの「心臓」になると説明した。Semco Maritime取締役会メンバーのキース・テイラー氏は、4基のOSSを工程どおり同時に建造したことを評価できる成果だと述べた。式典ではØrstedがPTSCとSemco Maritimeに安全・衛生賞(Health and Safety Award)を渡している。
PetroTimesとThe Investorはいずれも、Baltica 2の容量を約1,500MW、構成を風車107基と洋上変電所4基、運転開始を2027年第4四半期としている。変電所は1基375MWで、風車が発電した電力を集めて陸へ送る役割だ。
Ørstedの2026年5月11日の発表では、風車はSiemens Gamesaの14-222で1基14MW、107基を据え付ける。107基×14MWは1,498MWで、変電所側の4基×375MW=1,500MWとほぼ一致する。約16,000トンという重量も変電所1基の数字ではなく、上部構造4基と支持架台4基を合わせた総量だ。Ørstedは同発表で、完成後の発電量がポーランドの約250万世帯分に相当するとしている。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 総容量 | 約1,500MW(1.5GW) |
| 事業主体 | ØrstedとPGEの50対50の合弁(Ørsted会社発表) |
| 位置 | ポーランド沿岸から約40kmのバルト海 |
| 風車 | Siemens Gamesa 14-222を107基(1基14MW/Ørsted発表) |
| 洋上変電所 | 4基、1基あたり375MW |
| 変電所+支持架台の総重量 | 約16,000トン(変電所4基+架台4基の合計) |
| EPC受注 | 2023年6月、Semco Maritime・PTSC M&C連合 |
| 最初の鋼材切断 | 2024年11月27日 |
| ロードアウト | 43日間連続、上部構造4基+支持架台4基の計8体 |
| 運転開始予定 | 2027年第4四半期 |
EPC契約は2023年6月、Semco MaritimeとPTSC M&Cの連合が受注した。Semco Maritimeの2023年6月13日の発表によれば、連合を率いるのは同社で、契約は設計・調達・施工・試運転を含む。連合内の分担もこの発表に書かれている。Semco Maritimeが高圧・中圧設備、SCADA、補機システムの設計・調達・据付を担い、PTSC M&Cがブンタウのヤードで4基の洋上変電所を製造する構成だ。同発表は主要な下請けとしてISC Consulting EngineersとHyundai Electricの2社を挙げている。
PetroTimesの記事では、PTSC M&Cの作業範囲を製造、据付の仕上げ、そしてベトナム国内での陸上試運転までとしている。発注者はØrstedとPGEで、Ørstedの2021年2月の会社発表によれば、Baltica 2とBaltica 3は両社が50対50で保有・運営する合弁事業だ。Semco Maritime自身の案件紹介ページは、この受注をポーランドでの2件目の洋上風力案件と記し、欧州とアジア太平洋の競合との競争、EUの調達規則の下での入札だったと書いている。同ページは連合の担当領域として、高圧・中圧に加えて低圧系、保護・制御、HVAC、消火、通信など12項目を挙げ、試運転は陸上・洋上の両方を含むと記している。契約に含まれるのは変電所4基とモジュール支持架台だ。
「初」の範囲はPetroTimesの記事の中で二通りに書かれている。冒頭では、ベトナムで製造した洋上風力構造物を欧州へ届けたのは初の節目だとし、末尾では、PTSC M&Cが手掛けた洋上風力構造物がベトナムから欧州へ輸出された初の案件と範囲を絞っている。トゥー社長の発言も自社の実績についての言い方だ。The Investorの9月23日の記事も同じ枠組みで、ベトナム製の洋上風力構造物が欧州案件に納入されたのは初と書いている。第三者機関がこれを確認したという記述は、いずれの発表にもない。
洋上変電所そのものが初というわけではない。Semco Maritimeの2025年3月11日の発表によると、同じSemco Maritime・PTSC M&C連合が台湾海峡のHai Long 2およびHai Long 3向けに洋上変電所2基を建造し、建造地はいずれもベトナム南部ブンタウのPTSC M&Cのヤードだった。Hai Long 2は2024年4月、Hai Long 3は2025年3月8日に出港している。今回の「初」がかかっているのは、洋上変電所を作ったこと自体ではなく、届け先が欧州であるという点だ。
PetroTimesの記事によると、PTSC M&Cは2024年11月27日の鋼材切断から4基を並行して進めた。この工程に合わせて、生産用地の造成と地盤の補強、資材置き場の配置見直し、設備系統の同期化を実施している。動員はピーク時に直接雇用が2,000人超、間接人員が約200人。
労働損失事故のない安全労働時間について、PetroTimes本文は2026年4月時点で500万時間、同記事内のトゥー社長発言は550万時間超としている。いずれも企業側の集計値だ。
ベトナムの製造基盤をどう使うかで、外資側が本国に残す工程は案件ごとに違う。オランダのアルミ艇メーカー、アルマックスがバクニン省で始めた合弁では、寸法どおりに切り出したアルミ部材を本国から送り、現地で組み立てる形を取っている(アルミ艇を現地組立で4割安──オランダ艇メーカーのベトナム合弁という型)。設計と切断という精度の要る工程は本国に残る。
Baltica 2では線の位置が違う。変電所4基と支持架台を合わせた約16,000トンの構造物の製造と、その陸上試運転までがベトナム側の範囲だ。この重量には高圧・中圧設備やSCADAも含まれ、その設計・調達・据付は欧州側のSemco Maritimeが担っている。重量物の建造と最終確認をアジアのヤードに置き、電気系の設計と調達を欧州側に残す構成で、2023年の入札が成立し、2026年9月に物が出た。名前が出ている主要な下請けはISC Consulting EngineersとHyundai Electricの2社である。
発注者が欧州の電力事業者で、EUの調達規則の下で入札が行われ、鋼構造の製造と陸上試運転がベトナムのヤードに出た。
ベトナム拠点の作業範囲に製造以外の機能を足す動きは、他業種でも進んでいる。時計バンド大手の日本精密はホーチミン市の既存工場に研究開発機能を足す準備室を2026年に置き、2027年の本格稼働を目指している(日本精密がベトナムを「開発する場所」に格上げする理由)。PTSC M&Cの場合、ベトナム側の範囲に陸上試運転が含まれている点が、製造だけを置く拠点との違いだ。地場企業側が発注適格の線をどこまで上げてきたかという流れは、サムスンとバクニン省の地場サプライヤー育成の動きでも扱っている(サムスンがバクニン地場調達をDXへ──日系部品はどう動く)。
Ørsted側は今回の協力がベトナムの洋上エンジニアリング能力を示したとし、今後も協力の機会を探りたいとの意向を示している。ベトナム語の原文では、ベトナムで製造した構成要素がベトナム国内の洋上風力案件にも使われることへの期待として書かれている。