ベトナムの税務当局Cục Thuế(税務局)が2026年10月9日、商工省の電子商取引・デジタル経済局とTikTok Shopベトナム有限会社の2者に宛てた公文を出した。内容は、ECプラットフォーム上でデジタル情報コンテンツを提供したりアフィリエイト(tiếp thị liên kết)で報酬を受け取る個人の納税義務をどう整理するか、である。報酬が給与なのか事業所得なのかで扱いが分かれ、事業所得と判定された場合、税務局はデジタル情報コンテンツと同じ個人所得税5%の区分に当たると整理した。ただしこの5%は売上規模によって効き方が変わる。そしてオンライン注文機能と決済機能の両方を備えるプラットフォーム運営者には、源泉徴収と代理申告・代理納付の義務が生じる。
対越進出や現地調達を進める日本企業にとって、これは税務ニュースというより調達・販促の契約の話だ。KOLやアフィリエイターへの報酬を「成果に対する手数料」として設計している会社は、手取り額・請求書の有無・支払方法の3点を同時に見直す必要が出てくる。
公文は、電子商取引税務支署(Chi cục Thuế Thương mại điện tử)が「ECプラットフォーム上のアフィリエイト活動から得た所得の申告・源泉徴収・納付」について指針を求める要請を受け取ったことを受けて発出された。つまり事業者側からの照会に対する回答であり、新しい税を作ったものではない。既存の個人所得税法の条文をアフィリエイト報酬にどう当てはめるかを示した文書である。
税務局の整理は2系統に分かれる。労働法に基づく雇用契約または労働協約を結んだ組織・個人から受け取る報酬は「給与・賃金所得」として扱われ、支払側が源泉徴収・申告・納付の責任を負う。一方、デジタルコンテンツの制作、商品のプロモーション、ECプラットフォームやデジタルプラットフォーム上でのアフィリエイトを事業活動として行い、プラットフォームまたはブランドから報酬を受け取る場合は「事業所得」になる。この場合は個人事業者・家族経営事業者(hộ kinh doanh、cá nhân kinh doanh)として、施行令68/2026/NĐ-CPおよび141/2026/NĐ-CPに従って税務登録・申告・納税を行う。
税率の根拠として税務局が挙げたのは、電子商取引法の定義だ。同法はECにおけるアフィリエイトサービスを「アクセスリンク、紹介コード、またはこれに類する方法を通じて、ECプラットフォームに連結された形で商品・サービスを広告すること」と定めている。したがってこの活動は、娯楽・電子ゲーム・デジタル映像・デジタル写真・デジタル音楽・デジタル広告といったデジタル情報コンテンツの提供と同じ区分に入り、個人所得税法109/2025/QH15 第7条3項đ号の税率5%が適用される、という組み立てになっている。
実務でまず効くのは、この2系統の切り分けである。給与所得になれば累進税率表が適用され、基礎控除や扶養控除が使える代わりに社会保険料の扱いも絡む。事業所得になれば控除の枠組みは別で、売上規模に応じた税率が効く。
ここを曖昧にしたままインフルエンサーと「月額固定+成果報酬」の混合契約を結ぶと、固定部分が給与と見なされる余地が残る。報酬の名目ではなく、契約形態と実態で判定されるという点は押さえておきたい。ベトナムではKOL・KOCが改正広告法(2026年1月施行)で広告主体として法的に位置づけられており、KOL・KOCを「売り手」と法的認定した改正広告法の整理と今回の納税義務は、同じ人物に対して別の法律から降りてくる義務として重なる。広告主体としての検証・表示義務と、事業者としての登録・納税義務を、1本の契約書の中で分けて書いておく必要がある。
5%という数字だけを見ると重く感じるが、個人所得税法109/2025/QH15 第7条の条文を読むと構造は3段に割れている。年間売上5億ドン以下の個人事業者は個人所得税を納めない。5億ドンを超え30億ドンまでの個人は、経費控除後の所得に15%を課す方式と、5億ドンの超過分の売上に税率を掛ける方式を選択できる。この選択方式でデジタル情報コンテンツ・デジタル広告の区分に当たるのが5%である。30億ドンを超えると選択権は消え、経費控除後の所得に17%(500億ドンを超えると20%)が課される。
| 個人の年間売上 | 課税方式 | 税率 | 円換算の目安 |
|---|---|---|---|
| 5億ドン以下 | 個人所得税の納付義務なし | — | 約305万円以下 |
| 5億ドン超〜30億ドン | ①経費控除後の所得に課税/②5億ドン超過分の売上に課税(選択可) | ①15%/②5%(デジタル情報コンテンツ・デジタル広告区分) | 約305万〜1,830万円 |
| 30億ドン超〜500億ドン | 経費控除後の所得に課税(選択権なし) | 17% | 約1,830万〜3億500万円 |
| 500億ドン超 | 経費控除後の所得に課税 | 20% | 約3億500万円超 |
円換算は1円=164ドン(2026年10月時点)で計算した。この構造を具体的な金額に落とすと、受け手の実効負担はかなり違って見える。年間アフィリエイト報酬が8億ドン(約488万円)のマイクロインフルエンサーが選択方式を採ると、課税対象は5億ドンの超過分である3億ドン(約183万円)、税額は1,500万ドン(約9万円)。報酬総額に対する実効負担は1.9%にとどまる。
一方で30億ドンの手前と後ろには段差がある。30億ドンちょうどまでなら選択方式で25億ドン×5%=1億2,500万ドン(約76万円、実効4.2%)で済むが、30億ドンを超えた時点で売上課税の選択肢が消え、経費控除後の所得に17%が掛かる。アフィリエイトは原価がほぼ発生しない業態なので、控除できる経費が薄い。トップKOLほどこの段差を強く受ける設計になっている。
プラットフォーム側の義務について、税務局は施行令252/2026 第43条を根拠に説明している。TikTok Shopがオンライン注文機能と決済機能を備えたECプラットフォームの運営者である場合、同社はプラットフォーム上で事業を行う個人事業者・家族経営事業者について、税を源泉徴収し、徴収した税額を代理で申告・納付する責任を負う。
ここは条件節で書かれている点に注意したい。公文は「TikTok Shopが両機能を備えた運営者である場合」という前提のもとで義務を示しており、同社がその要件を満たすと断定したわけではない。施行令252/2026 第43条1項の立て方からすると、注文機能と決済機能を同時に持たないプラットフォームはこの仕組みの対象外で、その場合は売り手自身が申告・納付することになる。TikTokはベトナムで決済サービスの整備方針を示しているが、TikTok Shopの年間流通額とTikTok Payment構想を扱った既報の時点でも稼働日は確定していない。決済機能をどう持つかという事業判断が、そのまま源泉徴収義務の有無に直結する構造になっている。
施行令252/2026は2026年7月1日施行で、電子商取引法122/2025/QH15と税務管理法108/2025/QH15も同じ日に動き出している。ただし個人所得税法109/2025/QH15だけは第29条で扱いが分かれていて、1項が7月1日施行とする一方、2項は「居住者個人の事業所得および給与・賃金所得に関する規定は2026年の課税期間から適用する」と定めている。アフィリエイト報酬は事業所得なので、5億・30億ドンのラインは7月以降の分だけを数えるのではなく、暦年2026年の通年で判定される。7月を起点に数えると判定を外す。KPMGベトナムの解説によれば、源泉徴収の時点は「支払時点、または取引の成立確認と入金受領の時点」とされる。プラットフォームが引いた後の金額が振り込まれるため、アフィリエイター側の体感は「報酬が減った」という形で現れる。
公文は法人税側の証憑要件にも踏み込んでいる。個人事業者・家族経営事業者からアフィリエイトサービスを受ける企業の場合、相手の年間売上が10億ドン(約610万円)を超えるなら、相手は請求書(hóa đơn)の使用登録をしなければならない。企業はその請求書を法人税の損金算入の証憑として使う。相手の売上が付加価値税の課税ラインを下回る場合は、会計・請求書・証憑に関する法令に沿った支払証憑に加えて、法定代表者または委任を受けた者が署名して責任を負う購入明細表(bảng kê)を揃える必要がある。
さらに、同一の個人事業者に対する1日あたりの商品・サービス購入額が500万ドン(約3万円)以上になる取引は、非現金決済で行わなければならない。少額の成果報酬を現金でまとめて渡す運用は、この基準で引っかかる。
| 確認項目 | なぜ必要か | 確認の方法 |
|---|---|---|
| 相手と雇用契約・労働協約を結んでいるか | 給与所得と事業所得のどちらに振られるかが決まる | 契約書の種類と、指揮命令・就業時間の実態を突き合わせる |
| 相手の年間売上が10億ドンを超えるか | 超える相手は請求書の使用登録が必要になる | 登録状況と発行可能な請求書の様式を事前に確認する |
| 相手が付加価値税の課税ライン未満か | 支払証憑+購入明細表の署名が損金算入の条件になる | 明細表の様式と署名権者を社内で先に決めておく |
| 1日あたりの支払いが500万ドン以上か | その水準から非現金決済が義務になる | 支払サイクルを銀行振込に統一し、現金払いを止める |
| プラットフォーム経由の販売か | 電子請求書の発行に必要な情報を運営者から取れる | 購入者情報・取引情報・引渡時点・完了ステータスの提供を請求する(施行令254/2026) |
ベトナムのECはアフィリエイト経由の比重が高い。Lazadaが自社公表した9.9セールの数字では、ベトナムのプラットフォーム全体の流通額のうち45%がアフィリエイト経由だった。Lazada 9.9でアフィリエイト経由が流通額の45%を占めた件は自社発表値で第三者測定ではないが、販促の主要チャネルがアフィリエイトに寄っている実感とは合う。
この比率の市場で報酬の税務扱いが変わると、影響は3方向に出る。第1に、アフィリエイター側の手取りが減るぶん、同じ成果を出してもらうための報酬率を引き上げる圧力がかかる。第2に、年間5億ドンを境に納税義務が発生するため、1人に大きく依存する設計より、報酬が分散する多数のマイクロ層を使う設計が税務上は軽くなる。第3に、請求書を発行できる相手かどうかで、日本側の損金算入の手間が変わる。発注先リストを「請求書登録済み/未登録」で二分して管理するだけでも、経理の差し戻しは減る。
VCCIが指摘した「税法と専門分野の法令の不整合」は、この件にそのまま当てはまる。今回の公文は、個人所得税の税率区分を決める根拠として電子商取引法のアフィリエイト定義を引いている。つまり電子商取引法側の定義が動けば、税率区分の当てはめも動く余地がある。契約書に税率を固定値で書き込むより、「法令に基づく税額を控除した後の純額を支払う」という書き方で逃げ道を作っておくほうが安全だ。
今回の公文が扱っているのは個人所得税である。自社の報酬設計に落とすときは、個人所得税だけで完結する話ではない点を前提にして、現地の税務アドバイザーに確認する順番で進めたい。
やることは3つに絞れる。1つ目は、現地のKOL・アフィリエイター契約を棚卸しして、雇用契約型と業務委託型に分類し直すこと。混在している契約があれば、固定報酬と成果報酬の条項を分離する。2つ目は、支払先ごとに年間報酬の見込み額を出し、5億ドン・10億ドン・30億ドンの3本のラインとの位置関係を把握すること。10億ドンを超える相手には請求書の使用登録状況を確認する。3つ目は、支払方法を非現金に統一し、1日500万ドン以上の現金払いを運用から外すこと。
プラットフォーム側が源泉徴収に回るかどうかは、注文機能と決済機能をどう持つかで決まる。TikTok Shopを使って販促している企業は、報酬の振込明細に源泉徴収額の記載が現れるかを毎月確認し、現れた時点で報酬テーブルを見直す運用にしておくと、手取りの目減りをめぐる現地パートナーとの交渉を先回りできる。制度の全体像は7月1日施行の新EC法で変わった売り手認証とプラットフォーム義務の整理と合わせて読むと、EC法・広告法・税法の3層がどう重なっているかが見える。