インドでMGブランドを展開するJSW MGモーター・インディアが、高級EVのサイバースターとM9に、電池を分離課金する「BaaS(バッテリー・アズ・ア・サービス)」を導入した。車両価格から電池分を切り出し、走った距離に応じて課金する仕組みだ。初期購入費を1割ほど下げるこの設計は、EVの価格をどう見せるかという問いに一つの答えを出す。日本の自動車・電池メーカーが印EV市場の値付けを読むうえで、押さえておきたい実例になる。
Autocar India(2026年9月17日)によると、MGはサイバースターとM9でBaaSを選べるようにした。サイバースターは通常価格825万ルピー(82.50 lakh、約1,370万円)に対し、BaaS適用時は724.9万ルピー(72.49 lakh、約1,200万円)+走行1kmあたり8ルピー(約13円)。M9は通常価格799.5万ルピー(79.95 lakh、約1,330万円)に対し、BaaS時は699.9万ルピー(69.99 lakh、約1,160万円)+1kmあたり8ルピー。初期費用はサイバースターで100.1万ルピー(約166万円)、M9で99.5万ルピー(約165万円)下がる(2026年9月時点、₹1≈¥1.66換算)。車両の機械的な仕様変更は伴わない。
EVの価格を押し上げている最大要因は電池だ。サイバースターは77kWh(航続580km)、M9は90kWhの電池を積む。BaaSはこの電池分を車両本体価格から切り離し、利用に応じた月々の支払いに回す。買い切りの初期負担を下げる代わりに、走るほど費用がかさむ設計で、走行距離が読める使い方ほど得失が見えやすい。MGはこれらを上位販売網「セレクト」で扱っており、高価格帯EVの入口を広げる狙いがうかがえる。
注目すべきは、車両そのものは安くなっていない点だ。通常価格とBaaS価格の差(約100万ルピー)は消えたのではなく、走行距離あたり8ルピーという継続課金に置き換わっている。つまりこれは値引きではなく「初期費用と継続費用の配分の付け替え」であり、月々の支払いに慣れたインドの消費者心理に合わせた見せ方だ。年間走行距離が短ければBaaSが有利、長距離を走るほど買い切りが有利という損益分岐が生まれ、購入時の意思決定を「総額」から「月々」へと移す効果を持つ。
報道が伝えるのはMG側の設計内容と価格が中心で、販売現場や第三者の評価を断定できる情報は確認できなかった。Autocar Indiaは、BaaSがサイバースターの初期費用を100.1万ルピー、M9を99.5万ルピー引き下げる一方、1kmあたり8ルピーの電池レンタル料を求めると報じている。走行距離に連動する課金モデルであることは明確に伝えられており、ここではその事実関係にとどめる。
電池を車両から切り離す発想は、電池そのものの供給・認証・回収を握る側に主導権を渡す。印国内での電池セル認証が進む動きはオラ電動の自社電池がインド初のBIS認証、日系勢の対印戦略を問う、使用済み電池から金属を回収する流れは印で「都市鉱山」始動、日系の電池金属調達はどう変わるかが詳しい。二輪では現地勢の量産力に日本勢が押される場面もあり、インドEVスクーター戦争で日本勢3社が完敗は電動化の価格・量産の壁を突きつける。電池を売り切るのか、貸すのか、回収まで担うのか——ビジネスモデルの選択が競争力を左右する。
走行距離課金は、車両販売とアフター収益の境目を溶かす。現地資源や現地事情に合わせて仕組みを作る発想は牛糞がスズキの燃料に。インド進出は土着資源で勝つにも通じ、日本勢が印で戦うには「製品の性能」だけでなく「支払いと運用の設計」まで踏み込む必要がある。
MGのBaaSは、電池を月額に切り出すことで初期費用を約100万ルピー下げつつ、走行1kmあたり8ルピーの継続課金に置き換えた。値引きではなく支払いの形の変更だ。次アクションとして、印EVを検討する日本の車両・電池メーカーは、自社商品の電池コストと想定走行距離から「買い切りとBaaSの損益分岐距離」を試算し、どの顧客層にどちらが刺さるかを社内で切り分けておきたい。価格表を作る前に、支払いモデルの設計から議論を始めるのが近道だ。