オラ電動の自社電池がインド初のBIS認証、日系勢の対印戦略を問う

インドの二輪EV最大手オラ・エレクトリック(Ola Electric)の電池子会社オラ・セル・テクノロジーズが2026年6月23日、自社開発したLFP(リン酸鉄リチウム)「46100」円筒形セルで、インド政府規格局(BIS)の認証を取得したと公表しました。同社は「自社開発セルでBIS適合を得たインド企業として初」と位置づけています。インド国内で完結する電池の量産に一歩近づいた格好です。

この一報は、インド向けに電池や正負極材、セパレータ、EV部品を供給する、あるいは供給を狙う日系メーカーにとって他人事ではありません。インドの電池サプライチェーンは現在ほぼ全量を輸入、それも中国に依存しています。そこへ「現地企業が自前でセルを作り、規格認証まで通した」という事実が加わると、日系サプライヤーが描いてきた「完成セルをインドに売る」モデルと「現地でセル生産を立ち上げる動きに部材で食い込む」モデルのどちらに重心を置くべきか、という判断が一段と切実になります。本稿では、起点となったニュースを整理したうえで、日本企業が取るべき具体的な一手を考えます。

目次

起点ニュース:LFP 46100セルがBIS認証を取得

公表内容を事実関係に絞って整理します。認証を取得したのはオラ・セル・テクノロジーズ(オラ・エレクトリックの完全子会社)が自社開発したLFP 46100セルです。報道ベースで確認できる仕様は、エネルギー密度が170Wh/kg超、設計上の充放電サイクルが最大4,000回まで、というもの。EVと定置用蓄電(ESS)の両方を想定した汎用セルと説明されています。

認証は、IS 16046(Part 2):2018/IEC 62133-2:2017に基づくBIS認証で、加えてIS 16893(Part 2・3)やUN 38.3にも適合するとしています。生産面では6GWh規模のギガファクトリーの設備設置が「ほぼ完了」しており、商用化はFY27(2026年度)第1四半期末を見込むとされています。

この46100セルは、同社がすでに手がけてきたNMC(ニッケル・マンガン・コバルト系)の「4680 Bharat Cell」に続く第二の自社セルにあたります。NMCとLFPを「46シリーズ」という共通の外形アーキテクチャ上で展開し、用途に応じて化学組成を使い分ける、という設計思想が読み取れます。

背景:オラ・エレクトリックとインドの電池国産化政策

オラ・エレクトリックは、インドの電動二輪市場で大きなシェアを握ってきた新興メーカーです。スクーターの販売だけでなく、電池セルの内製化を経営の柱に据えてきた点が、他の完成車メーカーと一線を画します。家庭用蓄電システム「Ola शक्ति(シャクティ)」を自社セルで構成するなど、車載とエネルギー貯蔵をセル開発で串刺しにする戦略を打ち出してきました。

BIS認証は、インド国内で製品を流通・販売するために必要な強制規格適合の枠組みです。電池のように安全性が問われる製品では、この認証の有無が事実上の市場参入条件になります。逆に言えば、現地企業が自社セルでこの関門を通したことは、輸入セルに頼らずインド国内で電池を回せる体制づくりが進んでいることを示します。

政策面では、インドはACC(先進化学電池)を対象としたPLI(生産連動型優遇)制度を2021年に立ち上げ、輸入依存からの脱却を国家目標に掲げてきました。ところが進捗は芳しくありません。あるエネルギー分野の調査機関の集計では、2025年10月時点で稼働済みのセル製造能力は目標50GWhに対しわずか1.4GWh、達成率は2.8%にとどまり、しかもその全量がオラ・エレクトリックによるものとされています。インドの電池セル輸入依存度は依然として約100%に近く、その大半を中国が占めるという構図が続いています。中国人技術者のビザ承認の遅れが設備立ち上げの足かせになっている、との指摘も出ています。

数字で見る現在地

検証できた数値だけを並べると、現在地が見えてきます。

  • セル仕様:LFP 46100、エネルギー密度170Wh/kg超、設計サイクル最大4,000回(いずれも報道ベース)
  • ギガファクトリー:6GWh規模、設備設置ほぼ完了、商用化はFY27第1四半期末見込み
  • ACC PLI制度全体:目標50GWhに対し稼働1.4GWh(2025年10月時点、達成率2.8%)
  • インドのセル輸入依存度:ほぼ全量に近い(大半が中国)

注目すべきは、PLI制度全体で唯一とされる稼働実績の担い手がオラだという点です。国家目標が大きく未達であるほど、最初に量産軌道へ乗せた企業の存在感は相対的に増します。

業界の反応

公表後、インドの製造業界からは複数の見方が伝わってきます(趣旨を要約、発言者は匿名)。

第一に、自社開発セルでの規格適合は象徴的な前進だ、という評価です。これまでインドのセル製造は組み立て中心で、設計から認証まで自前でやり切った例は乏しかった、という受け止めがあります。

第二に、慎重な見方もあります。認証取得と量産の安定稼働は別物であり、歩留まりやコスト、原材料調達まで含めて「輸入より安く作れる」段階に達してこそ意味がある、という指摘です。設備の据え付けが終わっても、立ち上げには時間がかかるという経験則を踏まえた声と言えます。

第三に、部材・装置を供給する側からは、現地でのセル生産が増えるほど、正負極材やセパレータ、製造装置の現地調達ニーズが立ち上がるはずだ、という期待が出ています。完成セルの輸出余地が縮む一方で、上流の部材・装置に商機が移るという見立てです。

日本企業への示唆:「セルを売る」から「内製化を支える」へ

ここからが本題です。インドの電池内製化が一歩進んだ事実を、日系の電池・部材・EV部品メーカーはどう読むべきか。機会と脅威の両面で整理します。

脅威の側面として、まず「完成セルをインドに輸出する」というシナリオの賞味期限が見えてきたことが挙げられます。オラのように現地で設計・量産・認証まで内製する企業が出てくると、政策的にも輸入セルは割高・割不利になっていく方向です。PLI制度は国産化を優遇する仕組みであり、現地生産が軌道に乗るほど、輸入完成セルの価格・調達面での優位は削られます。完成セルの単純輸出を主軸に据えている日系メーカーは、5年スパンでの戦略見直しを迫られる可能性があります。

一方で機会の側面は、むしろここに集約されます。インドの弱点は、セルの組み立てそのものより、その手前にある「材料・装置・プロセス技術」にあるからです。正負極材、電解液、セパレータといった部材、製造装置、品質管理・安全評価のノウハウ。これらは輸入依存度約100%という数字が示す通り、現地に厚みがありません。オラが量産を立ち上げ、後続のインド企業がそれに続くほど、上流の部材・装置・技術支援への需要は確実に増えます。「インドにセルを売る」のではなく「インドのセル内製化を支える側に回る」という発想の転換が、日系勢にとっての現実的な勝ち筋になります。

具体的な一手として、まず取り組むべきは、インドでセル生産の意思を明確にしている事業者を名指しで特定し、自社の部材・装置のどの工程に食い込めるかを工程図に落とし込む作業です。オラ・セル・テクノロジーズはその筆頭候補ですが、PLI制度の採択企業や、二輪・三輪EVメーカーで内製化を探る先も対象になります。漠然と「インド市場」を狙うのではなく、「このセル工場のこの工程に、自社のこの部材を入れる」というレベルまで一社単位で詰めることが出発点です。中国人技術者のビザ遅延が現地の弱点になっているなら、日本側が立ち上げ支援・プロセス指導までパッケージで提供する、という差別化も検討に値します。

市場への波及

この動きは電池単体にとどまりません。LFPセルはコストとサイクル寿命に強みがあり、EVだけでなく定置用蓄電(ESS)にも向きます。オラが車載と家庭用蓄電を同じセルで串刺しにしている点は、インドの再生可能エネルギー拡大とも結びつきます。電力インフラが不安定な地域での蓄電需要を、国産セルで取りに行く構図です。

日系メーカーにとっては、車載EV向けだけでなく、定置用蓄電という出口も視野に入れた部材・装置の提案が描けます。用途が広がるほど、上流の部材需要も裾野が広がります。EV部品メーカーであれば、電池パックの周辺(BMS、熱管理、筐体)といった、セルそのものではない領域での現地参入余地も検討対象になります。

実用情報:今、確認しておくべきこと

対印戦略を具体化するうえで、押さえておきたい実務ポイントを挙げます。

第一に、BIS認証とPLI制度の最新の採択・進捗状況を一次情報で追うこと。制度は未達が続いており、要件や対象が見直される可能性があります。第二に、自社の取扱製品(部材・装置・技術)が、インドのセル生産のどの工程に対応するかを棚卸ししておくこと。第三に、輸出完成品を主軸にしている場合、現地生産シフトに備えた供給形態の選択肢(部材供給・合弁・技術ライセンス)を早めに検討すること。いずれも、相手を一社単位で特定したうえで、自社の打ち手を一つに絞り込む姿勢が前提になります。

まとめ

オラ・エレクトリックの子会社がLFP 46100セルでインド企業初のBIS認証を取得した一件は、単発のニュースではなく、インドの電池サプライチェーンが「輸入」から「内製」へ重心を移し始めた兆候として読むべきです。日系の電池・部材・EV部品メーカーにとって、完成セルの輸出というシナリオは縮小に向かう一方、内製化を支える部材・装置・技術支援という領域は確実に広がります。「インドにセルを売る」のではなく「インドのセル内製化に食い込む」へ。狙う相手を一社単位で特定し、自社の打ち手を一工程に絞り込むことが、これからの対印戦略の起点になります。

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この記事を書いた人

大手総合商社にて約8年間、グループ子会社の経営改革や出資先スタートアップとのJV設立を担当。その後インド駐在として、日系大手飲食チェーンのインド展開に従事し、現地に合わせたメニュー開発やマーケティングを推進。

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