国営ペトロベトナム傘下のPV Power、韓国のSK Innovation、ゲアン製糖(Nghe An Sugar、NASU)の3社が、2026年9月14日、北中部ゲアン省に1,500MWのLNG火力を開発する合弁会社「Quynh Lap LNG Power JSC」を設立した。総投資額は59兆3,700億ドン超、9月25日のレートで約22.9億ドル、日本円で約3,630億円にあたる。
日本企業にとっての論点は、電気と冷熱を大量に使う工場の置き場所が、ハノイ周辺とホーチミン周辺という二極の外に一つ増えるかどうかだ。決まった部分と決まっていない部分を数字で分けて整理する。
事業会社の定款資本は1兆5,700億ドン。ゲアン省に本店を置きガス火力発電を営む。9月18日に初回の株主総会を開いて6人の取締役を選び、会長にはPV Power副社長のNguyen Duy Giang氏が就いた。
| 株主 | 比率 | 払込額(ドン) | ドル換算 | 円換算 |
|---|---|---|---|---|
| PV Power | 51% | 8,006億ドン超 | 約3,085万ドル | 約49億円 |
| SK Innovation | 34% | 5,338億ドン弱 | 約2,057万ドル | 約33億円 |
| ゲアン製糖(NASU) | 15% | 2,355億ドン弱 | 約908万ドル | 約14億円 |
| 合計(定款資本) | 100% | 1兆5,700億ドン | 約6,050万ドル | 約96億円 |
換算は2026年9月25日時点の1ドル=25,950.54ドン、1ドル=158.69円で計算した。1,000ドンが約6.11円と覚えると以降も追いやすい。
Giang会長は、3社が2026年2月から設立手続きを進めてきたと説明している。新会社がこれから当局や協力先と進める作業として挙がっているのは、許認可手続き、施工業者の選定、資金調達の組成、各種交渉、そして電力購入契約(PPA)である。発電した電気を誰がいくらで買うかは、この時点ではまだ交渉のリストの中にある。工期と採算を左右する部分が未確定のまま会社だけが先に立ち上がった形で、ここを決着済みと読むと判断を誤る。
報道のたびにドル表記が動いてきた。2026年2月の投資家選定時は22.9億ドル、5月の技術インフラ着工時は22.5億ドル、6月は22.6億ドル、9月の合弁設立時は22.7億ドル。金額が膨らんだのではなく、ドン相場と各時点の端数処理が違うためで、ドン建ての値は一貫して59兆3,700億ドン超のままだ。9月の記事が使った「59兆ドン」は切り捨て表記である。社内資料に転記するなら、ドル値ではなくドン建ての確定値を起点に自社の為替で割り直したほうがぶれない。
内訳は自己資本が14兆8,400億ドン超、残る44兆5,300億ドン弱を外部から調達する設計で、比率は自己資本25%・外部調達75%になる。
| 区分 | ドン | ドル換算 | 円換算 | 構成比 |
|---|---|---|---|---|
| 自己資本 | 14兆8,400億ドン超 | 約5.72億ドル | 約907億円 | 25% |
| 外部調達 | 44兆5,300億ドン弱 | 約17.2億ドル | 約2,723億円 | 75% |
| 総投資 | 59兆3,700億ドン超 | 約22.9億ドル | 約3,630億円 | 100% |
目を引くのは、今回払い込まれた定款資本1兆5,700億ドンが必要自己資本の約11%にとどまる点だ。残りは増資か追加払込で積み上がる。進捗を追うなら、定款資本の増額と44兆5,300億ドン弱の外部調達の組成時期を見るのが早い。
設備は750MWのコンバインドサイクルガスタービン2系列で計1,500MW。付帯して約25万立方メートルのLNG貯蔵設備と再ガス化システム、ゲアン港のドンホイ港エリア内に15万トン級のLNG船を受け入れる専用港が付く。年間のLNG輸入需要は約115万トンと見込まれている。
専用港が付く意味は発電だけに留まらない。大型船が着けるバースと再ガス化設備が同じ敷地にあれば、周辺の工場は電気に加えて気化時の冷熱の受け皿にもなり得る。冷凍・冷蔵は電力単価に最も敏感な設備で、対越食品輸出で自前倉庫を建てる動きは上組が冷凍冷蔵倉庫を自前で建てる──対越食品輸出の追い風で扱った。電源が近いことの効き方が違ってくる。
ゲアン省側の説明では、稼働後にこの発電所が省の予算にもたらす税収は年6兆〜7兆ドン、円で約367億〜428億円とされ、省最大級の歳入源になる見込みだ。同省で過去最大のエネルギー投資でもある。省の将来の歳入を左右する案件であることは、手続きのスピードを読む材料になる。実際に2026年6月、省人民委員会は投資家側に手続きの加速を指示し、主観的な要因による遅延は投資家の責任になると明記したうえで7月2日までの進捗報告を求めた。
ベトナムに製造拠点を置く日本企業の投資先は、実務上ハノイ周辺(バクニン、フンイエン、フート)とホーチミン周辺(ドンナイ、ロンアン)に寄ってきた。大口の電源と大型船が着く港を同じ圏内に置けるかどうかは、工場の固定費と物流費を長期に左右する条件になる。ゲアン省でその2つが同じ場所に揃うのは2030年の予定で、日本のメイコー、フート省に5億ドルの電子回路工場を着工──AI・航空宇宙向けで在ベトナム6拠点目、2,000人雇用へのような規模の判断をこれから控える企業にとっては、いま比較表に列を足しておく段階だ。
ゲアン省は更地ではない。日本の矢橋が同省で炭酸カルシウム(GCC)工場を稼働させており、その影響は矢橋のGCC工場が稼働、日系加工の現地調達はどう変わるかで整理した。同省は面積16,490平方キロメートル超とベトナム最大の省で、人口は約380万人。2026年第1四半期の登録FDI額ではタイグエン省、ホーチミン市に次ぐ全国3位に入り、順位を押し上げたのはこのLNG案件とWHA工業団地の拡張だと説明されている。
工期の表記は揺れている。9月の記事は「2026〜2030年に完成・運転」、2月と5月の記事は「2025〜2030年」と書き、6月の省の指示は「2030年までの商業運転」の維持を求めた。共通するのは2030年という到達点で、そこまでの道のりは固まっていない。
6月時点では複数の項目が予定から遅れていた。合弁設立は当初「2026年第3四半期の前半」に完了する見込みとされていたが、実際の設立は9月14日で四半期の終盤にずれ込んだ。1/500の詳細建設計画とフィージビリティスタディも、測量・計測・試験・設計の段階を踏む必要から6月末までの完了は難しいとされ、コンサルタントが現地調査やデータ収集に着手した段階だった。
追うべきはプロジェクト契約の締結、1/500詳細建設計画の承認、FSの完了の3つで、これが揃う前は本体工事の工程が動かない。2026年5月18日に行われたのは技術インフラの着工式であり、発電所本体の着工ではない点も区別しておきたい。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 事業会社 | Quynh Lap LNG Power JSC(2026年9月14日設立) |
| 株主 | PV Power 51%/SK Innovation 34%/NASU 15% |
| 所在地 | ゲアン省タンマイ坊(Tan Mai ward) |
| 発電規模 | 1,500MW(750MWのコンバインドサイクル2系列) |
| LNG設備 | 約25万立方メートルの貯蔵タンクと再ガス化設備 |
| 専用港 | ゲアン港ドンホイ港エリア内。15万トン級LNG船を受入 |
| LNG輸入量 | 年約115万トン(見込み) |
| 用地 | 計約152.8ha(土地57.2ha+海域約95.5ha。9月記事の約60ha+100haは丸め値) |
| 総投資 | 59兆3,700億ドン超(約22.9億ドル/約3,630億円) |
| 技術インフラ着工 | 2026年5月18日 |
| 運転目標 | 2030年までの商業運転 |
| 位置づけ | 電力開発計画8(PDP VIII)の重点電源 |
次の一手として現実的なのは、ゲアン省の視察を単独で組まず、WHA工業団地1・2期とドンホイ港エリアを同じ日程で回ることだ。評価軸は今の団地の条件ではなく、2030年に電源と港が揃ったときの条件にある。港湾までの距離、変電設備までの引き込み、2030年時点で必要な受電容量を一枚に並べれば、社内の議論が具体になる。いま決まったのは会社の器と出資比率、総額の枠組みまでだ。