ディアジオ・インディア傘下のマクダウェルズ・ソーダが2026年9月17日、長く続けてきた「ヤーリー(友情)」ブランドプラットフォームを『Yaari Ki Nayi Vibe』として刷新した。俳優カルティク・アーリヤンを引き続き顔に据え、缶のデザインとブランド音楽を一新しながら、友情という軸そのものは残す構成にした。育てたブランド資産をどこまで残しどこを入れ替えるかという判断は、インドで愛着の蓄積が浅い日本の飲料・食品ブランドにとって、更新の順序を学べる材料になる。
マクダウェルズ・ソーダ(ディアジオ・インディア)が9月17日に公開したのは、既存の「ヤーリー」プラットフォームを土台にした新章『Yaari Ki Nayi Vibe』だ。缶はオレンジ・ティール・シルバーを組み合わせたプレミアム基調に描き替え、ブランドの音楽フックである「Aao Twist Karein」をアレンジし直して再登場させた。長年のブランドアンバサダーであるカルティク・アーリヤンが出演するキャンペーン動画を軸に、友人同士の即興的なやりとりや共有体験に焦点を移した。制作を担ったのは代理店のサーチ・アンド・サーチ・インディアで、ディアジオ・インディアでマーケティング兼カテゴリー責任者を務めるアーナンディタ・ダッタ氏と、同代理店の最高クリエイティブ責任者カルティク・スメタチェック氏がコメントを寄せている。
インドの消費財ブランドは、若年層の入れ替わりが速く、数年ごとに表現を更新しないと古びて見られやすい。ヤーリーは友情という普遍的な情緒を核に据えてきた既存プラットフォームで、ブランドの記憶装置として機能してきた。今回の刷新は、その核を残したままトーンとパッケージだけを現代化する手つきで、ゼロから作り直す方式とは性格が違う。音楽フックを完全に捨てず編曲で引き継いだ点が、資産の連続性を意識した設計を示している。
今回の刷新で入れ替わったのは、缶のビジュアルとキャンペーンのトーンだ。一方で残したのは、友情というテーマ、看板俳優カルティク・アーリヤン、そしてブランド音楽の骨格である。新規性は見た目と音の質感で出しつつ、消費者が積み上げてきた認知の手掛かりは温存する。この「入れ替える層」と「据え置く層」を分けた組み立ては、ブランドの資産価値を毀損せずに鮮度を足す実務として読み取れる。看板を丸ごと替えれば認知はリセットされ、逆に何も変えなければ古びる。その中間を狙った判断だ。
広告専門メディアのafaqsが報じた範囲では、ダッタ氏は今回の刷新を、ブランドが体現してきた友情の精神を保ちながら新世代へ橋渡しする試みと位置づけている。スメタチェック氏は、既存の音楽資産を今日的な感覚で組み直した点にクリエイティブの狙いがあると説明している。報道は経営陣と代理店側の意図を中心に伝えており、消費者側の反応を断定するデータは示されていない。
インドに参入する日本の飲料・食品ブランドは、本国で完成したロゴ・音・キャッチを丸ごと持ち込みがちだ。だが現地で認知が浅い段階では、そもそも守るべき資産が薄い。マクダウェルズ・ソーダのように「残す層」と「更新する層」を仕分ける発想は、まず現地で何を核に据えるかを先に決める作業とセットになる。人物起用で情緒を運ぶ手法は、コーリーの背番号を値付けに変えた事例が数字とメッセージを結んだ値付けや、マクドナルド印のW杯連動販促が世界的IPを現地文脈に落とし込んだ販促と地続きだ。会員体験で上位客を囲うスターバックス印の上位客プログラムの発想も、ブランド資産を積み上げる長期の型として並べて読める。
看板俳優を長期起用し、季節や世代の節目でトーンだけ更新するやり方は、飲料カテゴリで人物と情緒を結ぶ手法として広がっている。飲みの場の体験そのものをブランド資産に変える動きは、「飲み会」体験を輸入した外食の事例のような外食側の仕掛けとも呼応する。日本の飲料ブランドが同じ土俵に立つなら、単発の起用より、数年単位で人物とテーマを固定して積み上げる設計が問われる。
ブランド刷新の巧拙は、新しさの量ではなく、何を据え置くかの判断で決まる。インド進出を検討する日本の飲料・食品ブランドは、参入初期のうちに「現地で守り続ける核」を人物・音・テーマのいずれかで一つ決め、更新はその外側の層に限定する運用を先に固めたい。次の一手として、自社ブランドの要素を「残す層/更新する層」に仕分ける一枚の棚卸し表を作ることを勧める。