チャイの国からコーヒー大国へ変貌するインドインドと聞いて、多くの人が思い浮かべるのは香り高いチャイではないでしょうか。確かに、インドはチャイの国として世界的に知られています。しかし今、この国で静かな革命が起きています。スペシャリティコーヒーの波がインド全土に広がりつつあるのです。17世紀にイエメンからアラビカ種が持ち込まれて以来、コーヒー生産の長い歴史を持つインドが、いよいよ世界のコーヒーシーンで主役級の存在感を示し始めています。「インドはコーヒー豆の生産大国でありながら、カフェやレストランで提供されるコーヒーの味が洗練されておらず、不満を抱いた」Specialty coffee—with all its nuance, freshness, and respect for origin—was nowhere to be found. The Indian coffee market was dominated by mass‑produced blends and street‑side kiosks, where coffee was more of a background beverage than a well-crafted experience.これは、インドのスペシャリティコーヒーブランドであり東京の広尾にも店舗をオープンした「ブルートーカイコーヒー」の創業者、マット・チタランジャン氏が創業のきっかけを語った言葉です。多くの生産国と同様に、良質な豆のほとんどが海外に輸出され、国内には流通していなかったのです。この社会的課題に取り組むべく、2013年にニューデリーで同社を創業しました。インドコーヒーの知られざる歴史と現状インドのコーヒー栽培の歴史は意外に古く、17世紀にイエメンからアラビカ種が持ち込まれました。インドはアラビカ伝播の最初の国の1つとされています。南部の西ガーツ山脈周辺を主要な生産エリアとして、高地の熱帯林にて高品質なコーヒーの生産が行われています。特に「カルナータカ州」「タミルナドゥ州」「ケララ州」の3エリアが主要産地です。19世紀に伝播したさび病によって壊滅的な被害を受けるも、アラビカの品種改良やロブスタの生産によって世界有数の生産国に復興しました。季節風によるモンスーンコーヒーはインドコーヒーの代名詞の1つとなっています。しかし、良質な豆の多くは輸出され、国内消費向けには品質の低いものが残されるという、多くのコーヒー生産国が抱える問題をインドも同様に抱えていました。この状況を変えようとする動きが、近年急速に広がっています。コーヒーの品質だけでなく、生産方法にも注目が集まっています。レインフォレスト・アライアンス認証を取得した農園も増加中で、環境に配慮した持続可能なコーヒー生産が推進されています。ブルートーカイ - インドコーヒー革命の立役者インドのコーヒー界を牽引する存在として注目を集めているのが、「ブルートーカイコーヒー」です。2013年にニューデリーで創業されたこのブランドは、今やインド全土で150店舗以上(2025年7月現在)のカフェを展開する国内最大のスペシャルティコーヒーカンパニーとなっています。創業者のマット・チタランジャン氏は学生時代をアメリカで過ごし、アメリカのコーヒー文化に親しんだ経験を持ちます。帰国後、コーヒー豆の生産大国でありながら国内で提供されるコーヒーの品質に失望し、この状況を変えるべく立ち上がりました。ブルートーカイの特徴は、エチオピアやグアテマラといった著名な産地の豆は扱わず、「インド産」のコーヒー豆のみを紹介している点です。「インド産コーヒーの魅力をインドの人々に届ける」ことが創業時に掲げたミッションでした。現在は「カルナータカ州」「タミルナドゥ州」「ケララ州」の3エリアで、30以上の農園と直接取引を行っています。生産に関わる情報を高い透明性で発信することで、インドの人々にコーヒーカルチャーを浸透させ、生産者の意識もより前向きに変えていきました。いわばインドの次世代コーヒーシーンを担う立役者なのです。あなたは「インド産のコーヒーって本当においしいの?」と疑問に思うかもしれません。コーヒー豆はすべて「スペシャルティコーヒー協会」でカップスコア80点以上を付けたハイグレードのものです。そしてシングルオリジンよりもさらに厳密に定義された「シングルエステート(単一農園)」に分類され、"農園単位"のテロワールが味わえるのが何よりの特徴です。日本に上陸したインド発スペシャルティコーヒーブルートーカイコーヒーは2021年に日本へ初進出。きっかけは、インド在住の日本人からの支持と好評でした。日本人の味覚に合うと感じた同社は、2022年に「茜」「藍」「菫」の3種の日本限定ブレンドを発売。生豆はインドから輸入し、日本国内で粕谷哲氏監修のもと焙煎。オーガニックな印象と高品質を保ちつつ、200g1,020円〜という手頃な価格で、日常使いできるスペシャルティコーヒーを提供しています。インドコーヒー市場の未来と可能性インドのスペシャルティコーヒー市場は、まだ成長の初期段階にあります。Blue Tokaiの創業者マット・チタランジャン氏も、「本格的な普及はこれから」と語るように、可能性を秘めた未成熟な市場です。それでも過去10年で、デリー、バンガロール、ムンバイなど主要都市だけでなく、地方都市にもスペシャルティコーヒーを扱うカフェやロースターが増加。レストラン、ホテル、企業でも品質への意識が高まり、コーヒー文化の浸透が進んでいます。この拡大を持続させるには、農園での栽培から焙煎、バリスタ技術に至るまで、バリューチェーン全体への人材投資と教育が不可欠です。インドではまだ専門的なトレーニング環境が整っていない地域も多く、業界全体の底上げが課題となっています。一方で、経済成長と都市部の若者層の消費志向の変化が、スペシャルティコーヒー市場の後押しをしています。高品質かつストーリーのあるコーヒーが「ライフスタイルの一部」として受け入れられつつあり、今後はサステナブルやトレーサビリティといった付加価値のある製品がより注目されていくでしょう。インドで注目のカフェブランド3選|次世代コーヒーカルチャーの担い手たちARAKU Coffee(アラク・コーヒー)|農園から一杯までの一貫体制ARAKU Coffeeは、アーンドラ・プラデーシュ州の高地アラク渓谷で栽培されるオーガニックコーヒーを使用したプレミアムブランドです。インドの先住民農家とフェアトレードで連携し、土づくりから収穫、焙煎、抽出までを一貫管理。サステナブルかつトレーサビリティの高い仕組みを特徴とし、2021年にはバンガロールに洗練された直営カフェをオープン。パリにも店舗を構えるなど、国際的にも注目されています。Third Wave Coffee(サードウェーブ・コーヒー)|都市型ライフスタイルに寄り添うカフェチェーンバンガロール発のThird Wave Coffeeは、Z世代・ミレニアル世代に向けた都市型カフェブランドとして急成長を遂げています。丁寧に抽出されたハンドドリップコーヒーやラテアート、トレンド感のあるフードメニューを取り揃え、バンガロール、ムンバイ、デリーなどで展開中。さらに、デザイン性の高い内装と快適なワークスペースの提供も好評で、コワーキングとカフェの融合空間としても人気を集めています。HumbleBean Coffee(ハンブルビーン・コーヒー)|誠実な一杯を届ける新鋭スペシャルティブランドバンガロールに拠点を置くHumbleBean Coffeeは、インド産のシングルオリジン豆にこだわり、農家との直接取引を通じてサステナブルなコーヒー体験を提供するスペシャルティブランドです。カフェでは、浅煎りのフィルターコーヒーや季節限定のシグネチャードリンクに加え、ペストリーや焼き菓子も充実。店舗は落ち着いた雰囲気で、ブリューイングセッションやテイスティングイベントも定期開催されており、都市部のコーヒーラバーに静かな支持を広げています。チャイの国からコーヒー大国へチャイの国として知られるインドが、いまスペシャルティコーヒー大国への道を着実に歩んでいます。17世紀から続くコーヒー栽培の歴史を持ちながらも、これまで国内消費向けの高品質コーヒーが不足していた状況が、ブルートーカイコーヒーをはじめとする新興ブランドの登場により大きく変わりつつあるのです。インド産コーヒーの魅力を自国民に伝えるという使命から始まったこの動きは、今や日本にも広がっています。日本の成熟したコーヒー文化とインドの新興コーヒーシーンの出会いは、両国のコーヒー愛好家にとって新たな可能性を開くものとなるでしょう。チャイの国インドがスペシャルティコーヒー大国になる日は、そう遠くないのかもしれません。インドの成長市場に関心をお持ちの方は、約14億人を超える人口を抱え、経済成長が著しいこの巨大市場への進出支援サービスもご検討ください。インド市場への進出を目指す企業の皆様を全面的にサポートいたします。【参考・出典】本記事の内容は以下の公開情報を基に作成しています。・Macrotrends「India Population (1950-2025)」・Blue Tokai Coffee Roasters(LinkedIn)