Palmonasがシリーズ$40M調達——シュラッダー・カプール共同創業・全60店舗黒字のD2Cジュエリーブランドが描く新成長モデル

インドのデミファインジュエリーD2Cブランド「Palmonas」が2026年4月、Xponentia CapitalとVertex Growth Fund主導のシリーズBラウンドで4,000万ドル(約₹373Cr、日本円換算で約60億円)を調達した。ボリウッドスターのシュラッダー・カプールが共同創業者として参画するこのブランドは、全60店舗が黒字という異例の収益モデルを誇り、インドD2C業界の新たなベンチマークとして注目を集めている。

目次

Palmonasとはどんなブランドか

Palmonasは2022年にMohadikarとAmol Patwariが創業した、外科用ステンレス・スターリングシルバー・18Kゴールドヴェルメイルを素材とするデミファインジュエリーブランドだ。「デミファイン(Demi-Fine)」とは、ファッションジュエリーよりは上質でファインジュエリー(金・プラチナ)よりは手が届きやすい中価格帯ゾーンを指す。インドでは可処分所得の上昇と若年層のライフスタイル消費拡大を背景に、このカテゴリーへの需要が急増している。

2024年にシュラッダー・カプールが共同創業者として加わり、ブランドの認知度は一気に高まった。カプールはインスタグラムのフォロワーが約9,000万人に達するボリウッドトップスターであり、単なるブランドアンバサダーではなく事業のオーナーシップを持つ共同創業者として関与している点が、他のセレブリティタイアップとは一線を画す。

驚異の成長軌跡:₹97万から₹39Crへ

Palmonasの財務数値は衝撃的だ。FY24(2023-24年度)の売上がわずか₹97万(約140万円)だったのに対し、FY25(2024-25年度)は₹39Crに達した。1年間で40倍超の成長である。

指標FY24FY25変化率
売上高₹97万₹39Cr約40倍超
店舗数数店舗60店舗急拡大
店舗黒字率未公開100%全店黒字
シリーズA調達額₹55Cr(2025年8月)

この成長を支えているのがオムニチャネル戦略だ。オンライン(D2C EC)とオフライン(直営店)を組み合わせることで、デジタルネイティブ世代とリアル体験を求める顧客の双方を取り込んでいる。さらに注目すべきは、60店舗すべてが黒字という事実だ。「キャッシュバーン旗艦店」ゼロ——つまり赤字覚悟の先行投資店舗が存在しない。通常、小売り急拡大フェーズではブランド認知向上を名目に赤字店舗を抱えるケースが多いが、Palmonasはそれを行っていない。

セレブリティ共同創業モデルの真価

シュラッダー・カプールの参画はマーケティング費用の観点から見ると極めて合理的だ。インドでは有名人を起用したテレビCMや広告費が莫大にかかる。しかしカプールが共同創業者として自ら発信することで、ブランドはほぼゼロのマーケティングコストで数千万フォロワーへリーチできる。

この「セレブリティ共同創業(Celebrity Co-Founder)」モデルはインドで急速に広まりつつある。俳優やクリケット選手が単なるアンバサダーを超え、株式を保有するファウンダーとして参画するケースが増えている。重要なのは、カプールが「顔だけ」ではなくビジネスの成長に直接コミットしている点だ。「今後12か月でさらに積極的に拡大する」という彼女の発言は、投資家へのシグナルとしても機能している。

インドのD2C市場全体のトレンドについては、2026年Q1のインドD2C資金調達動向も参照されたい。セレブリティ主導ブランドへの投資集中は四半期ベースでも顕著な傾向となっている。

全店黒字モデルの仕組み——なぜ可能なのか

全店舗黒字の背景には、いくつかの構造的要因がある。

  • 低在庫リスク:デミファインジュエリーは季節性が低く、廃棄ロスが少ない。アパレルや食品と異なり、売れ残りが価値を失わない。
  • 高粗利率:外科用ステンレスやスターリングシルバーは原価が低く、ブランドプレミアムで高い粗利を確保できる。高価格帯のゴールドジュエリーに比べて素材コストを抑えながら「上質感」を演出できる。
  • オンラインで需要検証→オフラインで確実に出店:D2Cとしてオンラインで需要データを積み上げ、勝ち筋が見えた商圏にのみ出店する。これが「開けば必ず黒字」という出店戦略を支えている。
  • コミュニティマーケティング:カプールのソーシャルメディアが実質的な集客チャネルとなり、広告費を圧縮。店舗は「体験・確認の場」として機能する。

今回の$40M調達資金は主にオフライン店舗拡大に充てられ、60店舗から12か月以内に100店舗超を目指す。インドのクイックコマースとリテールの融合については、インドのクイックコマース最新動向2026でも詳しく分析している。

日本企業がインドD2Cから学べること

Palmonasの成功モデルは、日本のブランドビジネスにも多くの示唆を与える。

1. 「デミファイン」という価格帯ポジショニングの有効性

日本でも、プチプラ(安価)でもなくラグジュアリーでもない中間価格帯は慢性的な空白地帯だ。食品でいえば「スーパーの総菜より少し上質、でもレストランより手軽」というゾーン。ジュエリーに限らず、このポジショニング戦略はあらゆるカテゴリーで応用できる。

2. オンラインファーストで需要検証、オフラインで確実に刈り取る

Palmonasが実践したEC先行→実店舗展開のモデルは、日本のD2Cブランドにとっても最も低リスクなスケールアップ戦略だ。特に「データに基づく出店判断」は、大手スーパーや百貨店への依存から脱却したい食品・生活雑貨メーカーに応用余地がある。

3. インフルエンサーではなく「共同創業者」として巻き込む

日本でも著名人とのコラボ商品は多いが、多くは単発のプロモーションで終わる。株式を持ちビジネスにコミットするパートナーとして著名人を巻き込むことで、長期的・継続的な発信力を確保できる。特にSNSフォロワーの多いアスリートや料理研究家との「共同創業」は、食品・農業分野でも検討に値するモデルだ。

4. インド市場への参入時の参考事例として

インドのD2C市場は2030年に向けて爆発的な成長が予測されている。オンラインジュエリー市場だけで2030年に690億ドル規模に達する見通しだ。インド市場への参入・協業を検討している日本企業にとって、Palmonasのようなデミファインブランドが急成長しているカテゴリーは、OEMやコラボレーションの切り口になりうる。

まとめ:「黒字のまま拡大する」新しいD2C原則

Palmonasが示したのは、「まず赤字で規模を作り、後から黒字化する」という従来のスタートアップ通念への挑戦だ。全60店舗黒字、40倍の売上成長、セレブリティ共同創業——これらは偶然の産物ではなく、データドリブンな出店戦略とオムニチャネルの組み合わせから生まれた必然の結果だ。

インドD2C市場の成熟とともに、「拡大しながら黒字を維持する」モデルはスタンダードになりつつある。日本企業がインド市場を、あるいはインドから学んで国内市場を攻略しようとするなら、Palmonasのケースは必読の教科書といえるだろう。

インド市場に関する最新情報はIndia Marketing JPで継続的に発信している。

この記事を書いた人

大手総合商社にて約8年間、グループ子会社の経営改革や出資先スタートアップとのJV設立を担当。その後インド駐在として、日系大手飲食チェーンのインド展開に従事し、現地に合わせたメニュー開発やマーケティングを推進。

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