ホーチミン市が5月にフィンテック大型フォーラム「Conviction 2026」を開催——ベトナムをデジタル資産経済の世界的ハブへ
2026年5月8〜9日、ホーチミン市トゥドゥック市のThiskyhall Convention Centerで、ベトナム最大級のデジタル資産・フィンテックフォーラム「Conviction 2026」が開催される。ホーチミン市人民委員会の公式支援を受け、ホーチミン市ブロックチェーン協会(HBA)が主催する本イベントは、「ベトナムをグローバルデジタル資産経済へ接続する」をテーマに掲げ、150人超の国際スピーカーと100社以上の出展企業が集結する。2026年1月に施行されたデジタル技術産業法を追い風に、ベトナムが東南アジア初の暗号資産合法化国として世界の投資家の注目を集めている。
Conviction 2026の全容——前回を超える規模感
Conviction 2026は、ホーチミン市人民委員会の2026年度アクションプランの旗艦イベントとして位置づけられている。主催はホーチミン市電子情報通信協会とHBA、共催にNinety Eightが名を連ねる。
前回のConviction 2025は「ブロックチェーンとAIの共鳴」をテーマに、登録者26,000人超、来場者5,000人、スピーカー150人超、出展者100社超、メディアインプレッション6,500万回を記録した。2026年は機関投資家の参加を強く意識した構成にシフトしており、リテール主導から制度的な枠組みへの移行を反映している。
今回の主要アジェンダは3つの柱で構成される。
- Real Adoption:政策に沿った機関投資家向けデジタル資産導入の道筋
- Real Application:金融システムに組み込まれたRWA(実物資産)トークン化2.0
- Real Acceleration:CBDC越境決済とカストディ・インフラの整備
確定済みのスピーカーには、Animoca BrandsのCOO Minh Do氏とCIO Josh Du氏、HashKey GroupのManaging Director Ben El-Baz氏、MetisのCEO Tom Ngo氏、Kite AIの共同創業者兼CEO Chi Zhang氏らが名を連ねる。ホーチミン市デジタルトランスフォーメーションセンター副所長のHoa Nguyen氏も登壇予定だ。
背景——なぜベトナムがデジタル資産で世界4位なのか
ベトナムがデジタル資産領域で急速に台頭している背景には、複数の構造的要因がある。
第一に、人口構成だ。1億人のうち約60%が35歳以下で、スマートフォン普及率は70%を超える。銀行口座の保有率が依然として限定的な地方部では、暗号資産が送金や貯蓄の代替手段として機能してきた。
第二に、海外送金の規模だ。ベトナムは世界有数の送金受取国であり、従来の銀行送金に比べて手数料が低い暗号資産が実用的な選択肢として定着している。Chainalysisの推計では、年間1,000〜1,200億ドル相当の暗号資産がベトナムを流通しており、これはGDPの25%超に相当する。
第三に、2026年1月に施行されたデジタル技術産業法(2025年6月14日国会可決、全6章51条)の存在だ。同法はデジタル資産を民法上の「財産」として初めて法的に認定し、仮想資産・暗号資産・その他デジタル資産の3カテゴリーに分類した。東南アジアで暗号資産を財産として法的に保護した最初の国となった。
ただし、法定通貨としての使用は認められておらず、決済手段としての利用は禁止されたままだ。あくまで「投資・取引対象としての資産」という位置づけである。
データで見るベトナムのデジタル資産市場
| 指標 | 数値 | 出典・時期 |
|---|---|---|
| Chainalysis世界暗号資産採用指数 | 4位 | 2025年版 |
| デジタル資産保有人口 | 約1,700〜2,000万人(人口の17〜20%) | Chainalysis推計 |
| 年間暗号資産流通額 | 1,000〜1,200億ドル(GDP比25%超) | 業界推計2025年 |
| 暗号資産取引所ライセンス受付開始 | 2026年1月20日〜 | 財務省 |
| 取引所パイロット最低資本金 | 10兆VND(約4億ドル) | 政府決議05号 |
| P2Pレンディング・サンドボックス | 2年間(2025年7月1日〜) | 政令94号 |
| デジタル技術産業法 | 2026年1月1日施行 | 国会2025年6月可決 |
| EC法(電子商取引法) | 2026年7月1日施行予定 | 国会2025年12月可決 |
現地の反応——期待と警戒が交錯する声
Conviction 2026のCEOであり、Ninety Eight共同創業者兼CEOのNguyen The Vinh氏は、次のように述べている。「デジタル資産が現代商取引の基盤となる時代に、ベトナムがただ流れに追従するのではなく、その中心にいることが我々の目標だ」。Ninety Eightは、マルチチェーンウォレット「Coin98 Super Wallet」を旗艦プロダクトとし、世界150カ国以上で1,000万ユーザーを擁するベトナム発のブロックチェーン企業だ。
一方、現地の投資家コミュニティからは慎重な意見も上がっている。暗号資産取引所パイロットの最低資本金10兆VND(約4億ドル)は「マクロレベルの安全フィルター」として評価される反面、中小規模のスタートアップにとっては参入障壁となりかねない。
また、業界関係者の間では「投資家が長期的な価値創造ではなく短期的な投機に走り続ければ、パイロット期間中にバブルが崩壊し、規制当局が締め付けを強化するリスクがある」との警告も出ている。規制の明確化が機関投資家を呼び込む一方で、コンプライアンスコストの上昇が小規模プレイヤーを圧迫する構図は、EC業界の統合フェーズと共通している。
ベトナムのテック系コミュニティでは、今回のConvictionが「前回の26,000人登録を超えられるか」に関心が集まっている。政府の公式バックアップが付いたことで、単なる業界イベントから政策発信の場に格上げされた意味は大きい。
日系企業・投資家への示唆
ベトナムのデジタル資産合法化は、同国市場に関心を持つ日系企業にとって複数の示唆を含む。
まず、決済インフラの変化だ。ベトナムではMoMoやZaloPayといったモバイルウォレットが普及しているが、ステーブルコインによる越境決済が制度化されれば、日越間の送金・決済コストが大幅に下がる可能性がある。特にベトナムで普及するプロモーションアプリとの連携で、ポイント還元やキャッシュバック施策にブロックチェーン技術が組み込まれるシナリオも現実味を帯びてくる。
次に、RWA(実物資産)トークン化の進展だ。不動産や農産物など、ベトナムの実物資産をトークン化して国際市場で流通させる動きが加速すれば、日系の不動産デベロッパーや食品企業にとって新たな資金調達・投資チャネルが生まれる。
さらに、ベトナムZ世代の購買行動との接点も見逃せない。デジタルネイティブであるZ世代は、暗号資産やNFTに対する抵抗感が低く、ブロックチェーンベースのロイヤリティプログラムやデジタルコレクティブルを活用したマーケティング施策が効果的に機能する土壌がある。
業界への波及——EC法との二重規制がもたらす市場再編
注目すべきは、2026年がベトナムのデジタル経済にとって「規制の年」になっていることだ。1月にデジタル技術産業法が施行され、7月には新EC法が施行される。2つの大型法規が同年に重なることで、プラットフォーム事業者には二重のコンプライアンス対応が求められる。
新EC法は、越境プラットフォームにベトナム法人の設立または現地代理人の設置を義務付け、出品者の匿名販売を禁止する。デジタル技術産業法は、暗号資産取引所にAML(マネーロンダリング防止)・CFT(テロ資金供与対策)のFATF基準準拠を求める。
この二重規制の結果、ベトナムのデジタル経済は「野放し成長」から「制度化された市場」へ明確に転換する。2025年に約48,000店舗がEC市場から退出した流れと合わせて考えれば、資本力とコンプライアンス体制を持つ事業者に市場が集約されていく構図が鮮明になる。
実用情報——Conviction 2026 参加・視聴ガイド
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| イベント名 | Conviction 2026 |
| 開催日 | 2026年5月8日〜9日 |
| 会場 | Thiskyhall Convention Center, 10 Mai Chi Tho St., Thu Duc City, HCMC |
| 主催 | ホーチミン市ブロックチェーン協会(HBA)/ ホーチミン市電子情報通信協会 |
| 共催 | Ninety Eight |
| テーマ | Connecting Vietnam to the Global Digital Asset Economy |
| 規模 | スピーカー150人超、出展100社超(2025年実績:登録26,000人超) |
| 公式サイト | conviction.vn |
| チケット | Eventbriteで販売中 |
まとめ——ベトナムはデジタル資産で「追随者」から「ルールメーカー」へ
Conviction 2026は、単なるブロックチェーンの業界カンファレンスではない。ホーチミン市人民委員会が公式に支援し、国家戦略としてのブロックチェーン推進(首相決定1131号)と連動するイベントだ。
2026年1月のデジタル技術産業法施行、1月20日からの暗号資産取引所ライセンス受付開始、そして7月の新EC法施行——ベトナムは半年間で3つの制度的転換点を迎える。Chainalysis世界4位の採用率と1億人の若い人口を武器に、ベトナムはデジタル資産分野で東南アジアのルールメーカーとなる意志を明確にした。
日系企業にとって、この動きを「遠い国の暗号資産の話」と片付けるのは早計だ。越境決済のコスト構造が変わり、RWAトークン化で投資チャネルが多様化し、Z世代の消費行動がブロックチェーンと融合していく。ベトナム市場を視野に入れる企業は、Conviction 2026の動向を注視すべきだろう。