2026年4月1日、インドのD2C栄養ブランド「BeastLife(ビーストライフ)」が₹20Cr(約3億円)のプレシリーズA調達を発表した。投資家はGVFLとEquentisで、企業評価額は₹320Cr(約48億円)。創業2年の同社がこの評価額を得た背景には、FY26(2025年4月〜2026年3月)で₹100Crの売上を達成した実績がある。
BeastLifeとは何者か
BeastLifeは2024年にグルガオン(デリー近郊)で創業した。共同創業者はYouTubeチャンネル登録者1,000万人超のフィットネスインフルエンサー、Gaurav Taneja(ガウラフ・タネジャ)と、D2Cビューティーブランド「mCaffeine」の元幹部Raj Vikram Guptaだ。
製品ラインはプロテインパウダー、クレアチン、マスゲイナー、マルチビタミンが中心。D2Cチャンネル(自社EC)、Amazone・Flipkartなどのeコマースプラットフォーム、ZeptoやBlinkitなどのクイックコマースを通じて販売している。
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 創業年 | 2024年 |
| FY25売上 | ₹36Cr(約5.4億円) |
| FY26売上(見込み) | ₹100Cr(約15億円) |
| 評価額 | ₹320Cr(約48億円) |
| 調達額 | ₹20Cr(プレシリーズA) |
| 現在の収益状況 | 黒字 |
創業からわずか1年でFY25に₹36Crを達成し、FY26でその約3倍となる₹100Crに到達。3年以内に₹500Cr(約75億円)を目標に掲げている。
なぜ「インフルエンサー×D2C栄養」が機能するのか
BeastLifeのモデルが機能している理由は、Gaurav Tanejaが持つ「信頼された専門家」としての立場にある。YouTubeでのフィットネス動画を通じて培ったコミュニティが、そのままブランドの購買層になっている。
これはいわゆる「インフルエンサーブランド」の典型例に見えるが、競合他社との差別化点は「製品品質への投資」だ。同社は競合よりも高い原材料比率を維持し、製品のラボテスト結果を公開している。消費者の信頼を維持することが、インフルエンサービジネスの命綱であることを理解している。
今後の戦略として、GLP-1(痩せ薬)使用者向けの特化型プロテイン製品を開発中だという点も注目に値する。GLP-1ウゴジマブが世界的に普及する中、「薬で痩せながら筋肉を維持したい」という需要に対応した製品は、グローバルでも数が少ない。
インドのスポーツ栄養市場の現状
インドのスポーツ栄養市場は2025年時点で約$800M(1,200億円)規模と推定され、2030年には$2B超への成長が見込まれている。背景には以下がある。
- フィットネス人口の拡大: コロナ禍でジム・在宅フィットネスへの関心が高まり、コロナ後も継続
- 可処分所得の増加: インドの中間層拡大とともに、健康への投資意識が高まっている
- D2Cの成熟: Meesho・Myntra・Blinkitなどプラットフォームが整備され、メーカーが直接消費者に届けやすくなった
- 若年人口: 25歳以下が人口の約50%を占め、フィットネス意識の高い層が厚い
この市場で注目されているのがBeastLifeだけではない。Inc42の「FAST42 2026」(インド最速成長D2Cブランド42社)にも、TruNativやAURICなど複数の栄養系ブランドがランクインしている。
日本から見たインドD2C栄養市場の示唆
インドのD2C栄養市場が日本企業にとって意味するのは、「消費者教育済みの市場が生まれつつある」という点だ。
かつてインドの栄養補助食品は「海外輸入ブランドか、安価な国内模倣品か」という二択だった。しかしBeastLifeのような「品質を訴求する国内D2Cブランド」の台頭により、消費者が「価格より成分・品質」で選ぶ軸が生まれている。
この変化は、品質に強みを持つ日本のサプリメントブランドや機能性食品メーカーにとって参入機会になりえる。インドのクイックコマース市場の急成長が示すように、Blinkit・Zeptoなどを通じた即時配達インフラも整っており、日本ブランドが現地パートナーと組んで流通する際の障壁は下がっている。
また、Anveshan(アンベシャン)がIFCとVertex Venturesから₹150〜200Crの調達交渉中というニュースが示すように、「伝統食材×現代的品質管理」という組み合わせへの投資家需要も高い。日本の農産物・発酵食品ブランドがインドに入るとすれば、このポジショニングが参考になる。
資金の使途と今後の展開
今回の₹20Crは以下に充当される予定だ。
- チーム拡充: 営業・マーケティング・製品開発の採用強化
- オフライン展開: 北インドに集中している販売網を西・南インドへ拡大。まずは選定した都市で異なる小売フォーマットをテスト
- 新製品開発: GLP-1ユーザー向けプロテインなど機能性特化製品
オフライン展開は「選択的・段階的」というアプローチを取り、急速な店舗網拡大ではなくフォーマット検証を優先する。D2Cブランドが利益を維持しながらオフライン移行する際の教科書的な戦略だ。
インドD2C栄養ブランドの競合地図
BeastLifeが戦う市場には、複数の確立したプレーヤーがいる。
| ブランド | 主力製品 | FY25売上 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| The Whole Truth | プロテイン・栄養食品 | ₹216Cr | 成分の完全開示を差別化軸に |
| BeastLife | プロテイン・サプリ | ₹100Cr(FY26) | インフルエンサー創業、クイックコマース強み |
| TruNativ | 機能性栄養 | 非公開 | 人工甘味料不使用・科学的製法 |
| AURIC | アーユルヴェーダサプリ | 非公開 | 伝統医学×現代製品設計 |
競合との比較で際立つのは、BeastLifeのクイックコマースへの早期注力だ。Blinkitなどのクイックコマースで1〜2日以内に届く栄養食品を展開することで、「プロテインを買い忘れたとき」という衝動需要を取り込んでいる。Zeptoが展開する「10分配達」の普及が、スポーツ栄養の購買パターンを変えつつある。
インフルエンサーブランドのリスクと持続可能性
Gaurav Tanejaのような「創業者=インフルエンサー」モデルには固有のリスクがある。創業者が炎上した場合やコンテンツ力が衰えた場合、ブランド価値が直接毀損する。
BeastLifeはこのリスクに対して、二つの防衛策を取っている。第一に、製品品質への投資でブランド独立性を確保すること。第二に、共同創業者のRaj Vikram Gupta(mCaffeine経験者)がオペレーション・製品開発を牽引し、創業者依存を分散させていること。
mCaffeineはカフェイン入りビューティー製品で急成長したD2Cブランドで、2023年に大手企業に売却された。Raj Vikram Guptaはその経験からブランドスケールアップの実務を熟知しており、BeastLifeにその知見を持ち込んでいる。
日本企業への3つの示唆
インドのスポーツ栄養市場の動向は、日本企業に以下の視点を提供する。
1. 「品質開示」が新興市場でも機能する時代
BeastLifeがラボテスト結果を公開し、The Whole Truthが成分を全て明記する戦略は、日本の食品・サプリメント業界が長年やってきた「成分透明性」の文化と親和性が高い。インド市場でも同様の訴求が通用することを示している。
2. クイックコマースを前提とした製品設計
インドではBlinkit・Zepto・Swiggy Instamartが急成長し、食品・日用品の即時配達インフラが整っている。日本ブランドが現地展開する際、オフライン店舗よりも先にクイックコマースを押さえることが有効な選択肢になる。
3. GLP-1波は日本にも来る
日本でもオゼンピック・マンジャロが普及し始めており、「薬で痩せながら筋肉を守りたい」という需要は今後増加する。BeastLifeが開発中のGLP-1ユーザー向けプロテインは、日本の機能性食品メーカーが先に出られる分野でもある。
よくある質問
Q: BeastLifeの製品は日本でも購入できますか?
A: 現時点では日本への輸出は行っていません。インド国内のD2Cチャンネル・Amazonインドを通じた販売が中心です。
Q: GLP-1向けプロテインとは何ですか?
A: オゼンピック・マンジャロなどのGLP-1受容体作動薬を使用して体重を減らす際に、筋肉量の減少を防ぐために必要な高タンパク食品です。GLP-1市場の成長とともに需要が増えているカテゴリーです。
Q: インドD2C栄養市場の主な競合は?
A: The Whole Truth(FY25売上₹216Cr)、TruNativ、AURICなどが主要競合です。BeastLifeはインフルエンサーとのダイレクトな信頼関係を差別化軸にしています。
参考情報
– Inc42: BeastLife ₹20Cr調達記事(英語)
– StartupTalky: April 1 2026 Funding Roundup(英語)
– Inc42: FAST42 2026 インド最速D2Cブランド(英語)