インドの大手消費財メーカーMarico(マリコ)は2026年2月9日、ベトナムのD2Cスキンケアブランド「Candid(キャンディッド)」を展開するSkinetiq JSCの株式75%を取得することで合意したと発表した。企業評価額は約35億ルピー(約58億円)。インフルエンサー2人が立ち上げたベトナムのZ世代向け美容D2CブランドがインドのFMCG大手に買収された今回のディールは、ベトナム消費者市場の成熟度を端的に示す事例として注目されている。
Skinetiq・Candidとはどんなブランドか
Skinetiq JSCは2020年にベトナム人女性2人——Bui Ngoc AnhとHannah Nguyen——によって創業されたスキンケア企業だ。2人はTikTokとFacebook合計150万人超のフォロワーを持つ美容インフルエンサーで、SNSでの発信力をそのままブランドの成長エンジンとして活用してきた。
主力ブランドの「Candid」はGen-Z向けデジタルファーストのクリニカルスキンケアで、ニキビ・美白・保湿など肌悩み別にラインナップを展開。高級クリニカルケアブランド「Murad(ムラード)」のベトナム独占販売権も保有している。
2025年の売上は約152億ルピー(約25億円)、EBITDAマージンは20%台半ばと収益性も高い。
Maricoがベトナムに目を向ける理由
Maricoはインドを代表するFMCG(日用消費財)メーカーで、ヘアオイル「Parachute」や美容ブランド「Livon」などで知られる。東南アジアにはMarico South-East Asia Corporation(MSEA)を通じて展開しており、ベトナムはすでに重要市場の一つだ。
今回のSkinetiq買収は、Maricoにとって以下の3点で戦略的意味を持つ。
- D2C・デジタルネイティブ能力の獲得:インフルエンサー起点のSNSマーケティングとD2C販路をそのまま取り込める
- ベトナムZ世代への直接リーチ:150万人超のインフルエンサーフォロワーという既成のコミュニティ
- 高マージンのプレミアムスキンケア市場参入:Muradの独占販売権も含め、高単価ラインを一括取得
ベトナムD2C美容市場の現在地
ベトナムの化粧品・スキンケア市場は年間成長率10〜12%で拡大が続く。特にZ世代(1997〜2012年生まれ)はSNS経由で美容情報を収集し、D2Cブランドへの親和性が高い。TikTok Shopの普及がこの傾向を一層加速させており、インフルエンサーが立ち上げたブランドが短期間で大きな売上を達成するケースが相次いでいる。
Candidがその典型例だ。創業から5年で外資FMCGメーカーに約58億円で評価されるまでに至った成長速度は、ベトナムD2C市場の可能性を如実に示している。
日系消費財・美容メーカーへの示唆
今回のMarico×Skinetiqのディールから、日系企業が読み取るべきポイントは2つある。
1. ベトナムのD2C美容ブランドはM&A対象として成熟してきた
資生堂・花王・コーセーなど日系大手がベトナムで展開する際、現地D2Cブランドとの提携・出資・買収という選択肢が現実的になってきた。自社ブランドをゼロから立ち上げるより、インフルエンサー基盤と既存顧客を持つD2C企業を取り込む方が効率的なケースがある。
2. SNS×インフルエンサー起点のブランドが収益を出す市場
日本のベトナム進出で陥りがちなのは「製品品質は高いがSNSの発信が弱い」という構造だ。ベトナムZ世代はTikTok・Instagramで信頼できる人物から情報を得て購入を決める。インフルエンサーとの共同ブランドやOEM供給という形で市場に入ることも一考に値する。
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