寺院都市ティルパティ20号店、Banana Clubの巡礼立地戦略

南インドの寺院都市ティルパティに、メンズD2Cブランド「Banana Club」が20号店を出した。Bengaluru、Hyderabad、Mumbai、Indore、Chennaiと都市部を固めてきたブランドが、巡礼者が日に4万人以上集まる宗教都市を次の一手に選んだ点が目を引く。年内に店舗数を50まで倍以上に増やし、2027年には年間収益ラン・レート(ARR)を300億ルピーへ引き上げる計画だ。日本の菓子メーカーや乾物・ギフトの作り手にとって、これは「巡礼・観光の高回遊立地をどう販路に組み込むか」という具体的な出店発想のヒントになる。

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ティルパティ20号店で見えたBanana Clubの一手

Banana Clubは2023年にNeel Bafna氏とPrashanth Lalwani氏がBengaluruで立ち上げたメンズファッションブランドだ。創業からわずか数年で実店舗20店に到達し、ティルパティ出店はその節目にあたる。これまでの出店先はBengaluru、Hyderabad、Mumbai、Indore、Chennaiといった主要都市が中心で、直近ではMysoreやHyderabadのHimayatnagarにも店を構えた。

注目すべきは、同ブランドが「オフライン・ファースト」を掲げている点だ。D2C出身でありながら自社サイト・アプリ・Myntraなどのオンラインに加え、実店舗を成長の主軸に据えている。その文脈で寺院都市ティルパティを選んだのは、人が密度高く流れ込む立地そのものを「集客装置」として評価したからだと読める。

なぜD2Cブランドが寺院都市を選ぶのか

ティルパティは、ヒンドゥー教の聖地ティルマラのスリ・ヴェンカテシュワラ寺院への玄関口だ。ティルマラには月におよそ120万人、日に4万人を超える巡礼者が訪れ、ブラフモーツァヴァムなどの祭礼期には日に7万〜8万人規模に膨らむとされる。世界でも有数の参拝者数を誇る宗教拠点であり、人の流れが年間を通じて途切れない。

一方で、地元では「この圧倒的な参拝客を地域の消費に結びつけきれていない」という課題が長く指摘されてきた。多くの巡礼者は参拝(ダルシャン)を終えると速やかに帰路につき、滞在中の支出が宿泊と食事にとどまりがちだという。裏を返せば、参拝の前後に立ち寄りやすい買い場・手土産需要には、まだ取り込まれていない余地が残っているということだ。Banana Clubの20号店は、この「通過する人波」を購買に変える賭けと位置づけられる。

検証した数値と拡大計画

今回の出店にあたって各メディアが報じた数値を、複数ソースで突き合わせて整理した。crore(=1,000万)の換算には注意が必要で、ARRのRs 150 croreは15億ルピー、Rs 300 croreは30億ルピーにあたる。日本円換算は1ルピー≈1.8円を目安とした概算である。

項目 数値 円換算の目安
現在の店舗数 20店
年内(2026年末)目標 50店
現在のARR 15億ルピー(Rs 150 crore) 約27億円
2027年ARR目標 30億ルピー(Rs 300 crore) 約54億円
2025年の調達額 1.225億ルピー(Rs 12.25 crore) 約2.2億円
創業 2023年・Bengaluru

年内に店舗を20から50へと2.5倍に伸ばし、ARRを2年で倍増させる計画だ。出店ペースとしてはかなり攻めた数字で、都市部の旗艦立地だけでなく、ティルパティのような参拝・観光由来の高回遊立地まで対象を広げることで店舗網の母数を稼ぐ狙いがうかがえる。

南インド深耕に対する業界の受け止め

複数の小売業界メディアは、今回の動きを「都市部で固めた基盤を南インド全域へ広げる深耕戦略」として報じている。Bengaluru・Hyderabad・Chennaiという南インドの中核都市を押さえたうえで、Mysore、そしてティルパティへと二次・三次都市に降りていく流れだ。

業界関係者の見方を意訳すると、概ね三つの論点に集約される。第一に、オンラインの獲得コストが上がるなかで、人が集まる物理立地は依然として強い集客資産だという評価。第二に、巡礼・観光都市は地元客に加えて広域から人が流れ込むため、商圏の人口規模以上の集客が見込めるという期待。第三に、参拝後の「ついで買い」をどう設計できるかが、こうした立地での勝敗を分けるという慎重論である。高回遊立地は人の数こそ多いが、買い回りの動線や滞在時間が読みにくく、商品構成と売り場づくりの精度が問われる。

日本の菓子・乾物ギフトメーカーへの示唆

この事例から、日本の食品メーカーが取り出せる発想は明快だ。「商圏人口」ではなく「通過人口」で立地を測る視点である。とりわけ菓子・乾物・ドライフルーツのような日持ちする手土産カテゴリーは、参拝・観光客の「持ち帰り需要」と相性がよい。Banana Clubが寺院都市に賭けたのと同じ論理が、ギフト食品にはより素直に当てはまる。

具体的なアクションに落とすなら、まず狙うべきは「滞在は短いが人波が途切れない立地」だ。日本国内であれば、神社仏閣の門前町、空港、駅ナカ、観光地の物産館などがこれに近い。ここで効くのは、軽くてかさばらず常温で持ち運べ、その土地の文脈に結びついたパッケージを持つ商品である。乾燥野菜やドライフルーツ、乾物詰め合わせは、この条件をそのまま満たす。参拝・観光の動線上に「迷わず手に取れる手土産の棚」を一つ置けるかどうかが、通過人口を売上に変えられるかの分かれ目になる。

そのうえで、Banana Clubの「オフライン・ファースト」も学べる点だ。オンラインで認知と顧客データを取りつつ、人が集まる場で実物を手に取らせる。ギフト食品でも、ECで定番化した商品を観光・催事の現場に持ち込み、その場の試食と購買から得た反応を商品改良に回す、という往復が組める。

市場全体への波及

インドではD2Cブランドの「オフライン回帰」が一つの潮流になりつつある。オンライン広告の単価が上がるなかで、実店舗を顧客接点と在庫の前線基地として捉え直す動きだ。Banana Clubのティルパティ出店は、その潮流が大都市から地方の観光・宗教都市へと面を広げ始めた兆候として読める。

食品の領域でも、観光・巡礼需要を取り込む手土産・土産物市場は、人流の回復とともに存在感を増している。海外からの参入を考える日本メーカーにとっては、いきなり全国展開を狙うのではなく、人波の濃い一拠点で売れ方を確かめてから広げる、という段階的な攻め方が現実的だ。インド進出を検討する企業の周辺事例としては、生活インフラやサービスの現地展開を扱ったLivpureの体験型ストア出店の動きや、地域に根ざした小売チェーンの北進を追ったPopeesの北インド展開も、立地と商圏の読み方を考えるうえで参考になる。

実用情報・関連リンク

ティルパティはアンドラ・プラデーシュ州チットゥール県に位置し、ティルマラ寺院への巡礼者で年間を通じて賑わう南インドの主要都市だ。鉄道・空港のアクセスも整備されており、巡礼に加えて広域からの来訪が見込める。出店立地としては「短時間滞在・大量通過」という特性を前提に、商品構成と売り場の動線を設計する必要がある。

同様に、都市の中核商業立地を起点にブランド価値を高める出店戦略については、Luksonがムンバイ・バンドラに構えた旗艦店の事例も、高単価立地での見せ方を考える材料になる。

まとめ:通過人口を販路に変える次の一手

Banana Clubのティルパティ20号店は、「人が密度高く流れる場所そのものを商機とみなす」出店発想の好例だ。日本の菓子・乾物・ギフトメーカーが次に取るべきアクションは、自社の主力商品のうち「日持ち・軽量・土産文脈」を満たすものを一つ選び、門前町・空港・観光地物産館など通過人口の濃い一拠点で試験的に置いてみることだ。商圏人口の地図ではなく、人の流れの地図で立地を見直す。そこから得た売れ方のデータを商品改良と次の出店に回せば、Banana Clubがインドでやっている「オフライン・ファースト」の往復を、ギフト食品の文脈で再現できる。

参照元

この記事を書いた人

大手総合商社にて約8年間、グループ子会社の経営改革や出資先スタートアップとのJV設立を担当。その後インド駐在として、日系大手飲食チェーンのインド展開に従事し、現地に合わせたメニュー開発やマーケティングを推進。

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