バスマティ米ウォッカが英国上陸、原料で勝つインド輸出の型

インドの蒸留酒ブランド「Smoke Lab」が、2026年7月に英国市場へ正式進出した。運営はデリー近郊を拠点とするNV Group。バスマティ米を原料にしたウォッカで、すでに米国・UAEで販売実績を持ち、今回のロンドン上陸で先進国の主要市場をほぼ押さえた形になる。注目したいのは商品そのものより、その売り方だ。『インドの土着原料をそのままプレミアムの根拠に変える』という設計は、京都産乾燥野菜や国産果実を海外へ売り込みたい日本の食品事業者にとっても、そのまま応用できる型として読める。

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起点:バスマティ米のウォッカが英国に上陸した

Smoke LabはNV Groupが展開する蒸留酒ブランドで、二世経営者のVarun Jain氏(Founder兼CEO)とSanya Jain氏が2019年に立ち上げた。原料はインド産のバスマティ米で、5回蒸留を経て仕上げる。グルテンフリー・ヴィーガン対応をうたい、定番のClassicに加え、サフラン、アニスシード、青唐辛子マンゴー、24金の食用金箔を封じた「Liquid Gold」まで、インドの香辛料や素材を前面に出したフレーバーを揃えている。

米国では2020年に発売し、2022年にサフランなどの派生品を追加してきた。今回の英国進出で、販売地域はインド・米国・UAE・英国の4市場に広がった。ウォッカという西洋の定番カテゴリに、インドの主食であるバスマティ米という素材で切り込んでいる点が、この商品の骨格になっている。

背景:なぜ今、インドの酒が先進国を狙えるのか

この一件は単発の話ではなく、インド発の蒸留酒が先進国の上位棚を取りにいく大きな流れの一部だ。シングルモルトのAmrut、Paul John、Indriといった銘柄が国際的なコンペで評価を重ね、ロンドンから東京まで、バーの棚にインド産スピリッツが並ぶ光景が珍しくなくなってきた。共通するのは、ヒマラヤ産ジュニパー、ターメリック、コクムといった現地素材を差別化の軸に据える姿勢だ。

市場データもこの動きを裏づける。業界調査ではインドのクラフトスピリッツ市場は2025年に約32億ドル規模とされ、2034年まで年20%超の成長が見込まれている。輸出面でも、インドのアルコール飲料の輸出額は2022年の約3.25億ドルから2024年に約3.75億ドルへ伸びたとの集計がある(いずれも民間調査ベースの数値で、機関により幅がある)。NV Group自身は、今後18か月で世界販売数量を40%引き上げる目標を掲げ、国際流通網を大きく広げる方針を公表している。同社は蒸留25年の実績を持ち、複数の蒸留所と製造提携を抱える中堅グループで、Smoke Labはその輸出の看板として位置づけられている。

Smoke Labの「原料を根拠に変える」設計

Smoke Labの手法を整理すると、日本の食品輸出にそのまま移せる要素が見えてくる。汎用カテゴリの商品を、現地の固有原料でプレミアム化する三段構えだ。

要素 Smoke Labの打ち手 日本の食品輸出への読み替え
原料 インド産バスマティ米を主原料に据える 京都産・国産の野菜や果実を主原料に据える
物語 「インド初のバスマティ米ウォッカ」という一言で語れる 産地・品種・製法を短い一言で語れる形に絞る
入口 富裕層イベントを入口に、先進国の上位棚から入る 展示会や高級小売を入口に、価格でなく素材で選ばせる

ポイントは、ウォッカという枯れたカテゴリを選んでいることだ。新カテゴリを一から啓蒙するのではなく、既に需要がある棚に「原料が違う一本」として滑り込む。日本の乾燥野菜や国産ドライフルーツも、まったく新しい食習慣を輸出しようとすると重いが、既存の棚に『素材の出自が明確な一品』として置けば、話は早くなる。

現地・業界の反応

英国上陸に際し、Varun Jain氏は「ロンドンは長く文化・創造性・プレミアムスピリッツの世界的な拠点であり続けてきた。ここでSmoke Labを立ち上げられるのは誇らしい瞬間だ」とコメントしている。ブランド側は市場そのものの威信を借りる形で、自社の格を引き上げる語り口を選んでいる。

業界メディアの論調は、Smoke Labを『インドのクラフトスピリッツが輸出局面に入った象徴』として扱うものが目立つ。バーテンダーやレビュー層の関心は、金箔入りやサフランといった見た目・香りのわかりやすさに集まりやすく、SNS上でも派生フレーバーが話題の入口になっている様子がうかがえる。一方で、味の評価は西洋の定番ウォッカと同じ土俵で問われることになり、原料の物語だけでは二度目の購入につながりにくいという冷静な見方も業界内には根強い。

日本の食品事業者が取るべき一手

ここから日本企業への示唆を一社ぶんの具体アクションに落とすと、まず問うべきは「自社の主原料を、輸出先で一言で語れるか」だ。Smoke Labは『バスマティ米』という誰でも知る素材名を旗にした。京都産乾燥野菜を輸出する事業者なら、栄養や製法の説明を並べる前に、まず『産地名+素材名』の一語で棚に立てるかを検証すべきだ。海外バイヤーは背景を読み込まない。旗になる一語がなければ、価格勝負の棚に落ちる。

次に入口の設計だ。Smoke Labは富裕層イベントを英国デビューの舞台に選び、量販でなく体験の場から入った。日本の食品事業者も、いきなり大手量販の棚を狙うより、現地の高級食材店・レストラン・展示会という『素材を評価してくれる少数の入口』から入る方が、原料の物語は減衰しにくい。インド産乾燥ポテトが日本の展示会JFEXで調達提案をかけた事例は、その逆方向版として、素材そのものを商談の主役に据える出し方の参考になる。

三つ目は、原料の物語と品質保証を分けて考えることだ。物語は最初の一回を売るが、二回目を売るのは品質だ。効能をうたうのではなく、供給の安定と品質のばらつきの小ささを、輸出先のバイヤーに数字で示せる体制を先に整えておく必要がある。

市場への波及と、日本ブランドの逆張り余地

インド発ブランドが『土着原料×プレミアム化』で先進国に出ていく流れは、日本にとって競合であると同時に地図でもある。飲料の世界では逆方向の動きも起きており、アサヒがカルピスをインド市場に初投入した事例では、自社工場を建てずに現地パートナーと組む身軽な入り方が選ばれた。原料で語るSmoke Labと、ブランドで入るカルピスは対照的で、日本の食品事業者はこの二つの型を輸出先ごとに使い分ける余地がある。

生鮮・青果の領域でも、プネの小売Origin Freshが日本産りんごを棚に載せた事例のように、『日本産』という原産地そのものがプレミアムの根拠として機能し始めている。Smoke Labがインド産バスマティ米で先進国を攻めるのと同じ論理で、日本の素材は海外の富裕・中間層に対して『原産地を旗にした一品』として立てられる。市場が土着原料の物語を評価する局面に入った今、素材の出自が明確な日本の食品には追い風が吹いている。

まとめ:次の一手

Smoke Labの英国上陸から日本の食品事業者が持ち帰るべきは、次の三点だ。第一に、自社の主原料を輸出先で一言で語れる『旗』に磨く。第二に、量販でなく高級小売・展示会という素材評価型の入口から入る。第三に、物語で最初の一回を、品質保証で二回目以降を取る体制を分けて設計する。まずは自社の看板商品について、海外バイヤーに渡す一枚の資料を『産地名+素材名+一文の物語』に絞り込む作業から始めるのが現実的な第一歩になる。

参照元

この記事を書いた人

大手総合商社にて約8年間、グループ子会社の経営改革や出資先スタートアップとのJV設立を担当。その後インド駐在として、日系大手飲食チェーンのインド展開に従事し、現地に合わせたメニュー開発やマーケティングを推進。

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