ビリヤニ専門店が1都市に20店──パラダイスの単品面展開に学ぶ

ハイデラバード名物ビリヤニの専門チェーン「パラダイス(Paradise)」が、南インドのIT都市ベンガルールに20店舗を新規出店すると発表した。投資額は25クロー(1クロー=1,000万ルピー、25クロー=2億5,000万ルピー。1ルピー≒1.8円換算で約4.5億円)。同社は既にこの街で10店を運営しており、一気に3倍の規模へ広げる計画だ。単品料理に絞ったチェーンが、プライベートエクイティ(PE)の資金を背に1都市へ集中出店するこの動きは、和食・ラーメン・カレーといった日本の専門料理業態がインド都市へ根を張るときの、実務的な手本になる。

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ベンガルール20店増設という起点ニュース

パラダイスを運営するParadise Food Courtは2026年7月、ベンガルールでの店舗数を現在の10店から30店へ引き上げると明らかにした。追加する20店は「幹線道路沿いの路面店」「モール内レストラン」「デリバリー特化のクラウドキッチン」という3業態で構成する。同社CEOのアビク・ミトラ氏は、ベンガルールが「最も成長の速い市場のひとつ」で、既存店の売上が前年比30%伸びていることを増設の根拠に挙げた。

この25クロー投資は、全国で約100クロー(約18億円)を投じて100店を新設するという大型計画の一部にあたる。ベンガルールとチェンナイという既存の強い市場を第1フェーズに据え、そこから面を広げる設計になっている。

なぜPEファンドが「ビリヤニ1品」に賭けるのか

パラダイスの背後にいるのはPEのサマラ・キャピタル(Samara Capital)だ。同社は2014年に70クロー(=7億ルピー、約12.6億円)で35%を取得し、2022年に残る65%を400クロー(約72億円)で買い取って完全子会社化した。つまり今回の全国展開は、投資回収に向けて店舗網を厚くする「二皿目」の局面にある。

パラダイスの全国店舗数は現在57店(ハイデラバード、ベンガルール、チェンナイ、ヴィジャヤワダ、ヴィシャカパトナム、グルガオン)、年商は約300クロー(約54億円)とされる。3年で店舗を約160店へ、年商を550クロー(約99億円)規模へ引き上げるのが公表された到達点だ。プネ、コルカタ、ニューデリー、グントゥール、ワランガルといった新市場への入り方も名指しされている。単品に絞るからこそ、レシピ・調理・立地の型を全国で複製しやすい。PEが賭けているのは料理の多彩さではなく、この「複製のしやすさ」そのものだ。

数字で見るドミナント出店

項目 数値(原資料) 円換算の目安(1ルピー≒1.8円)
ベンガルール新規出店 20店(現10店→30店)
ベンガルール投資額 25クロー(2.5億ルピー) 約4.5億円
ベンガルール既存店の売上成長 前年比30%
全国の新規出店計画 100店(3年で約160店へ)
全国の投資総額 約100クロー 約18億円
現在の年商/到達目標 約300クロー→550クロー 約54億円→約99億円

換算はいずれも2026年7月時点の目安レートによる概算で、正確な円建て金額は為替次第で動く。ここで押さえるべきは絶対額よりも構造だ。1店あたりの投資は25クロー÷20店で約1.25クロー(約2,250万円)に収まり、既存店が二桁成長している都市へ集中的に打ち込む。広く薄くではなく、勝てる街を深掘りするドミナント戦略が数字にはっきり表れている。

現地・業界の受け止め

インド外食業界の関係者からは、「セントラルキッチンを持たずに品質を担保する設計」に注目する声が出ている。パラダイスは巨大な集中調理場(コミッサリー)を新設する代わりに、レシピを中央で一元管理し、自動化された調理システムと実店舗のリアルタイム品質監視、定期監査で味のブレを抑える方針を掲げる。

投資側のサマラ・キャピタル幹部は、パラダイスの「実績ある店舗モデルと最良水準の技術基盤が全国展開を支える」と評価する。一方、外食のアナリストからは「クラウドキッチンを最初から3業態の一角に組み込んだことで、家賃の重い一等地に頼りすぎずデリバリー需要を取り込める」との見立ても聞かれる。単品特化ゆえに厨房オペレーションが単純化され、教育コストと出店速度の両方で効いてくる、という評価が共通している。

日本の専門料理業態への示唆

ここから日本企業が持ち帰れる具体策を、1社1アクションの粒度で挙げる。まず、インドで多品目のメニューを背負ったフルサービス業態でいきなり広げようとしないこと。パラダイスが証明したのは、「1品を深く」の方が全国複製に強いという事実だ。ラーメン、カレー、丼、たこ焼きのような単品訴求の業態を持つ企業は、看板メニューを1つに絞り込んだ現地専用ブランドを設計するところから始めるのが現実的だ。

次に、最初の1都市を「点」ではなく「面」で取りに行くこと。日本の外食はインド進出時に主要都市へ1店ずつ置く発想になりがちだが、パラダイスはベンガルール1都市で30店を目指す。まず1都市を選び、路面店・モール・クラウドキッチンの3業態を同時に走らせて認知と配送網を一気に作る方が、ブランドの初速は出る。すでに現地飲食の潮流を掴みたい担当者は、日本式のバー業態がインドで高級外食の軸になりつつある事例(日本式バーがインド高級飲食のブランド軸になる日)や、インド外食が「飲み会」文化を輸入し始めた動き(インド外食が「飲み会」を輸入、ハイボールで日本ブランドに開く商機)から、単品×体験の掛け合わせ方を掴んでおきたい。

3つ目は、巨大セントラルキッチンを前提にしないこと。パラダイスは集中調理場を新設せず、レシピの一元管理と厨房オペレーションの自動化で品質を揃える道を選んだ。初期投資の重いコミッサリーを建てる前に、まずレシピの標準化と調理工程のマニュアル化で「味のブレない小型店」を量産できる状態を作る。この順番なら、少ない資本でも出店速度を落とさずに済む。

市場への波及──組織化された外食の受け皿づくり

パラダイスの動きは、インド外食が「地場の名物」から「PEが磨く全国ブランド」へ移る流れの一例だ。単品特化QSR(クイックサービスレストラン)の多店舗化は、中華の「Chinese Wok」やグジャラート発の地場QSRなど各地で進んでおり、外資不在の隙間を地元ブランドが埋めている(中華QSR「Chinese Wok」が50都市目に到達、南インド攻略の設計図)。日本の食品・外食企業にとっては、この「組織化された外食」の広がりが、原料供給や設備・レシピ提供といったB2Bの受注機会にもつながる。店舗を出さずとも、標準化を急ぐ現地チェーンへ調味料・冷凍中間品・厨房ノウハウを卸すという入り方が、次の商機になる。

実用情報・関連リンク

ベンガルールは南インドのIT人材が集まる高所得都市で、外食のドミナント出店に向いた市場だ。進出を検討する企業は、まず現地パートナー(フランチャイジーや運営受託)と組める体制を早めに作るのが定石になる。関連する現地事例として、ハイデラバードのIT都市へミシュラン系タイ料理が入った動き(ミシュランのタイ料理がIT都市へ ハイデラバード出店の狙い)も、専門料理×IT都市という立地選定の参考になる。

まとめ──次の一手

パラダイスの事例が示す実行手順は明快だ。第一に、看板メニューを1品に絞った現地専用ブランドを設計する。第二に、進出する最初の1都市を決め、路面店・モール・クラウドキッチンの3業態を同時に立ち上げてドミナントを取る。第三に、巨大セントラルキッチンではなくレシピ標準化と厨房自動化で味を揃え、小資本でも出店速度を維持する。自社に単品訴求の看板商品があるなら、まずはベンガルールかチェンナイのような高所得IT都市を1つ選び、現地運営パートナーの候補洗い出しから着手したい。

参照元

この記事を書いた人

大手総合商社にて約8年間、グループ子会社の経営改革や出資先スタートアップとのJV設立を担当。その後インド駐在として、日系大手飲食チェーンのインド展開に従事し、現地に合わせたメニュー開発やマーケティングを推進。

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