ファーストリテイリング傘下のユニクロが、インド市場における10倍成長を公式に宣言した。2019年のデリー1号店オープンからわずか7年で年率60%超のCAGR(複合年成長率)を記録し、2026年度(FY26)にはさらに44%の増収を見込む。インドはいまやユニクロにとって全世界で最も急速に成長する市場であり、小売だけでなくグローバル調達拠点としての位置づけも急浮上している。日系アパレルがインド消費市場にどう食い込んでいくべきか、ユニクロの戦略から読み取れる教訓は多い。
数字で見るユニクロ・インドの急成長
ユニクロのインド法人は、FY2025(2024年9月期)に純売上高1,175.5クローレ(約200億円)を計上し、前年比44.2%の増収を達成した。FY2026もほぼ同等の44%成長を見込んでおり、売上高は1,600クローレ(約270億円)規模に到達する見通しだ。進出以来のCAGRは60%超と、ファーストリテイリングの全グローバル市場の中でも突出した水準にある。
特筆すべきは、この成長が店舗数の爆発的増加ではなく、既存店の売上成長によって支えられている点だ。現在の店舗数は18店舗で、年間3店舗程度のペースを維持してきた。2026年3月にはムンバイと新デリーで2店舗を新規オープンし、今後はこのペースをさらに加速させる方針だ。1店舗あたりの平均売上が極めて高いことが、少数精鋭の出店戦略でも急成長を実現できている要因といえる。
28〜30店舗への拡大と出店加速戦略
ユニクロは現在の18店舗を、2026年度中に28〜30店舗へと約1.5倍に増やす計画を発表している。出店エリアはデリーNCR(現在7店舗)、ムンバイ、バンガロール、プネーの4都市圏が中心で、今後は南インドのチェンナイやハイデラバードへの進出も視野に入っている。
インドのアパレル市場は2030年までに約1,200億ドル規模への成長が見込まれる。その中でユニクロが狙うのは、ファストファッションの価格帯でありながら機能性と品質で差別化するというポジショニングだ。インドではZaraやH&Mが先行して都市部に浸透しているが、ユニクロはHeatTechやAIRismといった機能性素材を前面に押し出すことで、単なるファッションブランドではなく生活インフラとしての衣料という独自のポジションを築いている。
グローバル調達ハブとしてのインド——調達比率30%への道
販売面の成長以上に注目すべきなのが、ユニクロが打ち出したインドをグローバル調達ハブにするという戦略転換だ。現在のインドからの調達比率は15〜16%にとどまるが、これを30%へと倍増させる計画を明らかにしている。
背景にあるのは、中国依存リスクの軽減と、インドの繊維産業のポテンシャルだ。インドは世界第2位の繊維輸出国であり、特にリネン、コットン、ポリエステル混紡などの分野で質の高いサプライチェーンを有している。ユニクロは南インドの温暖な州を中心に新たな供給網を構築し、AIRismやリネン衣料の現地生産・現地調達を拡大していく方針だ。
この動きはユニクロ単独の話にとどまらない。米中関係の緊張やサプライチェーンの地政学リスクを受けて、グローバルアパレル各社が中国からの調達先を分散させるチャイナプラスワンを加速している。その最大の受け皿としてインドが浮上しており、ユニクロの戦略はこのトレンドを象徴するものだ。
インドの消費者をどう攻略しているのか
ユニクロのインド戦略で見逃せないのが、徹底した商品ローカライズだ。インドは高温多湿な気候が長期間続くため、日本市場で冬季の主力であるHeatTechの需要は限定的だ。代わりにユニクロが注力しているのは、AIRism(吸湿速乾)やドライEXなど暑さ対策に特化した機能性インナーやTシャツ群である。
さらに、インドの消費者は色彩感覚が日本とは大きく異なる。ユニクロは鮮やかなカラーバリエーションや、インドの祝祭シーズン(ディワリ、ホーリーなど)に合わせた限定コレクションも展開しており、グローバルブランドでありながらインドのための商品を提供する姿勢を強化している。
価格帯も重要な要素だ。インドの中間所得層は拡大を続けているものの、ファッションに費やせる金額は日本の消費者と比較すると限定的だ。ユニクロはインドでの価格帯を日本よりもやや低めに設定し、特にTシャツやインナーなどのエントリー商品でまず顧客基盤を広げ、その後ジャケットやパンツなど高単価カテゴリへと誘導する戦略を取っている。
日系アパレルへの示唆——ユニクロモデルから学べること
ユニクロのインドでの成功は、日系アパレル全体に対して重要なメッセージを発している。第一に、品質と機能性で勝負するというアプローチがインド市場でも有効であるという証明だ。価格競争に巻き込まれやすいインドのアパレル市場において、素材技術による差別化は強力な武器になる。
第二に、出店戦略は量より質が有効だという教訓がある。18店舗という限られた拠点数で年間200億円規模の売上を達成しているユニクロは、1店舗あたりの生産性を極限まで高めるモデルを実証している。インドでは家賃や人件費の高騰が課題となっており、むやみに店舗を増やすリスクは大きい。
第三に、調達と販売を一体で考える現地完結型のビジネスモデルへの移行だ。インドで作り、インドで売り、さらに第三国への輸出も視野に入れるという三重構造は、為替リスクの軽減と利益率の改善を同時に実現する。日系のアパレルメーカーや繊維商社にとって、この調達プラス販売モデルは参考になるはずだ。
今後の注目ポイント
ユニクロのインド事業は、次の数年で真の試金石を迎える。28〜30店舗への急拡大に伴うオペレーション品質の維持、南インドという未開拓エリアでのブランド認知構築、そして調達比率30%への引き上げが計画通りに進むかどうかが短期的な焦点となる。
中長期的には、EC(電子商取引)戦略の強化も注目される。インドではMyntraやAjioといった現地ECプラットフォームがアパレル販売の主要チャネルとなっており、ユニクロがこれらのプラットフォームとどう連携するか、あるいは自社ECを軸に据えるかが、成長の持続性を左右するだろう。
いずれにせよ、ユニクロの「インド10倍成長」宣言は、単なるスローガンではなく、具体的な数値目標と戦略に裏打ちされたものだ。インド市場の開拓を検討している日系企業にとって、そのアプローチは多くのヒントを含んでいる。
インド進出や現地でのマーケティング戦略にお悩みの方は、SoJapanへお気軽にご相談ください。ユニクロのインド調達ハブ戦略の詳細や、日系メーカーのチャイナプラスワン動向も併せてご覧ください。