ムンバイの高感度エリア・バンドラに、東南アジア6カ国の屋台料理を1店で味わえる約60席のストリートフード店「Seasee」が2026年6月24日に開業しました。手がけたのは、同じバンドラで日本・韓国料理店「Mirai」を運営する飲食起業家のSaamir ChandnaniとRinchen Angchukの2人です。日本の調味料・食品メーカーにとって、この出店は「インドの富裕層・ミドル層がアジアの味をどう受け入れているか」を読むうえで具体的な手がかりになります。タイ・ベトナム・インドネシア・マレーシア・シンガポール・フィリピンの料理をひとつの空間に束ねる発想と、対話型ウォックステーションという体験設計に、自社製品が入り込む余地が見えてきます。
Seaseeはバンドラに何を開いたのか
Seaseeは、東南アジアの屋台市場を旅した2人の創業者が「混雑した食のストリートに何度も戻ってしまう」という体験から着想した店です。約60席の空間にトムヤム、ベトナムのフォー、タイのマンゴーサラダ、チキンサテ、シンガポールのチリクラブ、パッタイ、ミーゴレン、タイのグリーンカレー、海南チキンライス、パッガパオ、マレーシアのチャークイティオといった、対象6カ国を横断するメニューが並びます。マンゴースティッキーライスやパンダン風味のバスクチーズケーキなど、デザートにも東南アジアの食材が使われています。
店の中心にあるのが、麺やご飯を客が自分好みにカスタマイズできる対話型ウォックステーションです。ステーションへ直接注文した客は優先的に提供を受けられる設計で、屋台特有の「目の前で調理される臨場感」を店内に持ち込んでいます。内装はムンバイの飲食空間を手がけるHoly Duckのチームが担当し、共同テーブルを軸にした屋台風のレイアウトでまとめています。
同じ創業者の前店が「日本料理」だった意味
注目したいのは、SeaseeとMiraiが同じバンドラで、同じ2人の手によって連続して生まれている点です。Miraiは日本料理と韓国料理を「陰と陽」として組み合わせた店で、握り寿司やラーメン、ヴィーガン仕様のうな丼まで含む構成でした。つまりこの2人は、まず日本・韓国というアジアの味を富裕層向けの空間に翻訳し、次に東南アジア6カ国へと対象を広げています。
ムンバイの飲食起業家が、日本の味を扱った経験を土台に東南アジアへ展開しているという順序は、日本の食品・調味料メーカーにとって示唆的です。Miraiで握り寿司やラーメンが成立する商圏には、醤油・味噌・出汁・ヴィーガン対応の和素材を受け入れる土壌がすでにあります。そしてSeaseeのウォックステーションは、ナンプラーやチリ、東南アジアのハーブを主役に据えていますが、こうした「アジアの調味を客の目の前で組み立てる」体験型のフォーマットは、日本の調味料が後から差し込める設計でもあります。
数字で見るインドのアジア食ニーズ
背景には、インドにおけるアジア料理需要の拡大があります。インドのソース・ドレッシング・調味料市場は2024年に約47.3億ドルと推計され、2030年には約81.4億ドルに達する見通しで、年平均成長率は約9.56%と試算されています。日本産のソース・調味料の対インド輸入額は2023年に約90万ドルで、前年比約11.94%増という伸びを見せました。
| 指標 | 数値 | 出典・前提 |
|---|---|---|
| インドの調味料市場規模(2024) | 約47.3億ドル | 市場調査レポート |
| 同市場の2030年予測 | 約81.4億ドル | 年平均成長率 約9.56% |
| 日本産ソース・調味料の対インド輸入額(2023) | 約90万ドル | 前年比 約11.94%増 |
| Seaseeの座席数 | 約60席 | 店舗発表 |
| Seaseeが扱う国数 | 6カ国 | タイ/越/尼/馬/星/比 |
1ドル=約155円前後で換算すると、対インドの日本産調味料輸入は約1.4億円規模にとどまり、市場全体に占める割合はごくわずかです。裏を返せば、Seaseeのような「アジア横断型」の店が増えるほど、日本産調味料が入り込む隙間も広がるということです。なお、これらは外部市場調査と貿易統計に基づく概算で、円換算は執筆時点のレートを目安にしています。
現地・業界の受け止め
現地メディアは、Seaseeを「6カ国の屋台体験を1店で完結させる」フォーマットとして紹介し、対話型ウォックステーションと共同テーブルの設計に注目しています。創業者は「ホスピタリティ業界での経験を経て、東南アジアを旅するうちに、いつも混雑した食のストリートに戻ってしまった」と開業の動機を語っています。
飲食業界の関係者の間では、Miraiの日本・韓国路線に続くSeaseeの東南アジア路線を、同一チームによる「アジア食ポートフォリオの拡張」と見る向きがあります。1店ごとに国を絞り込むのではなく、屋台というテーマで複数国を束ねる手法は、客に「アジアの味の見本市」を体験させる狙いがあると受け止められています。富裕層向けの空間でストリートフードを再構成する流れは、ムンバイの上位レストラン群で続いており、Seaseeはその系譜に連なる出店です。
日本企業が読むべき示唆
この1店から、日本の食品・調味料メーカーが取れる具体的なアクションは「東南アジア屋台フォーマットに、和の調味料を1品ねじ込む提案」です。Seaseeのウォックステーションは、客が麺やご飯に好みのソースを合わせる体験を売りにしています。ここに、日本産の醤油ベースの照り焼きだれや柚子胡椒、ごまだれといった「東南アジアの料理にも違和感なく合う和の調味」を、選択肢の1つとして卸す余地があります。屋台という枠組みは国境がゆるいため、タイのチリやベトナムのヌクマムと並べても浮きません。
ムンバイで日本料理店(Mirai)と東南アジア店(Seasee)を同じチームが回している事実は、調味料の納入先を1店ではなく「同一オーナーの複数業態」として捉える発想を促します。和素材に理解のあるオーナーが運営する店は、新しい調味料のテスト導入に前向きな傾向があります。乾燥野菜や乾燥フルーツのような日本産の加工素材も、デザートやサラダのトッピング素材として、こうした実験的な店から入れていく道筋が考えられます。
あわせて参考になるのが、他都市での同種の動きです。ハイデラバードのタイ料理店の事例(Baan Phadthaiのハイデラバード出店)や、ムンバイ・コラバの店舗動向(コラバの新店事例)を併せて見ると、東南アジア・アジア食の出店が特定都市に偏っていないことが分かります。
市場への波及
Seaseeのような「複数国を1店で束ねる」業態は、調味料サプライヤーにとって取引単位を変えます。1カ国の専門店なら必要な調味料は数種類ですが、6カ国を扱う店は、各国分のソース・ペースト・ハーブを同時に仕入れます。これは卸す側にとって、1度の商談で複数SKUを提案できることを意味します。日本産調味料を「アジア食材セット」の一角として束ね売りする発想が成り立ちます。
また、ムンバイの夜間消費が伸びている点も無視できません。バンドラのナイトライフ動向(ムンバイの夜間消費の広がり)が示すように、屋台風の店は昼夜を通じた集客が見込めます。カクテルに東南アジアのハーブやトロピカルフルーツを使うSeaseeの設計は、ドリンク用素材としての和の柑橘やシロップにも商機を残しています。
実用情報・関連リンク
Seaseeはムンバイ・バンドラに位置し、約60席の規模で東南アジア6カ国の屋台料理を提供しています。日本の食品・調味料メーカーがインドの飲食店に売り込む際は、まず同一オーナーが複数業態を持つ店を起点に、和の調味料を1品からテスト導入してもらう交渉が現実的です。アジア食の出店が進む都市を横断的に押さえておくと、提案先の選定がしやすくなります。
まとめ:次の一手
Seaseeの出店から日本企業が取るべき次のアクションは3つに絞れます。1つ目は、ムンバイで日本料理と東南アジア料理を同時に運営するオーナー層をリスト化し、和素材に理解のある運営者へ優先的に当たること。2つ目は、単品の調味料ではなく「東南アジア料理にも合う和の調味」という文脈で、照り焼きだれや柚子胡椒などをウォックステーション向けに提案すること。3つ目は、乾燥野菜・乾燥フルーツをデザートやサラダのトッピング素材として、実験に前向きな新店から小ロットで納入していくことです。1社1店から始める具体的な営業設計こそが、47.3億ドル規模に伸びるインド調味料市場への現実的な入口になります。
参照元
- Restaurant India・Seasee opens in Bandra, bringing Southeast Asian street food to Mumbai
- Indian Retailer・Explore the Authentic Flavors of Japanese and Korean Food with Mirai, Mumbai
- Tridge・Rising Demand for Japanese Sauces in India
- MarkNtel Advisors・India Sauces, Dressings & Condiments Market Size & Forecast, 2030
